第10話


いやあ、ギルドマスターが第2形態! とか言いながらただ黒のロングコートを着て復活して、一瞬でジャンに斬り殺されてたの、めっちゃ面白かったな。


第13形態で、「ハッハッハー! ここネタ切れだったから自害するわ! ユダっぽいし!」とか言いながら自分で心臓にナイフ突き刺したのも、精神攻撃としては優秀だった。


第50形態で50人に分裂したのも面白かった。瞬殺だったが。


ギルドマスター、は正直クソ弱い。

多分、暗殺者ギルドに所属するどんな暗殺者よりも弱い。


けど、不死身なんだよね。


一回不意をついて暗殺してみて、初めて知ったんだよ。


そんとき、あっさり殺せちゃったから。


でもすぐ生き返ったんで、ギルドマスターが「うわーん、192号がいじめるよー!」とか言いながら暗殺ギルドの幹部に泣きついた。

そのせいで私はお仕置きとして頭蓋骨を……あ、いや、言わないでおこう。グロい。


にしたってギルドマスター、ちょっと間抜けすぎないか?

コメディ映画か、なにかか、これは。


呆れとともに私がひょっこりその場に顔を出すと、ギルドマスターと騎士たちが一斉に私を見た。

あ、この感じ、近くにいるのはわかってたけど出てきたのには驚いたわー、っていうのだ。

この人たちには私の気配なんてバレバレか。


「どうしてこの子、ここにいるんスかね」

「なんで起動しないんだー!? 芸術的な大爆発スペシャルが繰り広げられる予定なのに!?」


ギルドマスターは動揺しきっている。

ポチッとな、でこの本部を全部爆破する気だったらしい。なんだその計画。


ギルドマスターは死んでも甦れるけど、他の暗殺者はそんなことないんだぞ。

まあ、そんなことに配慮できるなら、こんなクソみたいな組織は出来上がってないよな。


何度押しても、そのスイッチは反応しない。


それもそのはずだ。

そのボタンによって起爆するはずの爆弾は、私がすでに回収した。


下っ端騎士を見捨てて、さそりから逃げて、私がしたのが、それだった。


暗殺者ギルドに爆弾仕掛けられてるのは、知ってたんだよね。

多分、こういう展開になったら、やばいんじゃないかと思って。

絶対、ギルドマスター、容赦なく押すと思って。


騎士団の幹部達が、こんなちゃちい爆発で死ぬとは思えなかったけど、だけどやっぱり、騎士団全員が強いわけじゃないから。

暗殺者が死ぬのは構わないけど、騎士団の誰かも死んじゃいそうだったし。


下っ端騎士の身代わりになろうとするより、勝ち目のない戦いをさそりに挑むより。

これが一番、騎士団の助けになるんじゃないかと思ったから、爆弾を解体した。


私が手のひらで爆弾の一部を弄んでいるのに、ギルドマスターはようやく気がついたらしい。


「お、おまえのせいかー! う、裏切ったのかー!」


裏切るも何も、最初から仲間になった気はないって。

むりやり従わせてただけでしょうが。恐怖政治だよ。政治でもないよ、世紀末だよ。

世紀末ヒャッハー暗殺者組織に無理やり加入させられてただけだよ。


「お前がこの任務を終えた暁には、『くじら』っていうコードネームをあげようと思ってたのに! そのために背中にくじら座の焼け跡つけたのにー!」


背中焼ごてで焼いたのってそういう意味かよ。


いや、くじら座ってなに、知らんわ。

マイナーすぎる。私、12星座もパッと言えないレベルだよ?

聞いたこともない。


え、ええー? 勝手によくわからないキャラクターの刺青を掘られた気分ってこんな感じ?

くじら座って……ええー……どうせなら北斗七星が良かった……。


192号って呼び名から、くじらに変わるのか。


うーん、微妙。体格的にあってなさすぎない、その名前?

私、ただのクソチビなんだけど。


っていうか、この組織コードネームあったんだ。


……星座にまつわるコードネームか。


だから「さそり」ね。はいはい。

ってことは他にも、「しし」とか「てんびん」とかいるんだ、聞いたことないけど。

あ、「やぎ」っていう暗殺者がいるのは知ってるな。


というか、私が死ぬほど嫌いな、透視の魔眼持ちの暗殺者が「やぎ」だ。

一緒に任務こなしたことがあるし、口上も聞いたことがある。


「『やぎ』だけに、『目ェ』がいいってね。魔眼でなんでも見通しちゃう、暗殺者『やぎ』! よろしくな!」


そのときは、傷を負ってもいないのに血反吐を吐くかと思った。

……なるほど……うーん……。


……微妙。

絶妙にかっこ悪い。


「俺の野望を砕くなんて……! くじらちゃんのバーカバーカ!」


どこのガキだ。


っていうか私にはコードネーム、まだつけてないことになってるんじゃないの。

仲良しっぽくくじらちゃんとか言われてるけど、それ、初めて呼ばれるしね?


野望って、追い詰められたときに基地ごと爆破するってやつか。

たしかに悪役にありがちな。


……変なセンスとロマンを持つ、ギルドマスターらしい野望だ。


「もう知らない! くじらちゃんなんて、もう暗殺者ギルドメンバーじゃないんだからー!」

「う!?」


マジで、抜けていいの!? お役御免!?

あ、でももういらないからって殺されるのはマジ勘弁だわ!


驚きの声を上げた私が、自分の言葉にショックを受けたと思ったのか、ギルドマスターはちょっと冷静さを取り戻して、鼻を鳴らした。


「懇願してもダメだからな! そんじゃ、俺は腹心の部下とともにさよならバイバイだ」


ギルドマスターが懐から取り出したのは、よく分からない球状の物体だ。

それを振りかぶって、地面に叩きつける。


「ドロン!」


いなくなる時の掛け声、古っ!


煙玉だったらしいそれを投げつけた瞬間、ギルドマスターは煙に包まれて見えなくなった。

騎士達は慌てて追ったが、ときすでに遅し。


ギルドマスターは、この場のどこかにはいたはずの数人の暗殺者たちとともに、姿をくらましてしまった。


まあ、こんな感じになるとは思ってたよ。

暗殺者ギルドがこうやって場所を移転するの、初めてじゃないしね。


やや遠くからは騎士と暗殺者が戦っている様な音が聞こえてくるので、ギルドマスターは腹心以外の暗殺者は放置していったのだろう。


私と言えば、相変わらずここにいる。

もう知らない、って言われたし。


「えーと、なんだっけ、『くじら』ちゃん?」

「ちょっと、ジャン! 多分その名前、この子嫌がるでしょォ!」

「あーそっか、名付け親に焼ごて当てられてたんだっけ……まあとにかく、どうやって抜け出したの? 俺、縄縛りには自信あったんだけどな」


どんな自信だ。その自信がどういう風に培われていったのか、非常に興味がある。


私は袖で隠していた左手を見せた。

自分で踏み潰して、なんというか、とてもコンパクトになった左手だ。

片手間に止血したけど、ぐちゃぐちゃなのに変わりはない。


まあ、モザイク処理がかけられるべき映像だね。


「なるほど、そういうこと。それは想定してなかったな」

「キャァアアアアアアアア!? ちりょ、治療しなくチャァアアアアアアア!?」

「……ドクトルを……呼んでくる……!」

「バガン、いやァ、僕の方が走るの早いってェ!」

「いや……俺が……!」

「いやいやァ! 僕がァ!」


あ、ああ、また漫才コンビか。

なんかもうすでに慣れてきちゃったわ。


「二人に任せるの不安なんで、俺が行ってもいいっスか?」


まさかの立候補、ジャン!

正直私も何をしでかすかわからないバガン&キャッツよりは、君に任せたいところだー!


「おい、落ち着け」


おっと!?

出ますよ!? 騎士団長の鶴の一声が!


ゲッヘッヘ、この茶番を終わらせてくださいよ、旦那!

はやいとこジャンに頼んじゃって欲しいっス!

今ならまだ、適切な処置をすれば左手がなんとか再生しそうな気がする!


騎士団長は、私をちょいと片手で抱きかかえた。

片腕でお姫様抱っこされているような感じ。


……え?


え、……え?




「俺が行く」

「「どうぞどうぞ」」




ええー!?

漫才じゃなくて、コントだったのー!?




そんなこんなで暗殺者ギルド……お笑い集団? から抜けた私は、なんだかんだでこのお笑い集団……騎士団に、引き取られることになったようでした。


うーん。


めでたし?


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