第3話

列車の旅は気づいたら終わっていた。

どうやらすっかり寝ていたようだ。


もう列車は止まっており、中には誰もいない。

みんな降りたのだろう。

俺も慌てて鞄を持つと列車を降りる。


着いた場所は、森と花に囲まれた穏やかな田舎だった。

家や看板など、人の生活した痕跡はあるが、どれも劣化していておよそ最近のものではない。

木々に支配された美しき廃墟――それが、初めて見た終着駅の印象だった。



「綺麗...だけどこれが『旅行先』になるのか?」


列車に乗っていた人々の半数は旅行が目的だと言っていたが、こんな廃墟に旅行する物好きがそんなにいるのだろうか。


首を傾げつつ、俺は歩き始める。

駅はどうやら無人駅のようで、人の気配はない。

改札の窓口は木や蔦に覆われている。


「明らかに朽ち果ててるよな……人が立ち入らないで随分経ってるだろ」


誰もいない空間で響く自分の呟き。

疑問はますます大きくなっていく。


駅を出て、外観を見る。

無人駅の割には意外と大きい作りの駅。

昔は栄えていたのだろうか。


「駅の隣……は駅長室か?」


駅に寄り添うようにして建っている小さな建物。

とにかく今自分が置かれた状況を知りたくて、足を踏み入れる。


駅周辺と同じく蔦や苔に覆われ、自然に取り込まれた駅長室。

案の定錆びたドアはびくとも動かなかった。


「うっ固い……」


他に出入り口は見当たらなかったので、心の中で『ごめんなさい』と呟いてから、強引に体当たりしてドアを開ける。


そこにあったのは、当時の状況はそのままに蔦や苔に侵食された部屋だった。

簡素的な事務机、書類の入った棚、ふかふかしたソファ。

どれも錆びたり欠けていたりとおよそ使える物ではないが、かつて人がそこで過ごしていた気配は未だに残っていた。



「何だかタイムカプセルみたいだ」


自分がまるでタイムスリップしたかのような不思議な感覚にとらわれつつ、中を捜索する

そこで俺は、ある物を見つけた。


「あれ、これもしかして……」


ほの暗い駅長室の中で、スマホのライトを掲げて確認する。

俺がそれを見て確信したのと、後ろから声をかけられたのはほぼ同時だった。



「誰だい!そこにいるのは!?」

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