第漆話

カタカタカタカタ…。

「あーっ!駄目!」

私はそういって、椅子の背もたれにどっかりと体を預けた。

「なんでこんなの書かなくちゃいけないのよ…。」

私は自分の仕事に嫌気が差していた。

…そんなことを思っていたら、気配を感じた。

振り向くと、私のベットにお爺ちゃんが杖を膝に置いて腰かけていた!?

「…お爺ちゃん?」

「なんじゃ?」

「…どっから入って来たの?」

「さぁな。」

『参ったなぁ…。』

「お爺ちゃん、ここは私のお家だから取り敢えず出て行ってくれますか?苦笑。」

「なんの、気にせず仕事に励め。」

お爺さんは、場の状況を理解せずに微笑む。

「いや、お爺ちゃんがいたら励めないんですが…汗。」

「おってもおらんでも、励めぬようなことを言っておらんかったか?笑。」

『…爺ぃ…。』

「お前さん、物書きか?」

「ま~…一応。」

「どんなもん書いておるんじゃ?」

「エッセイとか…かな。汗。」

『官能小説なんて言えるかい!』

そう、私はすっかり官能小説作家になってしまった。

本当は純文学志望で、よく作品をコンテストなどに応募していた。

しかし、どれもこれも良い結果には繋がらなかった。

鬱憤うっぷんが溜まって、ヤケクソで官能小説を書いてみたら…、

これが当たった。

最初の頃は、読者がいることに喜びを感じていたが、それも今となってはただの飯の種。

正直、ストーリーを考えるのもうんざり。

「ほー。で、なんで駄目なんじゃ?」

「私、そういうの好きじゃないんですよ。苦笑。」

「では、辞めればよかろう?」

「生きていくには、お金を稼がなきゃいけないでしょ?」

「そんなもん、他にも方法はあるじゃろ。」

「それは、そうなんですけどね…。」

私は腕組みしながら考えてしまった。

『確かにこだわることはないのよね…。』

「お前さん、結局それが好きなんじゃろ?」

お爺ちゃんは優しく問いかける。

確かに、なんだかんだいったって、書くこと、それを人に伝えることは好きだ。

そして、そのチャンスを貰えてる。

『…でもね~。』

「お前さんの今、書いてるもんが不本意だとするならば、お前さんの本位とするものに繋がるような【選択】をしていけばいいんではないかの?」

「いやぁ、そんな簡単にはいかないですよ。」

「簡単にいくようなことなら、苦労はせんじゃろ。笑。」

お爺ちゃんは膝の上で杖を転がす。

「それはそうですね。苦笑。」

「じゃが、簡単にいかずとも、書いたもんが何処かの誰かひとりにでも伝われば、

またそのひとりから繋がっていくこともあるのではないか?」

私は『!?』と思った。

私はお爺ちゃんをじっと見る。

そう…私はいつからか、売れることばかりに気持ちが傾いてしまっていた。

本来の書きたいという思いや、誰かに伝えたいという熱意は、一体何処へ行ってしまっていたのだろう…。

「お爺ちゃん!あいがとう!なんか書けそうな気がしてきました!」

私はそういうと、パソコンに向き直り、新しいページを作成する。

『そうよ。一人の人の為の小説だっていいじゃない!』

画面が新鮮に見える。

「あ!?お爺ちゃん、あっちに冷蔵庫があるから、好きな物飲んでいいですよ!」

私はそう言って書き始めた…が、返事がないのが気になって、ひょいと首だけ回してみると、お爺ちゃんの姿はそこにはなかった。

「お爺ちゃん?…。」

徹夜続きだったので、幻覚?とも思ったけど、私のベットには、お爺ちゃんが座っていたお尻の跡と、お爺ちゃんの着物の香りが微かに残っていた―――。


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