33.ペンギンさんですか、それとも
「あの日は、プヌマルバヤの用事でお姉ちゃんは家に居なかったの」
あのあとしばらく経ってから、ヨウシアを連れたエクェィリが、更に遅れてコスフィがガゼボまで来た。ヨウシアは相当ヘイプに振り回されたそうで、かなり疲れた顔になっていた。みんなでお茶を飲み、それぞれがそれぞれの実家の車に乗ったら、解散だ。
「お祭りだからって、普段いる使用人たちも全員出払ってた。だから、普段よりもいい子にしてなきゃってわたしは思ったの」
車の運転手は実家にと言ってきたけれど、わたしは寮に帰りたかった。そのほうが、ヘリヤとゆっくり話ができる。
実家に寄って、ほとんど無い荷物をまとめて、寮に帰った。
「そうしたら、夕方くらいになって、わたしを見るために家に残っていた家庭教師が、良い子にしていたから、わたしにご褒美をくれるって言ったの」
寮の部屋に帰って、楽な服に着替えて、ソファーに座る。台所ではペンギンさんが何かを作っている。きっと、簡単につまめるような軽食だ。
マトはわたしがまた混乱することを警戒しているのだろう、隣に座ってくれている。ローテーブルに置いた鏡の中、ヘリヤに向かってわたしは話す。
あの日、小さなトランクケースを差し出され、わたしはそこに入るように言われた。口に布を詰められた。「この布を取ってはいけない」と言われれば、当時のわたしは従うしかなかった。
狭くて、苦しくて、痛くて、怖かった。やっとトランクケースが広げられ、「出ろ」と言われても、すぐには動けなかったくらいだ。
今にして思えば、あれは祭祀庁のすぐ近くだったとわかる。
「地面に寝かされて、……花火が、綺麗だった」
体が震える。
涙が自然とこぼれてきた。
温かいのは、マトが上着をかけてくれたからだ。
「怖くて、悲鳴をあげたけど口に入れられた布のせいで声が出せなくて、すごく、痛くて、怖かった」
もてもてと、ペンギンさんがやって来て、わたしにぴたりと寄り添ってくれた。
違うペンギンさんが温かい飲み物を出してくれ、更に違うペンギンさんがピンチョスのような料理の載った皿をテーブルに置いてくれる。
……あの日。
痛くて、怖くて、混乱しきったわたしを助けてくれた影の形は、ペンギンの姿をしていたような気がする。
黒くて、小さな影があの女を突飛ばしたのをわたしは見ていた。影が気を失ったわたしは、母親のサバクであるベルサに保護されたらしい。
あの女は、父親のサバクであるイルヤナが捕らえてくれたそうだ。
もともと、イルヤナは家庭教師を疑っていたらしい。ただ、ああまでの扱いをわたしたち姉妹が受けているとまでは考えていなかったそうで、両親と、サバクたちと、使用人全員から、ものすごく謝られたことは今も忘れられない。
相変わらず、両親は忙しくしているけれど、前よりも家に帰るようになったし、帰れないときはイルヤナかベルサが絶対に様子を見に来る。
使用人の数も増え、ずいぶんとみんなが過保護になった。
「これからは、あたしとぉ、マトがぁ、しっかりクオラを守るからねぇ」
マトに肩を抱き寄せられる。
「俺たちが、一生あんたの傍にいて、守ってやるからな」
「……うん」
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