第4話 助けたかったんだろ

周りにはバラバラになった巨大な蛇の死体。その中心にはさっき知り合ったばかりの白河紅生の変わり果てた姿があった。


茶髪の髪は真っ赤な色に染まり、純粋だった瞳には怒りが映っていた。細いと思っていたが筋肉も見てわかるようにはっきりとついている。これは...本当に白河なのか?...いや何かが白河を変えたんだ。

本当の白河自身を飲み込んだように。


蛇の血を全身で浴びた白河は自分が殺したさっきまで苦しめていた蛇に見向きもせず、ゆっくりと細川紫苑を巻きつけている蛇のもとへ歩き出した。蛇に締め付けられている細川はぐったりとしている。俺は何も出来ずただ立ち尽くすだけだった。


あれは今部室にあるし、今の状況で変化させるのは得策じゃない。蛇と相性が悪いんだよ俺の力。かといって二人をそのままにするのは博打だ。白河の力はまだどれくらいかわからないし、だいたい、蛇女が蛇に襲われるってどういうことだ?


...とりあえず様子を見てみよう。動くのはそれからだ。これも入部テスト、だ。


白河が蛇達の前に立ったとき、蛇の一体が気づき白河へと伸びた。その時、


白河が片手で蛇の頭を捻り潰した。


一瞬の出来事だった。蛇は悲鳴をあげ、抵抗しようとするも、悲鳴をあげているうちにいとも簡単に、中身がなくなった空き缶のように、全身が潰されていた。


ふと白河の足下を見ると、

鬼だ。

逆立った髪。鋭い二本の角。筋肉で固められた巨大な全身。白河の影はまさにその鬼になっていた。ゆらゆらと蝋燭に灯った火のように鬼の影が揺れている。


俺は空いた口の広角が上に上がるのを抑えられなかった。

「やっと見つけた、鬼の影を持つ者!」


「先輩何か言いました?」

影は普通の人間に戻っていた。白河も元の姿に戻っていた。白河の周りには細川を巻きつけていた蛇の無残な姿。一匹残らず燃え尽きた死体となっていた。辺りに舞う蛇の血の匂いが頭を支配し始めた。


「っ!?」

白河はやっと自分の周りが死体だらけなことに気づいたようだ。怒りで真っ赤だった顔は一気に青ざめていった。


「あ...あ......誰が、こんなことを...」

血に染まりきった白河は自分がさっきまで行なっていた残虐な行為を覚えていないようだ。そんな奴に真実を伝えてよいのだろうか。


蛇の死体に酷く混乱している。無垢な瞳が映していたのは絶望だった。発作を起こしそうなほどにうろたえている。俺が黙っていると

「僕が...やったんですか...?」


つい、頷いてしまった。白河は肩を震わせ、瞳には透明な雫が溜まっていた。その肩を静かに抱いた俺はこんなことしか言えなかった。


「それでも助けたかったんだろ」

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