第38話

「え!? ちょっと待ちなさいよ! チームを解散するって冗談でしょう!?」

「まったく全然冗談なんかじゃないよ。さてと僕はこれから一人でサファードに行く事にするよ」


 さっさとその場を後にする為にサファード側への道を歩き始める。


「いや待ちなさいよ! なんでいきなりチームを解散するだなんて言いだしたの! 自分からはしないって言ってたのに!」


手を取って僕を止めてくるサクさん。仕方がないので説明をする。


「うん? 簡単だよ。考えてみたらさお荷物背負って旅をするのって阿保らしいじゃないかって」

「お荷物……私が……」

「そうだよ。こういっちゃ悪いけど。僕は一人でも王都にいける実力がある。風魔法を使えばアイツら程度軽く逃げ切れるし。だとしたら敏捷が遅いサクさんを連れて旅をするのは、お荷物背負うようなものじゃないか」

「そんな……酷い……酷いよ! こんなのって無いよ! 最低! もういい。何処へなりとも行っちゃいなさいよ! 顔も見たくない! さよなら!」

「ああ。そうさせてもらうよ…………」


 勢いよく手を振り切られる。サクさんの目には涙を浮かんでいたがそれを尻目に僕は街門へと向かうのだった。ごめんとだけ心の中で思わせてもらう。大丈夫策は成るはずこっからが本番だ。


「こちら。アルファ。作戦開始。ブラボーは一部始終を撮影したなら対象と接触。作戦通りに。チャーリーとデルタは先に草原に出て戦闘準備をお願いします」

「こちらチャーリーおっけいだぜい!」

「こちらデルタ。同じく委細承知。なんか軍隊みたいだねこのやり取り」

「実際それを意識しているのだろう。弟は凝り性だからな。こちらフォックストロットおよびゴルフとホテル。そろそろ出発か?」

「まだ待ってくれるかな。今回の策の要はフォックストロット率いる増援部隊だからタイミングは間違えないように」

「了解だ既にいつでも出れる準備は整っているからな」


 今使ってるのはグループチャンネルと呼ばれる機能。姉に教えてもらったもので複数のプレイヤーと同時に通話ができる機能だ。さてとブラボーもとい軍師殿がちゃんとやってくれてるといいが。


「こちらブラボージャン。顔の色変えて出て行ったジャン。超怒ってるジャン」

「どんな挑発をしたんだよブラボー。とにかくこちらアルファ。町を出発する。フォックストロットも出発お願い」

「了解だ。目標はラストル大橋でいいんだな?」

「うんそれで間違い無い。チャーリーとデルタは到着次第指示が出るまで待機を」

「「了解」」


 さてと。ウィンドダッシュを使って全力疾走だな。さてどうなるか。

サファードへの街道をひた走る。景色を楽しむ余裕なんてものはない。

ただただ走る。やがて後ろから怒号が響いてくるのだった。


「フィールドに出やがったな魔法使い! 死ねヤァ!」


 ナイフなどの飛び道具や魔法が飛んでくる。マントにいくつもの刃が刺さっていき。炎が裾を焦がしていく。そろそろ買い替え時かな?

 貫通した刃や魔法がHPを減らすのは手に持った杖で順次回復していく。

ポイントまでついたらだ。そこまでは耐えるんだ。

敵の数は6名。案の定多かったか。魔法使いが二人に残りは戦士。そのどいつもが打撃武器を担いでいた。露骨な対策だな。いっそ清々しいや。

ついたるはラストル大橋。僕はここで足を止めて。ナンパ男達に身を翻す。


「とうとう観念したか? よくもここまで舐めてくれたな。」

「…………」

「匿名で情報を貰ってなぁ。あの女と喧嘩して仲違いしたんだろ。一人なら逃げ切れるとか思ったか? MP切れなんだろ? お?」

「…………」

「まぁ。あの女はもういいや気が強いし我儘そうだからな。だがお前は何よりも顔がムカつくからな。そうだなぁ。G全部出して金になりそうなもの出して土下座するなら見逃してやるぜ? ギャハハハ」

「…………」

「黙りやがって。ビビッて何も言えねーのか? なんとか言ってみろよ。ほら」

『こちらフォックストロット。現着まで3分だ』

「なんとか……そして。反撃開始だ。二人とも! GO!」


 フォックストロットもとい姉からの連絡を受けた瞬間に合図を送ればおじいさんと牡蠣フライさんが飛び出す。このラストル大橋の陰に隠れてもらっていたのだ。僕と二人で挟み撃ちの形をとる。おじいさんは刀を牡蠣フライさんはメイスを持ち油断なく構える。


「っち!? 挟み撃ちかだが甘いな!お前一人くらい突破できるんだよ! 全員前に突っ込め! 後ろの敵は無視だ!」


 ナンパ男達は伏兵が出たのに慌てるもこちらを指して攻撃を仕掛けてくる。

魔法使いからは炎の玉が。戦士とナンパ男もメイスを振りかぶって襲い掛かる。


「おっと! そうはイカフライ! お前の相手はこっちだ」

「若者だけじゃなく爺の相手もしてくれんかね?」


 戦士二人を牡蠣フライさんとおじいさんが足止めして。引き付けてくれる。

まあ。それでもまだ二人さらに魔法は飛んできている。


「ありがとうございます。お二人とも。そして僕がこれだけしか用意してないとお思いで? そうだとしたら甘いんじゃないんですかねぇ?」


 その声と共に赤い髪の女性と栗色の髪の女性が駆け出し。赤い髪の方は大剣で栗色の髪の方は手甲で男の振りかぶった武器を受け止めていた。


「待たせたな! 紅蓮傭兵団今を持って現着だ! 対象は目の前の初心者狩りでいいな?」


 赤い髪を揺らしてきてくれたのは僕の姉たる紅蓮傭兵団の団長ファング。そしてその仲間の二人だ。


「ええ。それでいいですよ。これで同数ですね。いやぁ。持つべきものは友達ですねぇ。降伏していただければ。殺すつもりはありませんよ」

「ぐぐぐ……紅蓮傭兵団と知り合いなのかよ!? くそっくそっくっそぉぉぉぉおおおお!」


 叫びながら姉にメイスを叩きつけるもその攻撃は大剣の前にすべて弾かれてしまう。スキルの差は歴然。ナンパ男よりも姉さんの方が上の様だね。


「さてとクライアントのご命令だ拘束させてもらうよ。マリーナ!」

「はぁ~い。えいえい。動かないでくださいねー」


姉さんの掛け声と同時にマリーナさんがナンパ男に向かって杖を振るうと。ナンパ男は膝をがくがくと震わせ。その場に沈むのであった。


「そっちの他の奴らもおとなしくしな。こいつみたくやられたくなければね」


キリガさんが自分の戦っていた戦士に関節技を決めながら脅せば魔法使いたちや牡蠣フライさんやおじいさんと闘っていた戦士も両手をあげて降伏を示した。


「ふぅ。みなさんありがとうございました。こちらアルファ。ブラボーに告ぐ。策は成ったり、此方の勝利だ」

「お、やったジャン。あ。そっちに向かってるジャン」

「いやぁ。別にこなくてもいいんだけどなぁ。どのくらいでつく?」

「巨大種の馬だけど。僕の魔法で速度上げてるから後20分くらいかなぁ」

「おっけい。それじゃ通信は切るね」

そう言ってから僕は通信を切る事にした。

「さ・て・と♪ いやー愉快愉快。こういのは悪いと思いますが。貴方達は結構馬鹿ですね」

「ぐぐぐ……自分の力で勝とうとは思わなかったのかこの野郎!」

「考えましたよ。でもまぁ実力不足には負けるというものでね。手を借りました。このゲームのジャンルは大規模多人数参加型ゲーム。一人じゃないというのはいいですね。誰かに頼って協力して問題を片付けるというのが大事なのはリアルにもいえる話だ」

「で? 人様に頼って屈服させて満足したかよ? っけ」

「正直満足は出来ませんよ。策を成すために女の子に酷いことしましたし。まぁそれをしただけの対価を受け取りたいので。こちらの書面に目を通した後にサインをお願いします。後は前回までの迷惑金と傭兵代を頂けます? そうですね7万で」


 取り出したるはインベントリにしまっておいた。3枚の用紙。今後一切。僕とサクさんへの攻撃を禁ずるという旨の書かれた書類だ。僕とナンパ男そして第三者に預ける用の三つを用意しておいた。3つ目はおじいさんに預かってもらうことを既に了承済みだ。お金の方は3万は姉さん達。1万ずつ牡蠣フライとおじいさんに後は僕とサクさんの取り分だ。さんざん巻き上げてるんだこれくらい持ってるだろう。


「まだ一度目なので書面にサインしていただき約束してもらうだけにします。二度目は通報しますので。それではお書きください」

「っち…………わかったよ。Gの方もほらよ。くっそ」


 Gを無造作に僕に放り投げた後に書面に名前を書く。乙牌楽園と書かれてるが何て読むのだろうか?


「お手数ですが。フリガナもお願いします」

「わーったよ。畜生。天下の乙牌楽園様がこんなガキに負けちまうとはよぉ」

「ふむふむ乙牌楽園オツパイパラダイスと……こんなヘンテコな名前に僕は良いようにやられてたのか、とにもまぁありがとうございます。それでは拘束を解きますので後は何処へでも行ってしまわれてどうぞ」


 そう言えば。乙牌楽園はサファードの方向へと逃げていく。さてと後は軍師殿を待つだけだが。お、来た来たってあの馬は。


「コージィ……」

「サクさん……」


そこには僕の知る変な語尾のゴスロリ少女ではなく。先ほどチームを解散したあげくお荷物だと酷い言葉を言って突き放したサクさんなので会った。

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