14歳以下の男の子とこんな人生が送りたかったっていう妄想
ベルサ
第1話電車の男の子
人波に押されるように、私は電車の中に体を滑り込ませた。
毎朝の通勤電車には死人が出ないことが不思議なほどに、人がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。みんな感情を無表情の中に隠して、まるで隣には誰もいないかのように振る舞う。
私も扉に背中を押し付けながら、ただ息を潜めてこの時間をやりすごすことに挑んでいた。
突然、ガタンと電車が揺れ、悲鳴や舌打ちと共に人波が動いた。狭い車内でのその動きは端に立っていた私に圧力となって襲いかかる。体が扉に押し付けられる感触と同時に、その子は私のお腹にむぎゅっと抱きつくように顔を押し付けてきた。
予想外の襲撃に私は軽く混乱しかける。一瞬痴漢を疑ったが、ランドセルを背負った子供がそのようなことをするはずがないし、その上、その子は今現在私のお腹で完全に窒息している。ふぐぅ……と奇妙な唸り声をあげながら、彼は酸素を求めて必死に顔を上げようとしているが、強固な人の壁の前では儚い努力だ。
私は慌てて、ぐったりとし始めたその子の肩に手を置き引き剥がしてあげる。
「ぷはあっ」
と彼は念願の酸素を胸いっぱいに吸い込むと、ハッとした顔で私を見上げた。
「ひゃっ……あ、あの!ごめんなさい!急に抱きついて……」
彼は私に抱きついたまま申し訳なさそうな顔で謝った。私は気にしていないと返答する。彼はほっとしたような顔を浮かべたが、またすぐに顔を歪めると、
「ごめんなさい……離れた方がいいですよね……。でも今はちょっと動けなくて……」
当然だが、駅に停まるまで私達はこのまま動くことができない。私は気にしないで欲しいこと、むしろ無理に動くと危ないからこのままでいいことを伝えた。
「あ、ありがとうございます、お姉さん」
彼は蕩けるような笑みを浮かべると、頬を私のお腹に寄せ、更にぎゅっと抱きついてきた。その甘えるような子供らしい仕草に私はキュンと胸をときめかせた。やはり子供は可愛いものだ。
たまに顔を上げて微笑んでくる彼と抱き合ったまま、電車は駅に着いた。人波がホームに流れ出し、やっと彼は私から離れる。
「お姉さん。ありがとうございました!」
律儀にお礼を言う彼に手を振りながら、私はちょっと幸せな気分で彼を見送った。
次の日、私は同じ電車に揺られて仕事場に向かっていた。やはり車内はぎゅうぎゅうに混み合っている。
私が定位置の扉の前に立っていると、今日もまた電車がガクンと揺れた。同時にドンと何かがぶつかる。
既視感のある感覚に私が下を向くと、昨日の彼が笑顔で抱きついていた。
「あの、またこのままでもいいですか?」
フフとイタズラっぽい笑みで、彼はぎゅっと私に抱きついた。
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