第8話 裏の顔
日が落ちようとし、無機質な音を鳴らす時計が下校時間まであと二十分をさしている。燃え盛る火のように真っ赤に染まった夕日が透明なガラスの窓を通して、恍惚な表情を浮かべている一人の少女を照らした。
「ふふ、やーっと入ってくれたんですね。白河君。」
目を細め、口角が上がった表情はコレクターが自慢のコレクションを見ているようだった。
少女は白河紅生の写真を見つめていた。
写真はどこかで撮った白河が学校で過ごしている写真。欠伸をしている白河。登校している白河。友達とじゃれている白河。給食を食べている白河など何枚もの写真が少女の前にある長机に置いてあった。
それらの写真は全て白河。宝物のように写真を扱う少女は白河に特別な感情を抱いているようだった。
少女の腰まで伸びた長く、美しい藍色の髪は蛇のようにいくつかの束をつくって、それぞれが異なる方向へうねっている。まるで生きているかのように。髪は収納ボックスやホワイトボードなどを倒そうとしていた。
「最近この力使っていませんでしたからね、我慢できなかったんでしょう、まさかあんな風になるなんて予想外でしたけど。でも家に帰ったら十分に暴れさせてあげますからこの部屋で暴れるのはやめてください」
少女はなだめるように束にわかれた髪に言った。髪は大人しくうねりを止めた。
「今日はありがとうございます、あなたたちのおかげで白河君に守ってもらっちゃった。白河君ってやっぱりすごく優しいんですね。」
ふふふと少女は子供のように目を細めて笑った。
少女は棚から錆びついた赤色のノートを取り出し、ページをめくった。最初のページから数枚たったところでめくる手を止めた。
「計画はうまくいっている。嘘なんかついてごめんね白河君。でもこれはあなたのためでもあるんです。」
少女は満足そうに指の腹でノートを撫でた。
「新たな白河君の表情も見れますからね。私の本性を知ったときあなたはどんな表情をしてくれるんですか?」
白河の、自分が考えられる限りの表情を想像した少女は天井を煽り絶頂に達した。
「まあ、答えはあなただけが知っています。ふふふ、楽しみですね白河君。これから行われる体育祭、どんなことが起きるんでしょうね。」
少女は答えを知っていた。しかし、そこに白河がいるかのように真っ白な壁に向かって言っていた。写真と一緒に抱きしめられたノートには少女が考えたなにかの計画の全てが書いてある。
この特別な感情は愛。またの名を狂気。
少女の名前は細川紫苑。
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