第9話
騎士団の幹部たちは、まっさきに先陣を切っていた。
そのおかげで、まっさきに深部にたどり着き、あっというまにラスボス、ギルドマスターのところにたどりついたのだった。
ギルドマスターはたったひとりで、彼らを待ち受けていた。
ぼろ衣をまとった得体の知れない、おそらく男。
それと対峙した騎士団は、殺気とともに剣を構えていた。
「ハーッハッハ、よくぞここまでたどり着いたな、勇者よ!」
ギルドマスターの言葉に、一瞬場が静まり返る。
おずおずと口を開いたのは、キャッツだった。
「いや、騎士だけどォ……」
「ん? ああ、騎士の方か。だったら事前にどっかの国のプリンセスさらっとけばよかったな」
さらっと物騒なことを述べたぼろきれをまとった顔の隠れた男は、尊大に中央の椅子に腰掛けている。
その椅子は豪華な飾り付けがあるわけではないが、とにかく大きい石づくりだ。座り心地は悪そう。
現にギルドマスターは、何度も座りなおしていた。
「ククク……『黄道十二宮』の精鋭たちをを破り、よくぞここまで参ったな!」
「コードージューニキュー? ってなにィ?」
「なっ……え、あいつら倒してきたんじゃないの? それともあいつらまさか、名乗らなかった? ……あ、そういや大半が任務で出払ってた! クッソ、タイミング悪いな! 出直してくんねえ?」
問答無用で、バガンが斬りかかる。
ギルドマスターは「うおっ」と焦った声を出しつつも、ギリギリで避けた。
バガンが叩きつけた大剣によって、ギルドマスターが座っていた石の台座は無残に破壊される。
「あ、あー! 敵の口上は最後まで聞くのがセオリーだろ!?」
「……殺す……!」
「なにこのベルセルク!? 全然騎士じゃなくねえ!? アーッ!?」
騎士団幹部たちと、暗殺者ギルドのギルドマスターとの戦いは、こうして間抜けに始まった。
「……死ね」
「アーッ!?」
バガンの放った剣撃が、見事にギルドマスターの腹部に入る。
ギルドマスターの体は、バガンの怪力に耐えきれなかったようだ。
ギルドマスターは、上半身と下半身に分離する。
誰がどう見ても、絶命したようだ。
「……あっけなさすぎ、だねェ」
「途中で倒した奴のほうが、強くなかったっスか?」
「……殺し足りん……」
「本当にバーサーカーみたいになるの、やめてもらっていいっスかね」
騎士達が殺気を収め始める中、ただ一人、騎士団長だけは視線を鋭くした。
「油断するな。終わっていない」
「ハーッハッハ! その通り! まだ終わってないなぁ!」
「はぁ!?」
声の発信源は、ギルドマスターの引きちぎれた上半身だ。
……生きている。半身が引きちぎれてなお。
「……人間……か?」
「ファーッハッハッハ! 第2形態を見せることになろうとはなぁ!」
騎士団の幹部達とギルドマスターとの戦いは、始まったばかりである。
「ハーッハッハ! この俺の第29形態まで破るとは、貴様らやりおるなぁ!」
「もう飽きてきちゃったよォ」
「何度でも……殺す……!」
バガンは飽きないようだ。
キャッツはもう、嫌そうな顔をしている。
「あ、ちょ、話聞いて、お願い、ねえ、騎士なんでしょ」
「バガン、さすがに聞いてあげてェ」
騎士団長とジャンは、その間抜けたやり取りを静観していた。
剣こそ構えてはいるが、打ち合いにはもう参加していない。
バガンが暴走気味だからだ。
あそこに割って入れば、バガンは味方ごと切りかねないのだ。
キャッツは弓に持ち替えて、バガンを援護していた。
ギルドマスターが第52形態! とか叫び始めたあたりだっただろうか。
「あーあ、俺、追い詰められちゃったなー!」
ギルドマスターは唐突に、しらじらしく言った。
その語り口からは、焦りといったものは微塵も感じられない。
「はァ?」
「こうなったらもう、お前らと一緒に心中するしかないかなー!」
ギルドマスターは超人的な体術で、バガンを跳ね飛ばし、自身も後方へと下がった。
その隙に懐から取り出したのは、箱である。
黄色と黒で色付けされた、なんか危険な感じのするその箱には、赤い丸がついていた。
「ハーッハッハー! このボタンを押すと、この基地は爆発するのだ!」
「な、なんだってェー!?」
「俺もろとも死ぬが良いわー!」
「……くっ……!」
ポチッとな。
ギルドマスターは無慈悲に、その赤いボタンを押す。
騎士たちも緊張が走った……の、だが。
「……は?」
カチ、カチ。
カチカチカチカチカチカチカチ。
ギルドマスターが何度もその赤いボタンを押しても、なにも起こらない。
「んっ、ううん」
私は笑いをこらえるのに、必死だ。
安全なところからこっそり、全部見ていた。
ギルドマスターってやっぱ、すっげえアホだよな。
うん。暗殺者ギルドには頭のおかしい人がたくさんいるって言ったよね。
薬物中毒者とか、快楽殺人者とか。
でも、私が一番、頭がおかしいと思っているのは、当然のごとく、彼なのだ。
結構前に、「芸術は爆発だー!」って言いながら自爆したの。
実は、ギルドマスターなんだ。
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