第3話クリスマスの男の子

骨の芯から冷えてしまうような、寒い夜だった。


クリスマス当日の街は浮かれに浮かれ、そこら中でジングルベルの歌が流れている。

周りの人々はみな友達や家族や恋人など、大切な人たちと幸せそうな笑顔を交わし合いながらすれ違って行った。


そんな中、私は今日も仕事に追われていた。

クリスマスを共に過ごせるような人などいない私は、寂しさを仕事をすることで忘れようとした。


私は白い息を吐いて、マフラーに顔を埋める。

コートの前をかき合わせて、足早に家路を急いだ。

周りのキラキラは私にのしかかってくるように増してゆく。


溢れる笑顔、笑顔、笑顔。


寂しいなんて、この年ではもう言えない。




何かから逃げるように家に帰った私は、アパートの階段をカンカンと金属的な音を立てて昇った。

このボロアパートの階段は鉄でできていて、足音がよく響く。


家の中にいると、夜中などにこの音が聞こえて、それが妙に耳についてイラつくことがある。


それを上がりきるとまっすぐな6m程度の廊下が伸びていて、右手にドアが等間隔に並んでいる。私の部屋は手前から二番目だ。

いつもは誰もいない、がらんとした空虚な廊下。


だが、今日は違った。


「ママ……?」

「……」


小さな10歳になったばかりくらいの男の子が廊下の真ん中に立っていた。

あったかそうなコートを着ていたが、どのくらい長い時間外にいたのか、外気に直接晒された手は真っ赤に染っている。


男の子は階段を昇ってきた私をハッとした表情で見たが、期待していた相手(恐らく母親)と違ったからか、あからさまに落胆すると私の部屋の隣のドアにしゃがみ込んだ。


男の子は廊下を歩く私に目もくれない。

私はドアの前に立って、鍵を開けた。


部屋の中はきっと暖房をつければ暖かくなるだろう。


私はしばし迷ったあと、男の子に私の部屋に入るか聞いた。


「でも、ママを待たなきゃ行けないから……」


母親が帰ってくるまでここで待つだけだと言う私の言葉に、彼は躊躇いがちに頷いた。

すっかり体が冷えているのか、足取りがおぼつかない。

少しでも私の体温が彼に伝わるように、私は彼の肩に手を置いた。


男の子の小さな肩はカタカタと震えていて、私の胸はチリっと痛んだ。

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