「怪鳥ケツァルコアトルの卵のオムレツでございます。鬼火でフランベして召し上がっていただきます」

 銀色の皿の上で青白い炎が燃え上がる。それは生き物のようにオムレツの表面を舐めつくし、湯気と芳醇な香りを残してかき消えた。

 後に現れたのは、眩しいばかりの黄金色をした卵である。鶏卵などとは比べものにならないこの濃厚な色。それを絶妙の火加減と手捌きをもって、あくまでもふわりとしたプレーンオムレツに仕立ててある。余計な素材を一切加えていないところに、店の自信のほどが伺えた。

 あれから何度となく店を訪れているが、どの料理も芸術品という他はない。ナプキンを広げるのももどかしく、私は一口目を口に運んだ。

 おや?

 ねっとりとした食感が広がってゆく。太陽の光を想わせる力強さ、そして味。驚嘆しながらも、私の舌は微かな違和感を捕らえていた。

「どうかなさいましたか」

「何かが足りないような気がするのだが。この料理にはこう、なんというか――」

「お気づきになりましたか」

 ギャルソンが困ったように目を細めた。しかしその奥の瞳は、笑っているようにも見える。

「この料理にはセントエルモの火が最もよく合うのです。八方手を尽くして探したのですが、とうとう手に入りませんで」

「この、アルコールを飛ばした火の玉かね?」

「はい、かといって舶来物なら何でもいいと言う訳ではございません。アメリカ産のマーファライトでは今一つ仕上がりが大味になりますので、仕方なく国産の鬼火を。しかし、あなた様の舌はごまかせなかったようですね」

 ギャルソンの口調にもいくらか親しみが増したように感じられた。ようやくこの店の客になれたという思いを胸に、私は店を出た。

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