第6話

 一度街に戻ってきた僕がまずする事は食料の調達であった。

戦闘が終わってから空腹度を確認したら、すでに危険域ギリギリ。

スキルが使えるか使えないかの瀬戸際だったので慌てて帰還魔法で街まで戻った。

そして、どこか食事アイテムが手に入る場所がないかと探せば、門をくぐったすぐそこには牛丼屋がやっていた。


 思い切りファンタジーなゲームの中になぜ牛丼屋と思うが、悠長に考えるのは食事をしながらでも遅くないと、店に入る。店の中はファンタジーの雰囲気を壊さないように洋風テイストな様式になっていた。ひとまずカウンターにつけばメニュー表を渡される。現在の所持金は最初に渡されたお金だけ、この世界では「G(ジー)」という呼称で呼ばれる。ゴールドとかそういったものの略称ではなくそのまんまである。


 このゲームつくづく、まんまな呼称が多くは無かろうか?まあひねった言い回しをされるよかはわかりやすくていいとは僕は思う。初期のお金は1000G、メニューを見れば、並盛30G、大盛50Gとありかなり安い。多分であるが1Gは円換算なら10円といった所だろう。迷うことなく大盛を頼めば、数分待つことでほかほかの牛丼が出てきた、無言で牛丼を頬張る、牛肉のジューシーさを損なわない絶妙なタレの味、それは米にもよく染みていた。


 玉ねぎのアクセントも聞いており、飽きさせることはない、牛丼を頬張るのを一度やめて、付け合わせの漬物をいただく。シャキシャキとした食感と口の中をさっぱりさせてくれる塩味がとてもいい、最後にみそ汁もすすれば、お味噌の優しい味と温かさが心を和ましてくれた。


 食べ終わり、最後にごちそうさまと手を合わせて食事を終える、ゲームの設定なのか、大盛を食べたというのに満腹感などは感じられないが。そのおいしさへの満足感は大いに感じれた、空腹度も100まで戻っている。最後に店員さんに牛丼の並盛をいくつか注文すると、店員に探索者さんですかと尋ねられた。


 どうやら、同じように大量注文する者もいるらしくそういった客は魔法のカバン(インベントリの事)を持っている探索者のようだ。そう答えた後、この街では牛丼屋は珍しくないものなのか尋ねてみた。答えは珍しいものではないとの事。

この先の平原にはいくつかの村があるがそのどこもが水源に恵まれている水田を作るのに適した土地で主食も大半が米であるとの事。更に言えば、牛や豚などの牧畜も盛んなため、牛も豚も多くの人に親しまれているらしい。


 その話を聞いていれば牛丼が完成して渡される、教えてくれた店員に再度お礼を言って、牛丼屋を後にするとしよう。さて、次に行う事、それはお金の稼ぎ方である。正直もっと早くに調べるべきであった。


 探索者は遺跡を探し財宝を見つけることが第一目標であり、稼ぎ口である、だがそのための初期費用はどう賄うのか?答えは別の稼ぎ口で稼ぐほかないのである、では稼ぎ口はどこにあるのか?それがわからない、仕方ない、ここは悩ましい所だが頼るほかないだろう。フレンドリストからまだ一人しか登録されていない、女性、姉に助力を求めることにした。えっと、通話機能はこうかな。


「もしもし、姉さん?いま、時間大丈夫?」


 通話を繋ぐと姉はどこか騒がしい所にいるのか、周りの人の声などの喧騒が通話越しにかすかに聞こえた。


「おお、弟よ、さっそく私の助けが必要か?今どこさ?聞きに行こうか?」

「いや、僕が姉さんの所に行けるならそうしたいかな、ファウストの街の街門付近の牛丼屋の前にいるんだ、さっき戻ったばかりでね、姉さんはどこかな?」

「ああ、私もファウストだな、大通りにある探索者集会所だよ、場所解る?」


探索者集会所?探索者にも集まる場所があるという事だろうか?更に尋ねる


「ううん、わからない、何処にあるのさ?」

「その牛丼屋にいるなら、すぐだな、大通りをずっと進んでくれ、そしたら探索者集会所って看板が出てる」

「分かった、ありがとう、それじゃ」


僕はその一言を最後に通話を切り上げ、歩き出す、探索者集会所、多分だけど相談したい事の解決口になりそうな予感がする





 大通りをしばらく歩けば、大きな建物が目に入った、看板には「冒険者集会所」と書かれている、ここだろう。扉を開き入れば、そこには鎧を身に着けていたり、ローブに身を包んだ人達が思い思いに会話をしている場所だった。外見もそうだったが、中もやはりというべきか広い、いくつかのテーブルが置かれており、空席もそこそこあった。


 飲み物などを注文するカウンターとは別のカウンターなのだろうか?他の探索者が書類を持ってそのカウンターで話していた。

他にも壁にはいくつかの張り紙がされた掲示板が複数並んでおり、その一枚を思い思いに剥がしていた、いいのかあれ?


「おーい、弟よ、こっちこっち、こっちの席だよ!」


 大声で聞き慣れた僕を呼ぶ声がした、振り返れば、真っ赤な髪に真っ赤な目、赤色を基調とした鎧に身を包み自分よりも大きな大剣を背負った姉がいた。しかし、その傍らには僕の知らない人も二人ほど座っていた。姉の友人か何かだろうか?

ひとりは男性だろうか?栗色の髪をした中性的な顔立ちをしていた、体格も太いとは言えない、むしろ細いほうだろう、女性にもみえる。

 また姉と対照的に軽装だ、武器らしい武器も持っていない、僕を見て笑みを浮かべて手を振った。


 もうひとりの方は白いローブに身を包んでいるが、ローブではごまかせない胸をしていた、失礼とは思うが目が行ってしまった、僕と同じように杖を持っていることから魔法を使うのだと思う。


「姉さん、大声で僕を呼ぶのはやめてよ、それと、隣にいる二人は友達?」

「あんたんとこの弟だから、荒っぽい奴だと思ったら、随分と優しそうな奴だね、初めまして、私はキリガ、よろしく」


 軽装の男性だと思っていた方から出た声は女性のそれとわかる声音であった、危なかった、男の人と勘違いしたままであればいずれ、大変なことになっていたやもしれない。


「わたしはマリーナっていいますぅ、あなたがみっちゃんがよく話してくれる、弟君?」


 ローブの女性の方はゆっくりとした口調で僕にそう問いただしてくる、どうやら姉の友人と思われる、僕の事をどう話したんだ?


「おい、マリーナ、こっちの世界での私は紅蓮傭兵団のファングだ、リアルの情報を出すな」

「ごめんなさ~い、それじゃ弟君も、ほら座って座って、自己紹介おねがいね?」


そう聞かれてから、自分の名前を名乗っていないのと立ったままでいる事を思い出し、慌てて椅子に腰かけてから自己紹介を始める。


「あ、すみません、僕はこの世界だとコージィって名乗ってます、そっちの真っ赤な女性とは姉弟になりますね、ちなみに参考までにですが、僕の話とは何を?」


 本来ならば、自分と姉が姉弟であることやリアルの話をするのは憚れるだろうが、姉の友人と思わしき人物なら平気だろうと、話してしまう。


「おい、弟よそれを今聞く必要はないんじゃないか?」


姉が制止しようと口をはさむが、その口をはさむ前に二人の友人は話し始めてしまう


「えっとね~、とっても頭がいいとか、礼儀正しいとか、顔もいいって言ってたね~、確かにイケメン君だね~」

「ようはブラコンなんだよ、あんたんとこのお姉さんはこいつの話題の大半はゲームかあんたの話題ばっかりだよ」

「私はけっしてブラコンじゃない!ブラコンじゃないもん!」


姉は友人たる二人の言葉、特にキリガさんの言葉に顔を赤くして反論していた、 口調が変なことになるほどに、どうやら僕は姉にある程度評価されていたらしい、それは普通にうれしい事だ。


「姉さんがそう思ってくれてたとは初耳だね、悪い気はしない、うん、さて聞きに来たのは姉に対する僕の評価ではないんだ、そろそろ本題入りたいかな、姉さん」


 顔を覆っている姉に対して相談をしに来たのが目的であるのでその目的を果たすために姉には早急に復活してもらいたい。


「あ、ああ、そうだったな、弟よ、で、何が聞きたいんだ?頼れる姉になんでも話してくれ」

「多分、利発でいい子そうだからこうして相談されるなんてゲームが初めてだろうね」

「言ってやるなよマリーナ、事実だとしてもそこは心で思うだけに留めておくべきだ」

「聞こえてるからな二人とも、後で覚えておけよ」


 女三人集まれば姦しいとはよく言ったものだ、話が進まない、この場は強引にでも僕が進めるべきか?


「相談したい事は、お金の稼ぎ方なんだけど、何か知ってるかな?」

「遺跡を探して探索して財宝を得るのが探索者の稼ぎ方なんだろうけど、初期費用はどうやって稼げばいいんだって話でさ、ほら最初の1000Gじゃまったく足りなくって」

「で、姉さんに聞きに来たんだ、何かいい案無いかな? あ、お金を貸してやるって言われても断るよ、それが手っ取り早くても、なるべく最初は誰かに頼らないで進めたいしね」


 そう締めくくると、すぐに返事が返ってくる、さすがこのゲームの先行プレイをしていた姉さんだ、相談するなら頼れる先輩プレイヤーだね。


「ふむ、手段は3つだな、1:手に入れたアイテムを売却する 2:集会所の依頼をこなして報酬を得る 3:アイテムを作って売るの3つかな、一応例外もあるが、今、弟ができるものを選定させてもらったよ」


 多分、姉は僕にできやすい事から順番に言ってくれている、そして例外とは僕に今は出来ない事もしくはやってほしくない稼ぎ方なのだろう、アイテムの売却、どこで売れるかはわからないが、動物の皮や肉は確かにお金になるものだと思う

 集会所の依頼とは何か分からないが、先ほどから掲示板から剥がしている書類、あれは何か仕事の求人票みたいなものではないだろうか?

アイテムを作るとはどういう事だろうか?何かスキルが関わっていそうだ。


「お~い、弟く~ん、いきなり喋らなくなったけど、お腹でもいたくなっちゃった?」


 しばし考え込んでいると、マリーナさんが僕の顔を覗き込むように見つめていた、慌ててしまった僕は椅子をひっくり返して転ぶことになった。


「弟よ、考えると周りが見えなくなるのはお前の悪癖だぞ、ちゃんと推理しなくてもいちから話してやるから座りなさい」


 姉はそう言って、僕に立つように促す、僕は立ち上がり椅子に腰かけなおす、驚かせたのをマリーナさんは謝っていたが、あれは僕の悪癖が原因なので謝る必要は無いのだが。


「さてと、お金の稼ぎ方だったな、まず最初に言った、アイテムの売却だが、魔物と闘ったならいくつかアイテムを手に入れただろ、それを売ればいい」

「売却ができるのは、町中にいる行商人NPCや一部のそのアイテムを欲しがってるプレイヤーとかそうそう、ここの職員でそこのカウンターにいる誰かに渡しても引き取ってもらえるぞ」

 

 そう、指差す方向には、今も探索者であろう人物たちと話す女性や男性がいた、ふむふむ、後で持っているアイテムを売却してしまうとしよう。


「次に集会所の依頼だが、入った時に見たというか今もちらっと見たが、あそこの掲示板にはいくつか探索者向けの仕事、依頼などがある」

「このアイテムを取ってきて欲しいだとか、あの魔物を倒して欲しいだとか、草むしりとか引っ越しの手伝いとかもあるぞ」

「アイテムをそのまま売却するより依頼を受けて依頼の品として渡した方が高額になるときもあるからなるべくチェックするべきだな」


 最後の二つは探索者向けなのか?なるほど、持ってるアイテムの中には依頼を完了させることができるアイテムがある可能性もあるだろうし後で確認してみよう。


「最後のアイテムを作るとあるが、スキル構成はどうなってる?」

「えっと、風魔法、治癒魔法、開錠、回避、筆写かな、新しいスキルがあるかも確認しようか?」

「いやいいよ、だが、それだと三つめは厳しいだろうな、筆写ならワンチャンあるかもだが」

「アイテムを作成して稼ぐ方法とはは素材アイテムや食材アイテムを使って、料理や武器、防具、まあ、その他いろいろあるがそれらを作るスキルで稼ぐ方法なんだ」

「で、筆写だと、遺跡から出た損傷の酷い本を解読して筆写したりして本にして売却できるが、そもそもが探索の為の資金稼ぎであるなら、出来ないと同義だな」

「でも、それはつまるところ、そのアイテムを作成できるスキルを持ってれば稼げるって事?」

「そうでもなかったりする、スキルレベルが低ければ、なんだったら、素材を売った方がお金になるときもあるからな、それなりに高いスキルレベルが必要になるだろう」

「じゃあ、現実的なのは1と2かなぁ、ありがとう姉さん、姉さんに相談してよかったよ」

「っふ、またいつでも相談してくれて構わないぞ、もう少しこの街にいるだろうから」

「あれ?紅蓮傭兵団は最速の王都進出が第一目標じゃなかったっけ?」

「そ~ですね~、装備も資金も潤沢ですし、次の街に行くのは既に可能かと~」

「うぐっ………だが初心者プレイヤーを支援しないのも………なぁ?」

「僕なら大丈夫だよ、何かあったら通話越しから相談するし、姉さんは姉さんのやりたい事をするといいよ」

「ふむ、そういうならば探索で人手が欲しい時は紅蓮傭兵団を頼ってくれて構わないぞ、姉弟価格で安くしよう」

「あたしたちは遺跡探索者じゃなくてそれに同行して護衛する傭兵団って役割、そういうプレイをしてるって設定」

キリガさんがそう補足する、なるほどロールプレイング(役割をする)ゲームなのだし、そういうのがいても可笑しくないか。

「それじゃあ、今持ってるアイテムが依頼の品か確認して売却するよ、お二人もお時間を取らせてすみませんでした」

「そんなの気にしなくていいって、あ、それよりフレンド登録しない?ここでお別れってのもなんだし」

「あ、私もしたいです~、お暇な時は一緒に狩りをしましょ~」


 キリガさんとマリーナさんからフレンドの申請が届いたので、さっそく登録させてもらう。登録が終わったら、また最後に一礼し、さっそく依頼を確認してアイテムを売却する。ウサギの肉が欲しいという依頼が幸運にも張り出されていたので受けて、ウサギの肉と書類を受け付けに渡せば報酬が貰えた。

それと同時に革の方も全て売却してしまう、そうして手に入ったお金はしめて5000G、これだけあれば初期装備からの脱却くらいは出来そうだ。

さっそく、街で準備をして更にお金を稼ぐため、あの草原に足を運ぶことにしよう。

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