第88話
「そろそろ下ろしてくれないサク?」
僕のその一言でさっと下ろせば垂直落下する僕、ポンポンペイン酷くない。
「コージィお腹を押さえてないで、私たちも港へ急ぐわよ」
「そうさせたのはサクだろ、情報収集はいいの? 兵士さんに聞くべきじゃ」
「そんなの船員でも構わないでしょ、ほらダッシュダッシュ」
そんなわけで、船へダッシュする僕ら、船着き場につけば、既に絢姫を守り隊の船が出航していたアグレッシブな事で更にそれに続くようにいくつかの小舟も出発している、全ての帆に絢の文字があることから、絢姫の傘下の船か。
装飾過多の1000万Gする船の他に小舟を買う余裕もあるとは羨ましい。
黒鉄同盟の方の船はまだ出発していなかった、そしてNPCの船の方も。
魔法まで使い文字通りダッシュしてきたのでNPCの船についたのは僕らが一番だったようで早速乗船。なかなか立派なもんだ、適当に潮風でも浴びながら待つか。
「探索者さんか、時間があるならちょっと聞いていきな」
一人の男に話しかけられる、日焼けした肌のタンクトップのおじさん。
船乗りの一人だろうその人物は肩掛けカバンを肩にかけており、そこから小瓶を取り出す、なんでも水中でも呼吸ができるようになる薬だそうだ。
なるほど、まぁ水中都市に行くには必須だよな、おいくらGかな?
「最初10本は支給品って事で無料だよ、チェックのために名前を言ってくれるか」
おお、それは貰っておこう、ちなみに1本で5時間程度持つとの事。
というわけで、さっそく船乗りさんに名前を言って、呼吸薬ゲット。
よく見れば、まだ乗っていないプレイヤーや乗り込んできたプレイヤーに船乗りや兵士が薬を分けている、中には10本以上買っているプレイヤーもいるな。
しかしそのお値段驚くなかれ1000G、水中都市に儲けがあるかも分からないのに
今から大量に買って損をする事もなかろう、なんだったら成分を調べて自分で作れればいいのだが……
「観察結果、青く透き通った水のような液体か……成分がわからん!」
「別に特殊なスキルがいるのかもね」
「調薬スキルが発動する気配はない、博物学スキルは……植物、海産物の調合されたものと思われる? くそっ、専門じゃないから曖昧か……」
「相変わらず、頑張っているようだね、searcherの二人は」
薬の中身からその声に振り返ってみればまたしても見知った仲の人と出会う。
「おじいさん! お久しぶりじゃないですか、おじいさんもイベントに?」
「ああ、そうだよチームの皆とね、ほれ、この子がコージィ君だよ、いい面構えをしてるだろう、うちのねるも世話になったんだ」
G.Gさん、先の牡蠣フライさん同様、ある一軒で助けられた恩人の一人だ。
他にも王都へ向かう途中にG.Gさんのお孫さんであるねるさんと共闘した事もある。
おじいさんが言うには、自分をリーダーとしてチームを作り、イベントへの参加を決めたそうだ、チーム名は銀狼団。G.Gさんと寸分変わらない実力を持っているとはG.Gさんのお言葉、そしてその名前の通り、装備を銀の武器防具で纏めておりその髪の毛も銀もといそれに近い白髪なのであった。
「この子がG.Gの言う頭の切れる坊主かい、確かに切れ者って面してるねぇ」
「婆が後30、いや20若かったらねえ、モテるんじゃないのかい、お兄さん」
「隣の子がその相棒のサクちゃんだっけ、えらい別嬪さんだもんだ」
「二人ともどうだい、飴ちゃん舐めるかい美味しいよ」
「皆が一斉に話しかけるから若いものが委縮してるよ、一人ずつ話そう」
そう、今僕らの前には60か70そこらだろうか、凡そご老人と言って差し支えない人物たちが並んでいた。この銀狼団はなんでも、お孫さんと始めたり。
ボケ防止や老後の趣味として始めた60代以上のプレイヤーで集まったチームとか。
僕を切れ者そうだと言ったのはゲンさん、G.Gさんと同じように刀を持つ鎧武者。
もう少し若ければと言っているのはかおるさん。今は仕舞っているが薙刀使い。
サクの事を別嬪と言ってるのは又坐さん、背中に十文字槍を背負った武者装備だ。
飴を差し出して渡してくれたのはディオさん、板前姿をしており、腰に包丁を差している、飴ちゃんはありがたくいただいた、甘くておいしい。
最後に一斉に喋りだした4人を諫めるご老人、名前は平八郎さん、こちらも槍使いだが今はしまっているようだ。
そうして挨拶をし終わると、爺共はここらで退散するよと言って、船の中へと入っていってしまう、武器も能力も申し分無さそうだ強い味方にも敵にもなりうるかもしれない。銀狼団の皆さんと話をおえてしばらく海を見つめていたらとうとう出航なのか、船乗りが慌ただしく甲板を走っていく、よく見れば僕ら以外の者は皆、船室に入っていったのか、二人しかいない。ここは邪魔にならない位置に陣取らせていただこう、ここなら大丈夫かな? サクも隣でさっさと船室に入ればよかったものをと愚痴を呟く、まぁまぁ船乗りの仕事っぷりを見るのもまた乙なものだよ。
反対側を見れば、黒鉄同盟の船も出港準備を行っていた、NPCに合わせて出航する腹積もりだったのかな、最初に動き出したのはこちら。
「っひゃ! ゆ、揺れたわよ、コージィ!?」
「そりゃ船だもん揺れるだろうよ、ふむ、本日は晴天、風向きは……」
少々悪いといった所かな、あまり素直には進んでくれなさそうだね。
「なんか、進みが悪いわね、黒鉄同盟の船も動きが悪そうね」
「風向きが悪いからね、これだと他の港町はいいスタートを切れたろうけど」
このまま、風に負けるのは癪だな……ちょっとやってみるか、大帆船を動かせるほどの風力が出るかは試してみなければだけれど成長したMPならいけるだろう。
「ちょっと頑張ってみるよ、動くかどうかは試してみてだ、それ吹けよっと」
甲板の最後部へと歩き陣取ればマントがたなびく、しかしこの風は頂けないのだ。
もう少しいい風を吹かせて見せよう、ソードステッキの底で甲板を軽く叩き。
くるりとステッキを一回転させてから杖先を帆へ向け魔法を放つ。ちょっとは格好のいい魔術師に見えたかな? 使用するのは巨大蛾戦でも活躍したウィンドの魔法さーてどこまで出力を上げれるかな? 風の強さをどんどん上げていく。巨大蛾へ吹かせた程の風量は優に超えさらに伸びる。速度は段違いに伸びた、先に進んでいたが風をうまく掴めなかったのか絢姫を守り隊の船が見えたのでそれを抜かす。
あの時のぼろマントの男に抜かれる気分は如何程かね、っと気づいてもいないか。
風向きはだんだんと悪くはなくなっていく。後は船乗りさんの仕事だ、さーてイベントの水中都市まではいくらかかるかな? 水中都市につくまでにMPを回復させるべく、そそくさとその場を後にして休もうとすれば周りの船員や兵士が寄ってくる。
「さっきの魔法の風はなんだったんだ! あんな風量見たことが無い」
「そのマントもステッキもかなり上等な物、もしや高名な魔術師か?」
「ああ、あれこそが神風ってなもんだろう、凄い、凄すぎるぞ!」
屈強な船乗りが、僕へわらわらと集まり、風について聞いてくる。
これくらいならたぶん他のプレイヤーも出来ると思う。案の定、黒鉄同盟や絢姫を守り隊の船も僕の風魔法による推進力アップ作戦を使って追いついてきた。
どこか逃げようとしたら騒ぎを聞きつけたのか数名のプレイヤーまで集まってくる。兵士や船乗りに事の次第を聞いて僕を見てくる、ちょっと注目を浴びてしまったな。まぁたまにはこんな優越感を得ることも悪くない。
サクも収まった頃に近づいてくれば、手の平をこちらに向け上げて迎えてくる。
僕はその手にソードステッキを握っていない手でハイタッチを決めるのだった。
searcherの名前が知れ渡るのも時間の問題だと笑顔のサクであった。
さて、水中都市はもうすぐそこだろう。
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