第89話
船がその動きを止める、どうやら目的地についたのかな? 船に乗っていた兵士の一人が船室へと向かう。
「魔術師殿とそのお仲間の方、今しがた水中都市の下につきました、先ほどの神風は見事でした魔術師殿、さぞ高名な魔術師でしょうか、お名前を伺っても」
僕達の元にも人が来る上等な剣と鎧の女性先ほど壇上で令状を呼んでいた騎士様だ。
「ま、私の相棒だもの、これくらいは余裕でやってもらわないとね」
サクがさも自分がやったかのように自慢げに胸をそらす、僕の手柄なのだが、まあ騎士様に目を駆けられたのはとてもいいことだ自己紹介をさせていただこう。
「ああ、僕はコージィと言います、こっちのサクと一緒にsearcherってチームで活動しています、それと、先の魔法はそこまで褒めてもらうほどでもないでしょう、他の船も同じような方法を使っていらしたでしょう、大したことではないです」
実際、絢姫を守り隊の船はいずれも風魔法を使い、先にこの場についていたりする。
「謙遜する必要はないとおもうのですがコージィ様の美徳と思いましょう。水中都市にいかれる道中はお気をつけて。この海域には人食い鮫が出没する報告がありました水中都市においても油断せずに。こちらにも人を襲う魚人が出没するという情報が兵士から届きました」
そりゃ怖いもので、そうして話し込んでいれば、兵士から水中都市についたと聞いて甲板へ続々と他のプレイヤーが集まり思い思いに呼吸薬を飲んで飛び込んでいく、僕らもそれに倣うとしますかね。
「それでは僕らも行ってまいります、最後にお名前をお聞かせ願っても?」
「ああ、私はサー・ヴァイス・ライバックだ、幸運を祈っている」
「はい、いい報告が出来るよう微力を尽くしてきます」
その名前を聞いてからサクと一緒に呼吸薬を飲み甲板から飛び込む。
数秒の浮遊感の後に水飛沫を上げて入水、目を開けて呼吸をすれば、何も問題なく呼吸が出来てしまう、喋るのは……出来そうもないな。
『コージィ調子はどう? こっちは問題なしよ』
軽い音と同時に通知が来るのでメニューを開けば文字が飛んできた、これはチャット機能だったかな? 最近のゲームでは通話機能が発展し、それが主流となり日の目を浴びることが少なくなってきた機能。パソコンであればキーボードで文字を打ち送信するわけだが。VRゲームのチャット機能ではメニューを開きキーボード画面を呼び出しそれを使ってチャットを行う、こんなまどろっこしい方法よりも通話を繋げる方が楽ゆえに。ほぼ廃れて使われなくなっていった機能らしいが今回に至っては必須な機能である、えっと、こうだったかな、人指し指でぽちぽちと打つ、難しい。
『もんだいなし水中都市へむかおう』
『打つのめっちゃ遅いわね』
『キーボード操作なんて授業以外でしたことないからね』
『今時パソコンもなかったものねコージィの部屋』
『そういうこと』
『それじゃ先行するから後ろからついてきなさい』
『了解』
そういうわけでサクが先行し、僕が後ろを警戒することに、水中都市はおおよそ100ほどを潜った所に薄暗いながらも視認できる程度の場所にある。
その規模は比較対象がない僕には計り知れないが、サクは尋常じゃない広さ。
北の遺跡群なんて目じゃない広さをしているとの事、そりゃ王国軍も投げるわけだ
さて、順調に水中都市へと潜っていける……はずもなく足止めを喰らう。
『囲まれたわね、いい作戦ないかしら、コージィ』
『サクの馬を出して囮にする』
『あんた、それは非情過ぎない? 却下よ却下!』
どうせ一日すれば復活するのだからいい案だと思ったんだがなぁ。
後、僕のタイピングは遅いのでこんな状況でチャットしないで欲しい。
さて僕らを囲むのは数匹の鮫、見た目からしてホオジロザメあたり。
映画でも有名だしモデルにしやすいよね、うん。
これで足止めできればいいんだけどと杖を掲げて魔法を使う僕やサクには何も効果がないがホオジロザメには効果覿面のようで苦しみのたうちまわる、今のうちにと逃げる。使用したのは音魔法のスロウノイズ、低く不快な音を響かせ敵の動きを鈍らせる魔法である。周りのプレイヤーやチームも何らかの妨害や足止めで鮫から逃げる。戦っているのはよっぽどの戦闘好きくらいであった。
鮫と戯れるくらいなら水中都市の探索を早急に行いたいのが多数派だろう。
『そんな魔法があるなら囮とか言うのやめなさいよ』
『探索もあるからあまり消耗したくなかったんだよ、そろそろ水底か』
ようやっと水底が見え始め、少しいった先にある水中都市も見える、まだホオジロザメに苦戦するプレイヤーもいるし、僕らの先を既に進んでいるプレイヤーもいる、別の船から降りたプレイヤーも続々と探索を始めているはずだ、急ぐか。
そうして水中都市の方へ向かい探索を始める事に。僕らが最初に入ったのは民家と思わしき建物。砂が積もりに積もった部屋、椅子4脚と机が一つ、台所と思しき場所も見つかる。奥もあるがさて。
奥へ行けば、クロゼットとベッドが二つ、小さなドレッサーが見つかる、暮らしていたのは夫婦といった所だろうか。
『……ドレッサーの中に箱が一つ、何か入ってるかしら?』
『上に上がったら、開けてみるからとっておくといいよ』
サクが早速と言わんばかりに家探しを初めれば一つ小箱を見つける。
ドレッサーの中身だし装飾品でも入ってればいいが、さて。この建物について調べてみるか、考古学……こりゃ駄目だ、資料が足りないと来たもんだ。
『何かわかったかしら? この建物が出来た年代とか建材とか』
『いや、資料が足りませんだって、根気強く調べ続けるしかないだろうね、別の場所を調べてみようか』
調査報告をし終わり二人で建物の外へ出る、今度は窓からではなくドアがついていたであろう部分からだ、しかし予想外の珍客と鉢会ってしまう。
腹部だけが白く、他は灰色に緑がかった光沢のある鱗の有る身体、人間と同じような体躯をしているがその頭部だけが違い魚であった、首の左右がパクパクと開くえらだろうか、手や足にはこれまた魚に似た水かきがあり、またその手には槍が握られており数秒睨み合えば瞬き一つしない不気味な目をこちらに向けたままでいきなり槍を突き刺そうとしてくる、咄嗟の事で避けられずもろに受ける。
僕が刺されたのを皮切りに魚人との戦闘の火蓋が斬られる、サクが剣を引き抜き斬りかかろうとするもここは水中、水の抵抗でその剣筋は鈍く魚人は水中の移動に適した水かきを有するが為に余裕で避けてしまう。こりゃどうしたもんか。
うーん……そうだ!
『サク、そのまま囮になっててくれ』
『何かやるのね、任せなさい』
杖を持ち光魔法を唱える、ライトミラージュ、光を透過・回折させて一時的に透明化する魔法だが欠点がある。これ自分の視界から敵やプレイヤーも見えなくなる。
なので、ここでチャット機能が有能なツールと化す。
『サク、魚人との位置は変わらないかい?』
『あんたいきなり消えたけど、魔法? 魚人もあんたが消えたのに驚いてその場を見回してる感じ』
『おうけい』
僕は先ほどまで魚人がいたであろう側面に立つ、僕の予想が正しければだがここに魚人の脇腹がある、静かにソードステッキに手をかけそれを抜く。
そしてこちらからは何もない空間にしか見えない箇所に突き刺す。するとその瞬間にライトミラージュの効果は消える、そこには魚人のわき腹ではなく背中をかすめたソードステッキがあった作戦は失敗、くそ不意打ちで片づけれると思ったのに。
魚人はこちらへと顔を向ける、魚特有の見開かれた目がこちらを見る。
得も言えぬ不気味さと不快さに怯えてしまうも、その魚人は僕の前で粒子へと変わった。見れば、こちらへ振り返った瞬間にサクが魚人の脇腹を刺していた。
『ナイス囮よコージィ、しかしこんなのがうろついてるのね』
『囮のつもりじゃなかったけど助かったよ、正直怖かったもう帰らない?』
『水中都市の謎も分からずじまいで逃げるなんて出来ないわよ、あんたの考古学が鍵だし、頼りにしてるのよ、ちゃんと守ってあげるから行きましょ』
魚人の恐怖にしばらく足を止めてしまう、というか帰りたがる僕をチャットで励ますサク、こういう時はサクの物怖じしない所が羨ましいよ、まぁここで尻尾を巻いてちゃ探索者じゃないよな、幸運の鼬が導いてくれるのを祈って先へ進もうか。
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