第5話

「参ったな、まったく情報が手に入らない」


 ファウストの街の中央広場、そこに備え付けられたベンチでひとり呟く。

遺跡について情報収集をしてみるが、遺跡の情報は何一つとして得られなかった。

いや、そもそも遺跡を探すのは探索者の役目なのだから、誰かに聞くことから間違いだったのだろう。まあ、遺跡についてはそのうちに何かわかることもあるだろう、ともすれば次にやることは。そう、スキルを磨いて強くなること、そして魔物と契約をすることだ。今持ってるスキルの強化と新規スキルの習得、後は契約だが、どんな魔物と契約しようか、強い弱いじゃなく気に入った奴と契約したいものだ。

そんなことを想いながら、僕はファウストの街から先ほどまで走り回っていた、草原へと戻ることにした。

 




 杖を振るった先から緑色の弓矢が発射され、目の前の目標へと飛んでいく、対象は草原をのんびりと跳んでいた兎だ。さて今放ったのは風魔法の一つ、かなり速い速度で発射されるこれは名前をウィンドアローと言う、見たまんまであるが私的には分かりやすくていいと思ってる。

 それは目の前のウサギに吸い込まれるように刺さると、ウサギは一度だけ悲鳴をあげた後に青い粒子に変わるつまり倒したわけだ。

 倒したところに寄ってみれば、ウサギの肉と毛皮が散らばっている、何度か見たが不思議な光景である、ゲームだからそこらへんは簡略化されてるわけなのだろう。

 この風魔法はウサギ程度なら一撃で倒せる程の威力を持つがゴブリンにはいまだ試せずにいた。


 最初に会って以来、遠目ではあるが何度か発見はしたが、怖いので距離を開けて、ちまちまとウサギを狩っているのだ、幸い見つかることがなくてよかった。

おかげで、ウサギの毛皮と肉がたっぷりである、荷物などはインベントリ、見えないカバンのような何かに納められるので気にしなくてもいいようだ。


 てくてくとウサギを求めて歩いて、ウサギを見つけては、風の矢で倒す、その繰り返しである、ステータス画面を見ると風魔法のスキルは着々と伸びている。

他のスキルを伸ばそうにも開錠が必要な物は見つけれていないし、筆写に至っては書くものを一切持っていないという現状だ。

回避や治癒は接敵して肉弾戦でもしない限り伸びることはないだろう、しかし大分歩いてきたようで、街が随分と遠くである。


 帰りの心配はしていない、ここで役立つのが特殊スキル帰還魔法。調べてみた所この魔法は最後に訪れた街まで戻ることができるという便利な魔法である。

だが、戦闘中や緊迫した状況や特定の場所では使用ができないと制限もあるようだ、ま、それを加味しても便利なスキルだと思う。


 そんな風にのんびりと草原を歩けば、池が見つかる、どっかから湧いているのかはわからないが、いい景色だ。しばし休憩とするとしよう。

適当な場所に腰かけ、池をのんびりと見つめる、魚でもいるだろうかとのぞき込めば池の水は澄んでおり水底までよく見えた。

 結果としては魚などはいなかったが、オタマジャクシやヤゴといった水棲生物が見つかった、捕まえたりできるのだろうか?

少し手を伸ばして捕まえてみようとするが、するすると手の隙間から逃げて行ってしまった、網でもあればいけるかもしれない。

 そんなふうに少し水遊びをしてから座り直しのんびりしていると、後ろから草むらの動く音がする。

すぐに立ち上がり、振り返る、そこには先ほど僕を追っていた存在、ゴブリンが立っていた。


「やぁ、いい天気だね、見逃してくれたr……やっぱだめか!」


 ダメもとで見逃してくれるように行ってみるが交渉はむなしく失敗、またしても逃走を始める事になったのだった。

 走る、走る、走る、ゴブリンは同じように走っており、つかず離れずで僕の後ろを追ってくる。

まったく息が切れていない、その反対で僕には疲労が積もっていった。

 このゲームにはHPとMP他各種ステータスとスキル以外に空腹度というステータスが設定されている。

これの減少具合でプレイヤーは様々な状態異常に落ちいってしまう。

最初のうちはその症状は出ないのだが、見る見るうちに減るそれは不安感を掻き立ててくれる。そして、半分ほどで徐々に一時的にスキルが使用できなくなり、更にその半分となれば能力値が一時的に大幅減少してしまう。

最終的に0になった状態のままだと徐々にHPが減っていき倒れてしまうという設定だ。回復方法は食事アイテムと言われるアイテムが必要だが、あいにく買い忘れてしまっていた。このまま逃げ続けてもじり貧だろう、街まではかなりの距離があるともすれば戦う他ない!


「こいよ!緑野郎、僕は勝つぞ、勝ってやるからな!」


 そう叫び杖を構えて臨戦態勢に入る、ゴブリンは振り向いた僕に対して、犬歯をむき出しにして笑みを浮かべる、その瞬間だ、僕の腹部めがけて棍棒が振るわれた。

その攻撃が振るわれるのを認識こそ出来たものの身体は反応できず、棍棒の攻撃を受けてしまう。僕のスキルにHPに補正が入るスキルは入っていないし防御力も初期装備じゃ棍棒の一撃に耐えれるわけもなく、半分ほどが削れてしまった。


「げっほ、ごっほ、これでも喰らえ!」


 棍棒の打撃を貰い腹部に鈍痛を抱えながらなんとか風魔法を発射するも所詮はあてずっぽう、ゴブリンは余裕の表情でそれを躱し、更に棍棒を振りかぶる。

僕はそれに対して、最後の力を振り絞り身体を転がすようになんとか回避する、ここが最後のチャンス集中しろ今度こそ当てるんだ!


「ウィンドアロー!」


 魔法を叫ぶ必要は別段ない、ただ気合が乗りそうな気がしたので叫びながら魔法の矢を射込む、勢いよく地面に棍棒を叩きつけた故か体が一瞬硬直していたゴブリンは放たれた風の矢を躱せずまともに受けると、断末魔と共に青い粒子へと変じた。

僕は勝ったのだ、このゲームでは簡単に倒せるであろうたかがゴブリンじゃないかと思う奴がいるかもしれないが。

 ここまで抵抗することのないウサギしか倒してこなかった僕が初めてこちらに抵抗の意思を向けてきた魔物を倒したのである。

これはとても大きな一歩だ、しかしそれと同時に消耗が激しい、特に何も考えずに飛び出したのはいささか軽率だったと思い知らされた。

一度街に戻ろう、そして今度は違うアプローチ方法で情報を集めたり、念入りに準備をして探索をすることに決めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る