第10話
とりあえず駆け足で草原を行く、走行スキルは走れば走るほど伸びるはずだ。
歩くよりも駆け足をした方が強くなれるならするべきだ、疲労感は全くないのもそれに拍車をかけた。しかし変わりと言わんばかりに空腹度が昨日よりも消耗が激しい。一度止まり、牛丼を頬張る、インベントリに入れてる間は腐りもしないし冷めもしない、便利だ。今日も牛丼で腹を膨らませる、この世界に来てから牛丼しか食べてないが栄養バランス考えたりはしないでいいのだろうか。
まあ、今の所、不都合があるわけでもないので気にしない、大体の都合のいい事はゲームだからと思えとは姉の言葉だ。ゴブリンに見つけられてしまうが、焦らずに杖先を向けて魔法を放つ。いつもの風の矢がゴブリンを打ち抜き粒子へと変えていく、アイテムを落としていないのを確認してそのまま走り続ける。
そうしていれば次は目の前から、ゴブリンが3体ほどとびかかってくる。慌てて足を止め、後ろに飛び退いて回避する。ゴブリンたちは突撃が失敗してもあきらめず、こちらを威嚇するように吠え棍棒を構えていた。だが、僕だって昨日とは一味違うのだ、新しい魔法も覚えた、ひとつ試してみよう。
杖先をゴブリンに向けるのではなく、横に払えば、風の刃が発射される。
ウィンドカッターと言う魔法だ、威力こそアローに劣るが、その幅広の刃のような形状は横に並んだ敵を一層するのには効果的だ。その予想は的中し、ゴブリン三体は一発の風の刃に腹を裂かれ粒子となって消えてしまう。
いままで苦労していたのに、随分とゴブリンが弱く感じるようになった。
やはり、風魔法のスキルが伸びている為、魔法の威力も上がっており、ゴブリン程度は簡単に仕留めれるという事だろうか。当初の目的地たる、池に到着、しばしの休憩を挟んだら、ここから先に進んでみることにしよう。
ゲーム内時刻はまだ午前、この調子でいければ、草原の探索はすぐにでも終わってしまうんじゃなかろうか。
◆
あの時の池での油断はしてはならなかった、絶賛窮地真っただ中である。
池より先に進んだ先、そこで待っていたのは、唸り声をあげて僕を取り囲む存在であった。黒く美しくも荒々しい毛並みに、強靭な四肢を持ったその存在は、犬などと言う生易しい存在ではない。狼である、口端から見える鋭い牙は僕を噛み殺すために誂えたと思わせ、恐怖に身震いを起こすほどだ。
狼は群れを成して狩りを行う生き物だ、こうして取り囲み追い詰めようとするのが常套手段である。しかしおめおめとやられるわけにはいかない、包囲網を突破するべく決心し、一体の狼に風の矢を射込む。しかし狼はゴブリンよりも早いためか魔法を飛び退いて回避、その矢は当たることはなかった、だがそれでいい。
飛び退いた狼に一瞬の隙ができる、その隙を狙って横を全力疾走で走り逃げ出す。
狼たちが追いかけてくる、なんとか引き離したいがそこは狼、つかず離れずくっついてくる。現実ならすぐにつかまってしまうが探索者のスペックならば、追いつかれずにはすみそうだ。しかし現実でも逃げる獲物をつかず離れずでおいつめて、逃げる体力が尽きた所をガブリとは聞いたことがある。
このままではじり貧だ、だけどもそう簡単にやられるわけにはいかない、ここも新しい魔法でどうにかしてみよう。
「ウィンドダッシュ!」
この前のように気合を入れるために魔法を叫び、ブーツを杖の先で一度叩けば、足に引っ張られるような形で加速し走り始める。この魔法は風の力によって、一時的に攻撃速度や走る速さなどを伸ばす、いわゆる強化魔法であった。
急に速度を上げた僕に対して狼もスピードを上げるも、その差は歴然、しばらくして狼は諦めてしまうのだった。
なんとか今回も窮地を脱することが出来た、だが、この手はそう何度も使えないだろう、なにせ消耗が激しい。別にMPは心配していない、かなりの量があるし、この魔法自体の消費量も少ない。本当に心配すべきは空腹度なのである、こんなスピードで走るのだ、その空腹度の減少はすさまじい。逃げおおせたならば、すぐに足を止め、空腹度を確認する、スキルが使えないところまで減少してしまっていた。
「これは、早急に別の手段を身に着けるか見つけるべきだな」
牛丼を頬張りながら独り言ちる。スキルが使えるところまで回復したら、ひとまず街に戻るべく、帰還魔法を唱えるのだった。
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