第106話

 ソーヤー、もしかしてやられちゃったのか? あの自信たっぷりな男がか。


「もしかしてソーヤー達を?」

「あんな卑しき物、我が槍で貫くに値せぬわ、部下を置いてこちらに来たまでよ」


 つまりは、ソーヤーと戦うよりもこっちの遺跡の守護を優先したわけか。

魚人のくせに頭いいな、こいつ!? 兎にも角にも、こいつを相手にするのか。

10分、いやもう1分は消費したと思うが、さて。


「貴様らは正面から我に挑むようだな、来るがいい」


 盾を前に出し槍を構える大きな魚人、迫力あるなぁ、さて来いと言われて行く必要もないだろう、僕らのやるべきことは宝石が魔力をため込み封印する時を稼ぐこと。


「嘗め切ってんじゃないわよ! でりゃぁぁぁぁああ」


 時間稼ぎが目的だと考えんのか、このお転婆姫はじゃじゃ馬どころか猪武者か!

だからといって、僕も一斉に攻めるわけにはいかない、ここのドアは厳重に塞いでいるが、アイン君が盛大に壊した壁がある、ここから離れれば魚人達が遺跡に入るので離れられない、突撃したサクに大きな魚人は任せて、専守防衛に努めるしかないな。


 だが、それは長続きしなかった、大きな魚人とサクのレベルには開きがあり過ぎた

更に言えば、体格も違えば、まず海というこちらが完全アウェイなのだ。

 かくいう此方も割とギリギリの戦い。MPが少し回復してきたので回復魔法を駆使しながらも魚人を退けるが、既に仕込み杖は魚人の血で切れ味も何もない。


「ここまでかな、これはどうしたもんかもないや、サク! 籠城だ、こっちに来い」

「何言ってるのよ! そんな日和った戦い方、私は嫌よ、死ぬなら前のめりよ!」


 君はどこの時代のサムライだ! ええい、仕方ない、一人でも生き残るとしよう。

魚人をスロウノイズで怯ませながら壁から遺跡内部へ、すぐに手持ちのインベントリからできうる限り障害物になりそうなアイテムを壁の前に置きまくる。

そのうえでカーレッジで抑えておく。時間は……おいおい、まだ5分残ってるの?


 資材の端っこから外を覗けば大きな魚人相手に苦戦するサクがいた。

これでいいのか? 彼女を犠牲にしてこの場をやり過ごせば、おそらく封印はなるだろう、ゲームをクリアしたという結果は得られる。でも皆で最後までやり遂げたという達成感はどうだろうか…………


 これが一人でやるようなゲームだったら。これでよかったろう、だがこのゲームは一人一人がプレイヤーで感情があって意思があって、たかがゲームだなんていわれようが、手を抜く事なく本気で戦っている。僕も日和っちゃいけないよな。


「カーレッジはこのままこの壁を死守しているんだ、残ってる丸薬は」


 インベントリを開き丸薬を調べる、解毒、HP回復は十分あるな。

MP回復は無し、瞑想で少しでも増やすぐらいか

後は防御と攻撃を上げる丸薬も作ってたな、それとついでに知性と敏捷も。

これでよし、やってやらぁ!


「我が槍の錆となれ! 小娘!」

「サク! 前衛を変われ、それとこれ、不味いかもだが、今すぐ飲め!」

「コージィ! わかった、少し任せるわよ!」 


マントを翻し、サクが受ける槍を肩代わりする、重たいな、穴が開きそうだ。


「ほう、部屋に隠れるだけの臆病者ではないか」

「いやぁ、自分でも珍しいですよ、さて、どうしたもんかねっ!」


手の先からいつもの通りに風の矢を撃ち出すもダメージにはならなそうだ。


「猪口才な魔法だな、それで我を傷つけれると」

「こいつは駄目か? なら、こっちはどうかな?」


次に使ったのは毒の霧だが、もろに浴びたというのにまったく効いていない。


「ふん毒の霧か我に毒は効かぬ」


やっぱボス系統に小細工は効かないって奴か、姉さんのやってたゲームもそうだった


「どっかに弱点とかないものか」

「ふん、俺に弱点なんてものは存在せん!」


 槍による刺突が何度も僕を襲うも、それをマジシャンマントや仕込み杖でなんとか受け流したり受け止めたりする、弱点なんか存在しないかぁ、困るなぁ。

と言ってる僕だが、相手は魚だ明確な弱点が存在してる、後はつけるかの問題だ。


「そんなことは無いでしょう、どんな生物にだって弱点ってのはあるものです」


もう一度毒の霧をばらまくなるべく広範囲に、さぁて、頼むぞ。


「ふん、また毒の霧か何度やっても無駄だ、お前も耐えきるのはもう無理だろう」

「ええ、もう僕は死に体です、だから、任せたよ、相棒」

「盾で邪魔だっただけど、ようやく狙えるわ、くらぇぇぇえええ!!!」


 大きな魚人のエラに深々とブロードソードを差し込むとそのまま切り捨てる。

大きな魚人は口をパクパクさせる、息が出来ないのか苦しそうにしている。

サクが狙ったのは中骨これが僕の思う魚の明確な弱点。結果は大成功のようだ。


 盾で防がれたそれを狙うのは一人では難しかった、しかし、僕に大きな魚人が集中しており、毒の霧に乗じて狙いに行く事に成功したのだ、大きな魚人は膝をつきこちらを睨みつける。


「…………おのれ人間、恨ミ払サデ置クベキカとでも言いたげだ、そろそろ時間だ」


 この戦闘で既に5分はとうに過ぎていた、どうやら目算を誤ってたかな。

遺跡が急に光始める、一本の光が西の方向へと一直線に伸びていく。ペンタグラムを描いてるのだろうか、魚人達はその光を見て、逃げようともがき始めるがその場でもがくだけで動けていなかった、大きな魚人もこちらを睨みつけるだけで何をするでもない、遺跡が更に一際輝き始める、魚人達がもがき苦しみながら青い粒子となって消えていく、消滅エフェクトだな、大きな魚人も同じように消えていく。


 そうして周りの魚人がいなくなったとき、そこには魚人のドロップアイテムが転がるだけであった、これで終わりなのだろうか?


「…………やった、やったよ、コージィ! 私達勝ったんだ! やった!」


呆然と立ち尽くす僕に急に抱き着いてくる、感極まってと言った所か。


「離れてくれない? それと中心部に行きたい、集まっていた魚人達が気になる」


ソーヤーが前の定例報告で言っていた中心部へ集まっていたという報告。

まあ、何も無しならそれでいいのだが、確認したら一度帰還するか。


「あ、ごめんなさい、そ、そう、じゃ行ってみましょう」


 えっちらおっちら泳いでやってきたぞ中心部、そこには石碑が一つ残っていた。

まーた英語……じゃないな、日本語だ。


【親愛なる海を救いし地上人の者へ】

【我らは海底人也、魚人王を長き戦いの末、長き眠りに封じた者なり】

【その間に我らは魚人王を滅する力を作り出した】

【そのままでは魚人王の配下に盗まれるゆえ、ある方法で隠した】

【我ら海底人は子孫を残せず滅ぶ、未来は地上人に託した】

【そして悠久の時を超えた先にて魚人王は滅された】

【この石碑が何よりの証拠、重ね重ね感謝を我らが愛する隣人よ】

【滅した其方は表舞台にて名誉を、賞賛を受けることは無いだろう】

【それの代わりになればと我らが祈り其方に加護を与えよう】

【スキル《海底人の加護》を取得しますか YES/NO】


 ふむふむ、要約するとこの水中都市には海底人ってのがいて、そいつらは魚人王をあの真珠で封印するまでは行けたが倒すまではダメだった。


 なら次は倒せるようにとその力を作り出した、それが家屋に練り込まれた砂を固めて作り上げたあの魔法のガラス玉という訳だ、出来たは良いが、海底人は子孫が残せずに滅んでしまった、魚人王が滅されるかは地底人に託されてしまったと。


 時代が進むにつれ、おそらく託された地上人もすっかり忘れてしまってたんだろうな、何か書物に残っているなりしてりゃなぁ、海底人達は伝承が失われるのも加味して一応の為に封印に厳重なカギをして真珠も外さないようにと文言を残してたんだろうな。


 で、倒せたらこの石碑が出てくるわけか、しかし表舞台では名誉も賞賛も受けないってのはどういう事だ? その代わりに海底人からお礼、力をくれるそうだが。

……欲しいけど、勝手に貰うのもなぁ。


「これはあんたの者よ、もらっちゃいなさい」

「え? でも一回こっきりだったら、悪くない」

「あれを倒そうとクランを立ち上げて作戦を考えて、最後まで戦ったのはあんたよ、これはあんたに貰う権利がある、貰っていきなさい」

「なら遠慮なく……お、項目が追加された固有スキルに入った、かなりのレアスキルって事だよな、本当によかったのかなぁ?」


 しかし中心部に魚人達が集まっていたのはこの石碑を暴いて破壊する為だったりするのかな? 今となっちゃわからん話だな、さてと、上に戻るとするか。


海底人かいていじん加護かご

 海底人に認められその祈りを受けた物しか手に入らないスキルです。

海と共にある限り、貴方は海に守られ、愛されるでしょう。


・海の中でも呼吸が可能になる

・海での武器系スキル使用時ペナルティ100%軽減

・海にいる間、被ダメージ-20%

・海での魔法使用時、MP消費半減

・海での水泳スキル+50%

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