第2話執事の男の子
「おはようございます、お嬢様」
シャッーと開けられたカーテンの間から、朝の爽やかな光が燦々と私の体に降り注ぐ。私は光から顔を背けると、そのまま枕に埋もれ二度寝を試みた。
「ボクの前で二度寝が許されると思わないで下さい。おじょーさまー?」
乱暴にだが優雅な手つきで私の専属執事であるルイは、私の被っていたあったか毛布をひっぺがした。途端に体がひんやりと冷え、私は恨みがましくルイを睨みつける。だが、もう三年も一緒にいるルイはそんな私の無言の抗議をさらっと受け流し、バカ丁寧な仕草でお辞儀した。彼の仕事の邪魔にならないよう美しく切りそろえられた金髪がさらっと彼の頬にかかる。
今年で13歳になった彼だが、その表情は一人前の執事としての誇りに満ちていた。
「おはようございます、お嬢様。朝の支度が整っておりますので、お手伝い致します」
私はムスッとして、ルイの申し出を断った。
「いえ、そんな訳には参りません」
だが、ルイはぴしゃりと私の言を遮る。私が不機嫌に理由を問うと、
「お嬢様は以前にそう言って逃げたことがありますから。当然の処置でございます」
前科を否定する訳にも行かず、結局私は渋々とルイの手によって、制服に着替えさせられた。私の下着姿にも彼はその顔を動かさない。着替えの手伝いなど執事の仕事では毎日やることだ。私ももうすっかり慣れている。
まるで割れ物でも扱うかのような優しい手つきで着替えさせられた私は、彼に先導されるがまま朝食を食べ、カバンを持ち、玄関に向かった。
「さて、では行きましょうか」
そこには私とは違う学校の制服を着たルイが待っていた。私を学校まできちんと送り届けるのもルイの仕事だ。ついでに私がサボらないための監視役でもある。
「お手をどうぞ」
恭しく差し出された手に、あえて私はなるべく優雅な仕草で手を乗せた。まるでお伽噺の王子様とお姫様のようなやり取りである。
だが、これは私に繋がれた手錠と一緒だ。私の行動は常にこの手の中にしかない。苦しいほどに締められた首輪のせいで、息もできない。
「大丈夫」
急に、ルイが私を見上げてそう囁いた。周りに仕えるメイドたちには聞こえないくらいの小声で、彼は私に語りかけた。
「いつかボクが迎えに来るから。だから、今はまだ待ってて」
私はルイを見つめた。いままで見たことのないような表情で彼は頷いた。
泣きそうな目をぎゅっとつむって、私はルイの手を強く握る。
彼と共に、私は歩き出した。
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