第3話 鬼の覚醒

この声、これは細川さんの悲鳴だ。何かあったんだ!


「細川さんっ!細川さーーーん!」

真田先輩と合流し、僕たちは細川さんの悲鳴がした方に名前を叫びながら急いで向かった。どうか、無事でいてくれ!

探していたところからまっすぐ行ったところに細川さんはいた。


だけど、そこにあったのは信じられない光景だったんだ。


大量の大きな蛇が細川さんを巻きつけていた。蛇が細川さんの細い身体を締め付けるたびに細川さんはか細い抵抗するような声を出した。


初めて見た異様な光景に僕は呆気にとられていた。細川さんの体の三倍はある巨大な蛇が数十匹も細川さんを締め付けているのだ。


「......とんでもないことになったな」

真田先輩が息を切らしながら言った。

一体あれはなんなんだ?どうしてこんなことが起こっているんだ?突然のことに固まっている僕たちを細川さんが苦しそうな瞳で訴えた。


「し、ら、かわ、くん...」

細川さんが消え入りそうな声で僕の名前を呼んだ。苦しそうな表情で、助けを求めるかのように。

頭が真っ白になってしまった僕は、何故だか細川さんと出会ったときのことを思い出していた。



「あなたが転校してきた白河紅生君ですよね。私は細川紫苑。生徒会副会長をさせてもらっています。学校案内してもいいですか?」


転校してきたばっかりで右も左もわからない僕に最初に話しかけてくれたのが隣の席の細川さんだったんだ。初めての土地で不安だったけど細川さんは丁寧に教えてくれた。


学校のことやこの街のこと、クラスメイトのこと。僕がたった二週間でこの学校に馴染めたのは全部細川さんのおかげだった。細川さんには感謝してもしきれない。


そんな細川さんが今苦しんでいる。僕が助けないでどうするんだ!


「細川さんを離せよ!!」

僕は細川さんを巻きつけている蛇達をかきわけようとした。だけど、

ビクともしない!


「真田先輩、手伝ってください!」

「ああ」

とっさに真田先輩に助けを求めた。真田先輩が細川さんを助ける義理はない。

だけど真田先輩も蛇たちを睨み、険しい表情をしていた。真田先輩と一緒に蛇をかきわけた。二人がかりで引っ張ったりして、どれだけ僕たちが力を入れようとも蛇達はビクともしない。


それどころか蛇たちが細川さんを締め付ける力はどんどん強くなっている。


「離せ、離せ、離せ!」

敵わない蛇に僕は必死で怒りをぶつけた。その微かな雰囲気に気づいた一匹の蛇が僕を殺すような赤い目で睨んだ。


「あ......」

一匹の蛇が僕の体にまとわりつき、あっという間に僕を締め付け、空中に浮かせた。地面からは五メートルぐらい離れ、蛇のヌメッとした体を間近で感じた。


蛇は見定めるように顔を近づけた。伸びた舌は舐め回すように僕の全身を回った。


その間、僕はどうしようもない恐怖に襲われた。


どうなるんだろう。この距離から落とされれば死ぬのか。それとも体をきつく締められて真っ二つになるんだろうか。それとも巨大な口で丸呑みにされてしまうのだろうか。全身が青ざめるのが自分でわかった。怖い、誰か助け......


「し、ら、かわ、くん...」

細川さんのあの声が頭に響いた。

細川さんの方が辛いはずなのに僕が怖がっててどうするんだよ。助けるって自分で決めたくせに、情けなさすぎる。これからもう細川さんとまともに顔を合わせられないよ。


「離せよ」

独り言のように呟いた。


「離せよっっっっっ!!!!」

精一杯の力を込めて蛇から体を離そうとした。体を左右に大きく揺らして必死の抵抗をした。でも...根性なんかじゃどうにもならない。どうすればいいんだよ。このままみんな、死んじゃうのかな。


ごめんね、細川さん。僕のことたくさん助けてくれたのに。僕は君のこと全然助けてあげられなかったよ。恨むよね、きっと。本当にごめん......。


僕はもう諦めていた。僕を締め付ける蛇の力はどんどん強くなってきて、僕はどんどん意識がなくなっていった。



今こそ目覚めるときだ。

お前の秘めるものを解放させろ。

わしに体を授けるがよい。


突然野太く低い声が頭に響いた。誰?僕の心の中に語りかけてくるのは...初めて聞くような、懐かしいような...。


「うっ!」


熱い、体が、あつ、い。過呼吸になるほど体の内側から熱が込められる。抗う力ももう残っていない。マグマに放り込められた気分だ。熱は全身に伝わった。まるで僕を支配するかのように......


「うぉぉわぁぁぁぁっっっ!!」

熱が全身に伝わりきったとき、体に巻きついていた蛇はバラバラになり、自分の足は地についていた。

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