第1話




 三本目の鉛筆が、手の中で折れた。

 書けない。


「ああー、もう……!」


 机の上の書きかけの原稿を前に、僕は小さく叫んで頭を抱えた。全く続きが浮かばなかった。ついでに言うと、もうスペアの鉛筆もなかった。

 だいたい、小説ってものは読むぶんにはいいが、書くとなるとものすごく面倒臭い。俳句や短歌などと違って字数の制限がないので、自由になんでも書けるように見えるが、実際書き始めてみると実は見えない制約が多い。しかもいくら順調に書き進めていたとしても、たった一つでも綻びがあると気づいてしまったが最後、それまでの努力は一気に水の泡になる。つまりたとえるならば僕の場合、一作書いている間はずっと、いつ寝首をかかれるかわからない状態でいなくてはならないのだ。

 頭を抱えたまま机に突っ伏す。

 しばらくずっとそうしていると、知らず、独り言が口からこぼれた。

「向いて、ない」

 向いてない。そう、もうそれしか答えはない。

 こんな些細なことで悩むのは、単に、僕に作家の才能がないからだ。ああ、そうだ、結局は人間、才能だ。努力しても努力しても、どうしようもないことはある。

「……よし!」

 僕はかけ声と共に椅子から立ち上がる。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る