第5話 ありがとう

僕がやったのか?本当に僕が?思い出せっ、こんな残酷なことを本当に僕がやったのかどうかを。


必死に思考を巡らせて、思い出せたのは頭の中で何者かの声が聞こえたところまで。その後からはすっぽりと消えている。


辺りに散らばった肉片を見た。

「うっっ...」

血の匂いが頭を溶かしていく。気持ち悪い...。これじゃあ、あいつと同じじゃないか。


「ん...いたっ...」

「細川さん!?大丈夫?」

細川が痛んだ体を押さえながら起きあっがった。そうか、細川さんは助かった、んだよな。だけど細川さんはぐったりしている。はやく保健室に連れて行かないと!


僕、運べるかな...細川さんの方が身長高いし......。力無いし...。

「真田先輩、運ぶの手伝ってくれませんか」

「もちろんだ、協力しよう」

こういうのって一人で運んだ方がかっこいいよな。ちょっとだけカッコつけたい気持ちはあったけど、細川さんの安全の方が第一だから。


僕と真田先輩で細川さんを担ぐようにして運んだ。

「女子なのにこんな運び方でいいのか?」

あ。たしかにこれじゃあ細川さんは足が引きづられてしまう。


「俺が運ぼう」

真田先輩ははにかんで細川さんを姫抱っこした。それはまさに姫を助ける王子のよう。僕はため息をついた。あーあ、僕にもこんな力があればなあ。


「大丈夫、鍛えればすぐできるさ」

顔に出てたらしい。恥ずかしい......。


なんやかんやで保健室についた。保健室に行くまでの間、周りの人は姫と王子の姫抱っこにキャーって言ったり、嫉妬したりしていた。ちなみに僕は付き人。

僕が扉をノックすると保健室の先生が出てきて、

「どうかした?...まあ!大変じゃない!」

細川さんはすぐさまベッドに入れられた。


「じゃあ俺は戻るよ、白河は彼女のそばにいてやれ」

「...はい、ありがとうございます!」

やっぱり真田先輩かっこいいな...僕もあんな風になれるように頑張ろう!明日から...。


今の僕が細川さんに出来ることはそばにいることしかできない。それしか出来ないけど、それだけが出来るんだ。


「先生、細川さんはどうなんですか」

「傷一つないわ、でも今は安静にしといた方がいいわね」

先生は何があったのと聞きたそうだったが、どうやって説明すればいいのか僕にはわからなかった。先生はそれを察したのか保健室に来た生徒を記録する紙には急な発熱と書いてくれた。


「ありがとうございます」

「別にいいわよ、こういうことたまにあるからね、ちょっと出るから細川さんの様子見ててくれる?」

「はい」


僕は細川さんが眠っているベッドの横に置いている椅子に腰かけた。細川さんは安らかに眠っている。ケガがなくてよかった...。女の子に肌に傷がついたらダメだもんね。


「ん...しらかわ、くん?」

細川さんは目覚めたようだ。重そうな瞼を何度も開いたり閉めたりして僕を確認している。


「細川さん?まだ寝てなきゃダメだよ!」

「大丈夫ですよ、白河君のおかげで。元気です。それより白河君も大丈夫ですか?」

「え?」

僕なんかした?


「蛇の...死体を見たときだいぶ動揺していましたから。」

目が点になるほど意外だった。細川さんは見ていたのか、あの時の僕を。見られてたなんて恥ずかしいな。かっこ悪い。


「かっこ悪くなんかないですよ。それに心配しなくて大丈夫です。あれは幻覚ですから」

どうゆうこと?


「私もよくわからないんですけど、あんな巨大な蛇いるわけないじゃないですか。」

そっか、それもそうだね。


「だからあんま気にしないでください。私が倒れたのは体調不良ですから。自分を、責めないでください。」


ああ、細川さんはわかっちゃうんだな。人間の些細な感情の変化を。細川さんもああ言ってることだし、今回のことは悪夢なんだ。


「でも、助けてくれて本当にありがとう、白河君。感謝してもしきれないです。」


ううん。僕も、いつも助けてくれて本当にありがとう。

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