第97話

「さぁー! 始まりました我が永花が誇る戦闘のスペシャリストの一人“槍足の”蓮ちゃん! あ、今回の実況は同じく永花のメンバー、堺がお送りします、解説には永花のリーダー、伏龍鳳雛の雛ちゃんとコジっちゃんのチームメイト、サクちゃんを呼ばせていただきました!」

「今日はよろしくジャン」

「何この茶番?」


 いきなり堺さんがしゃべり始める、というか椅子と机を用意して実況と書かれた三角錐が机には置いてあった、そしてその隣には軍師殿とサクも座っていたそちらには解説と書かれた三角錐がある。


「いや、集まった観客だけど蓮ちゃんの事は知ってるけど、コジっちゃんは知らないって人がいるじゃん解説はいるっしょ、で、コジっちゃんってどんな奴?」

「そういう訳ね、そうね攻撃回復支援妨害どの魔法もそつなくこなせる万能タイプよまぁアイツの真骨頂は魔法よりも、あの意地悪な性根で思いついたトリッキーな策謀と戦略の数々でしょうね、一癖も二癖もある、そういう奴よ」


意地悪とは心外な、別にサクには意地悪なんてしてないと思うんだけどなぁ。


「ほほう多彩な魔法が見れそうで楽しみだね、蓮ちゃんだけコジっちゃんの情報貰っちゃ悪いな、雛ちゃん蓮ちゃんについて適当に基本情報よろしく」

「わかったジャン、まぁ“槍足”って呼ばれるだけあって、蹴り技主体の格闘タイプジャン、だからといって拳や投げがないわけではないけどね、それにそれ以外にも秘密兵器があるジャン、是非、善戦してほしいジャン」


ふむ、足技か……とにもアイツと契約して正解だったな。


「決闘のルールは貴方のお好きにどうぞ」


蓮さんはこちらを睨みつけながらそう言いだす。ふむ……


「えっと、とりあえずリングは一辺20m程度の正方形で、HPが20%まで先に削れるか、リングから先に外に出てしまったら負け、これ以外に特に反則などは設けませんお互いの持てる全てを出していきましょう」

「あら、リングは随分と狭いのですね、魔法使いには不利では?」

「まぁ、そうかもしれませんが、僕にも考えがあるので、それでは、いざ」

「ええ、いざ尋常に勝負ですわ!」

 

 僕はステッキを持ち構える、しかしそれよりも早く蓮さんの足が僕の視界に飛び込む、あっぶな!? すぐさまマントを翻し防御、ぎりぎり間に合ったか。

しかし、その場で蓮さんは更に連続して蹴りを繰り出していく、大丈夫だこのマントとコイツがいれば、ノーダメージだ。そら喰らえ! ウィンドアロー!

マントの隙間から風の矢を発射、蓮さんもこれにはたじろぎ距離を獲る。


「さぁ、のっけから激しい攻防が始まった! 蓮ちゃんの連続して出される蹴りに即座に反応しマントを翻し攻撃を防ぐ! あのマントはなんだ!?」

「100万近くの財産をつぎ込んで作った、マジシャンマントっていう特注のマントよしかし、あそこまでしこたま蹴りを打たれてダメージ無しで済むのは変ね」

「大将の事だから別に更に細工をしてるジャン、何かは分からないけど」

「マジシャンマント! そして何やらコジっちゃんはまだ何か細工をしているようだ、これは番狂わせもありうるかー!」


 堺さんとサクと軍師殿の実況と解説で回りがざわつき、ヤジが飛んでくる。

ひるむな、次はこっちの攻撃の番だ、とにかく射込め! ウィンドランス!


「やりますわね、使役メディックゴブリン! さぁ、まだいきますわよ!」


 後方に杖を携えたゴブリンが出てきて、呪文を唱える、くっそ、回復系か。

まずは後ろのメディックゴブリンを倒さなきゃ……!? くっそ、また来るか。

どうにかして距離を取りながら後衛に攻撃して、こちらに流れを持ってかなきゃ。


「コジっちゃんは防戦一方だねぇ、メディックゴブリンについて雛ちゃんよろ」

「了解ジャン、といっても治癒魔法を使うゴブリンってだけジャン、あれを倒さない限り、ダメージを与えても回復されちゃうジャン」

「でも、あのマントをどうにかしないと、蓮の方もダメージは通らないわよ」


 そうだ、このマントさえあれば攻撃は完全に防げる、隙間からウィンドアローを

とにかく乱射だ的を絞ってはいられない。下手な魔法も数うちゃ当たるさ!


「ふむ、体勢を崩してリングアウト狙うべきですわね……掴みましたわ、さぁリングの外まで飛んでいきなさい!」


 腕を掴まれてしまい、そのまま投げ飛ばされる、こりゃ早いお披露目になったな。いけっ! 新しい僕の仲間!


「おおっと!? 蓮ちゃん、コジっちゃんをリングの外へと放り投げてしまう、このままリングアウトか!? いや、まだだ! マントから梁が飛び出し蓮ちゃんとメディックゴブリンを襲いながら、リング内に深々と刺さりコジっちゃんの体をギリギリ宙ぶらりんながらもリングの中に留めた! あれは一体何なんだ!」

「あれはスライムジャン。なるほど、マントじゃなくて本当はマントに張り付いたスライムで攻撃を防いでいたジャン、そして空中に放り投げられても、スライムのスキルなら、リングに自分を固定する梁になって更にそれによる攻撃も出来るジャン」


 そう蓮さん対策の切り札、物理無効化スキルを持つ、ある種最強の防具スライムのすーさんだ! 僕がすーさんに宙ぶらりんにされてるような状況だがリングにとどまる事に成功したのと、そのまま蓮さんとメディックゴブリンに攻撃が出来たのはスライムの形状変化スキルを使った賜物だ。


【名前】

すーさん(スライム)


【ステータス】

HP:1280

MP:1060

筋力:0

生命:128

器用:63

敏捷:83

知性:106

精神:106

魅力:0

幸運:10


【習得スキル】

突撃11/逃走12/跳躍13/気配察知14/防御13


【特殊スキル】

形状変化16/吸収16/柔軟☆/物理攻撃無効☆/魔法攻撃弱点☆

完全毒耐性☆/顔無☆


 性能としては顔無と柔軟の補正でなんと筋力と魅力は0というステータス。

王都より前の魔物という事でステータスは正直微妙だ。

だが、それを差し引いて物理攻撃無効と今回僕を助けた形状変化が頼もしい限りだ

すーさんがその形状をマントに張り付くための板モードに戻ると同時にリングに足が着く、さてと仕切り直しだ!


「少しはやるみたいですね、スライム、物理を完全に無効化する魔物ですか」

「ええ、こいつがいれば、自慢の足技は通用しないというものですよ、反撃だ!」


 杖を蓮さんとメディックゴブリンに向け、魔法を放つ、もう近づかせるか!

線の攻撃ウィンドアローでは容易に避けられてまた投げられるだろう。

連射に優れるポイズンニードルを広範囲に撒くように放つ、これで近づけまい!


「毒針、中々厄介ですね、ですが、貴方が私に対策をするように、私だって、スライムなどの魔物相手への対策はしています……くらえ水槍!」


 っげえ、水の槍! 魔法を使えるなんて!? 格闘だけじゃないのかよ!

水の槍が毒針を薙ぎ払いながらこちらに飛んでくる、スライムが魔法弱点ってわかって仕掛けてきたな、スライムを契約状態に、くそっマジシャンマントである程度防げるか。


「蓮の秘密兵器が出たジャン蓮の契約してる魔物は魔法が使えるので固めてるジャンで、プレイヤーは契約してる魔物の魔法が使える蓮も本職じゃないけど多少は魔法が使える、スライムは魔法が弱点、大将ピンチジャン」

「解説サンキューね雛ちゃん、さぁ! この攻撃にコジっちゃん、どう対応するか、注目の攻防だ!」


 そうは言うけど、あ、っちょ、っやば、マジシャンマント! くそぅ、遠距離は無いと高を括ったのが悪かったか。


「や、やりますね、まさか遠距離攻撃があるなんて、たまったもんじゃない」

「ええ、といっても本職の魔法使いには敵いませんが、スライムを契約から外しましたね、でしたらここが年貢の納め時ですわ!」


 っく、目ざといな、蓮さん、ポイズンニードルを乱射しながらメディックゴブリンの方向へと駆け出す、回復役を潰さなきゃ、うおお、来るな! ライトショック!


「猪口才な! いくら撃ち続けようと、メディックゴブリンの回復があります、さぁ、リングの外へ吹き飛びなさ……っきゃぁ!?」


 よっし喰らった、そしてこの距離なら射程距離だ、まずはお前からだ! 

メディックゴブリン覚悟! ノイズブラスト!


「おおっと! コジっちゃん、魔法の乱射に加え、目くらましでしょうか、そしてメディックゴブリンをなんとステッキをバットのように振り抜き殴る! たまらず吹き飛んだメディックゴブリン、リングの外に出た使役魔物は例外なく、HPが0になり、使役状態から解除されます、これで蓮ちゃんは回復役を失った!」

「ノイズブラストね、音の衝撃波を杖に乗せて攻撃する魔法ね、いいわよ

コージィ! 次はそっちの蹴り女を倒しちゃいなさい!」

「ここからも注目な攻防が続きそうです、それと周りの観客! てめーら戦意喪失させるような発言はお控えくださりやがれよ! どっちも応援してやれや!」


 堺さんの実況に周りの男達が僕に向けてブーイングを向けてくる。

蓮さんに賭けてるから僕が優位に立つのが気に入らないんだろうな、サクだけだよ応援してくれるのは、さーて、こっからどう行きますかね!

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