第107話

 あの激闘から一週間が経過した、残りの夏休みはもはや数日となった。

今僕は人を待っていた、時刻は18時25分、後5分くらいかな。


「お待たせ、内山君」


歩いてきたのはノースリーブのシャツにショートパンツの小泉さん。


「あれ? 内山君だけ他の皆は」

「田中君は今さっき屋台の手伝いに連行された、園田さんは夏休みの宿題忘れで細川君に、今日は僕だけ」

「そうなのね、どうする? 折角だし回っていく?」

「小泉さんが僕だけでも良いというなら」

「ええ、別に構わないわよ」


 今日は地元の花火大会があるので林間学校のメンバーで行こうと提案したのだが、なんというか、蒼汰のは可哀想だなと思う、園田さんは何だか意外な理由で欠席となってしまい、小泉さんと二人で回ることになった。


「しっかし、もう夏休みも終わりかぁ」

「色々あったねえ、宿題、イベント、海水浴、あの激闘は今でも思い出せる」

「それねー、しっかし、エンディングあれは無いわよね、ちょっと不服」


 僕らが魚人を統べる王を滅した後、海上の船に戻ってくれば嵐は完全に止み雲一つない空が広がっており、魚人を統べる王も消滅していた。


 そしてその魚人を統べる王がいた場所では王国の船に絢姫の船が囲まれていた。

なんと、王国では絢姫があの魚人を統べる王を倒した英雄だと言われていた。

実際、王城で式典を上げられ多大な報酬を得たと聞いている。

おそらく報酬を得れるのは最初から二名だったのだと思う。


 嵐の海で最も魚人を統べる王に攻撃をしたものと、完全に滅する方法によって海底から魚人を統べる王を滅した者の二人。一人は表舞台で英雄とされ一人は今は無き海底人より加護を得るというシナリオだったのだろう。


「気にしてないよ、名誉や栄光は探索者には必要ないだろ、それに海底人からの加護は破格の代物だよ」


 あの能力は破格の能力だった、何せ海の中を無限に動き回れて、海の中ならソーヤーとサク更にG.Gさんで三人がかりで攻撃されても全て避けれるくらいだ。


「でも、海限定ってのがちょっと悲しいわね」

「何、また海で活躍する機会があるって事だろ、何か食べる?」

「だといいわね、たこ焼き食べる」


 サクが指さす方向にたこ焼き屋があったのでたこ焼きを一つ買う。

全部食べると他のが食べれないし分け合おうと相談すれば、そうすると一つ口に放り込む、暑かったのか、パタパタと慌てふためく、その姿が面白く笑ってしまった。


「ゆっくり食べればいいさ……あれ、蒼汰じゃないか?」

『へえ、イタリアから留学、偉いもんで』

『あなた、イタリア語が出来るんですね』

『少しだけね、ゲームで知り合った、イタリア人の美人に教わって』

『へぇー、ソーヤーは私の事いつもそういいますね』

「へ? 貴方もしかして」

「どうも、ビアンカです、ここら辺が地元って言ってたので来てみました」

「へぇ、いや、まじ偶然ですね、はいこれ焼きそば」

「ありがとうございます、この後お暇なお時間は?」

「叔父さん飲みに行っちまったからなぁ、終わるまで暇ないっすね」

「それは残念、それではこちらを、私のリンクの番号です今度連絡待ってますね」

「…………あれは放っておこう」

「ええ、案外蒼汰の事気に入ってるのかしら?」


 焼きそばの屋台で汗をかきながら焼きそばを作ってる蒼汰を見かける。

蒼汰は茶髪の女性多分だがビアンカさんと日本語ではない言語で話していた、なんで使えるんだよ。


 いや、蒼汰の事だ『美人と話す為なら俺はどんな言葉も学んでみせる』とか言いそうだ、とにもまぁ、邪魔はしないでおこう、しかし蒼汰も災難だな。

 折角会えたビアンカさんと屋台を回れないわけなんだから。


「内山君、次はあっちのイカ焼きを食べるわよ」

「はいはい、自分で買いなよね」


 小泉さんは蒼汰の事はもういいのかすぐに次の屋台へと向かっていく。

そうやって色んな物を食べていく、じゃがバター、焼きそば、チョコバナナ。

 少しだけゲームでも遊んでみた、輪投げ、射的、ヨーヨー釣り。

楽しい時間はあっという間という奴だろうか、もう1時間が過ぎていた。


「小泉さん、そろそろ花火の時間だよ」

「あ、もうそんな時間なのね、席空いてるかしら」


お面をつけ、片手にヨーヨー、更に食べるのかお好み焼きを持っていた。


「大丈夫、いい所を知ってるんだ」


 今日は姉は友達と別の場所で飲み会と言ってたしあそこは誰もいないはず。

小泉さんを連れて、会場から少し離れていく。

 少しわき道にそれ進んでいく、この道で会ってたよな、携帯を取り出し方位磁石のアプリを出してみれば方角はあってる、おっけいおっけい。


「ねぇ、会場から大分離れちゃってるけど、本当に大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫、えっと、ついたついた、ここだよ」

「へぇ、こんなところにベンチとテーブル」


 少し開けた場所にテーブルとイスがそこにはあった、ここを知っているのは父さんと姉さん、そして僕だけだ、子供の頃、父さんと姉さんとこの花火大会に来た時偶然見つけた場所だ、きっかけは父さんがすこぶる酷い方向音痴という酷い物だったが。


「そろそろ時間だよ」


 時計が20時を差した瞬間、空に炎による一瞬の花が咲く。

うん、やっぱり花火はいつ見ても綺麗な物だな、これが姉さんが隣にいると。

たかが炎色反応だと一蹴するんだよな、小泉さんはそういう事しないよな。


「良い所知ってるのね、内山君」

「気に入っていただいて何より」


 小泉さんは花火を見ながら手に持ったお好み焼きを開けて食べはじめる。

僕は十分食べたので、花火をぼんやりと見上げる。


 思えば今年の夏は充実した夏であった、去年まではジョギングして夏休みの宿題をして少し本を読んで夕方からジョギングして寝る、たまに友人と遊ぶ機会もあったが印象が薄い、だが今年の夏はどれもこれも印象に残っている。


 水中都市のイベントと謎解き、クランを作り、探索をして、蒼汰とバイトをして

魚を統べる王の部下と激闘を繰り広げて、小泉さんと花火を見て。


「ねぇ、小泉さん、僕今年の夏休みが今までの夏休みの中で一番だと思う」

「奇遇ね、私もよ、今年が一番最高の夏休みだったわ」

「来年も一緒に遊べたらいいな」

「そうね、それはとても素敵な事ね」


 その言葉を最後に僕らは花火が終わるまで何も喋らない。

やがてすべての花火が終わる、そろそろ帰ろうかと立ち上がる。


「今年の夏休みももう御終いかー、なんか寂しいなー」

「夏休みが終われば二学期さ、まだまだ楽しいことは沢山あるはずだよ」

「あはは、そうね、っさ、帰りましょ」

「うん、じゃぁね、小泉さん、また学校で」

「そうね、また学校で」


 帰路へとつき、分かれ道僕らは別れの挨拶を交わす。

ちなみにこの別れの挨拶だが、翌日TFOで再開して笑いあうのであった。

格好つけたのに、これじゃ世話ないなと。

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