第2話

駅員に言われたホームへ行くと、既に列車が止まっていた。


黄色と緑の何ともレトロな列車だ。

中には老若男女、様々な人が乗っている。


最近では珍しい向かい合わせの座席で、俺は端のほうに座り景色を眺めることにした。


普段よく見る知った街の景色。

でも列車の窓に切り取られたその景色は、何だか特別なものに感じた。

切符に行き先がないから、どこに行くかは分からない。

でも、分からないからこそのワクワクがある。


「これからどこ行くんだろうね、楽しみだね!」


見知らぬ子供に声をかけられて、俺は微笑む。

「さぁどこなんだろうね、俺も楽しみだよ」


「ねぇ旅行に行くの?あのね、僕も旅行なんだよ!生まれて初めてなの!だから楽しみなんだぁ」


大きすぎるリュックを背負い、帽子を被ってニッコリ笑う少年。

全身からワクワク感が感じられる。



「それはいいね、楽しんでおいで」


「うん、じゃあねお兄ちゃん!」


パタパタと少年が向こうへ駆けていく。


「本当に楽しそうだな……」


ああやって楽しそうな姿を見ると、何だかこっちも楽しくなる。


観光客が多いのか、この列車に乗る人々は楽しそうに談笑していた。

そして何故か皆よく話しかけてくる。

流石に「拾った切符で列車に」とは言えなかったので、旅行と濁して話を聞く。


旅行という人もいれば、故郷に帰る人もいた。

中には行く宛なく旅をしている人も。

単純に列車が好きで乗ってる人も。


列車に乗る理由は様々だ。

いろんな人のいろんな想いを乗せて、列車は走る。

その中では生まれ育ち全く違う人々が、ほんの一時だけ交流を交わす。


列車に乗らなければ交わることのなかった縁。


――これが、切符の繋ぐ縁なのだろうか。


人々の談笑する姿を眺めつつ、そんなことを思った。

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