力の使い方
「無事ですか!?」
「あぁ、問題ねえよ。ギアも生きてやがる」
セレンの声に大声で返す。俺にとっては普通でもあいつらにとっては一瞬の出来事だったんだろう。理解がようやく追いついたらしい。
ペントライトの亡骸を抱え上げる。そういえば魔王城の下は薬草の群生地になっていたな。世界を壊した魔王が世界中で人々を助けている薬草の地で眠るってのもなかなか悪くねえじゃねえか。
「あの薬草地帯は枯れるぞ」
「なんでだよ。ってかなんで今そんなこと言いだした」
「お前の顔を見ていれば容易に想像がつく」
そんなに顔に出てたか? ってか俺の顔はそんな複雑な感情を表現できるほど柔らかくできてねえぞ。
「薬草は魔力を吸って成長する。この魔素のなさそうな土地でどうしてあんなに育っていたと思う?」
「こいつの中にある魔素ってわけか」
自爆によって黒い風を起こし、それを煙幕代わりに地中へと隠れ、そこで体の回復を待っていた。ペントライトの体から漏れた魔力を吸って、薬草が育っていたってわけだ。師弟揃って地面の中が大好きなやつらだ。
まさか政府の部隊も魔王が生きたまま地中に隠れているなんて考えもしなかったんだろう。やっぱりセレンは政府に入った方がいいんじゃないか。と思えてくる。次にまた大きな問題がこの世界を覆わなければいいんだが。
「そういやこいつ回復法術も使えたってことなんだよな。ただの魔法使いにしたって尋常じゃないな」
「当然だろう。あの男も複数の属性の魔法を使い分ける。お前もそうだ。魔王ができない道理はないだろう」
「そりゃそうかもしれねえけど。だったらなんで使わなかったんだよ」
「お前が使わせなかったんだろう。考えてみろ。お前は硬い肌と回復法術を持つ相手を倒すならどうする?」
そりゃ、一発で倒すか、回復法術を使う隙を与えないかってところだろう。俺の気功法も多少は精神を集中させる時間が必要になる。その一瞬すら与えなければいつかは倒すことができるだろう。
「それがお前の倒し方だ」
「なんだよ。もう俺の倒し方を考えてるんじゃねえか」
「当たり前だ。お前は自分がどれほどの脅威になるかわかっていない。お前と魔王が同等の存在だとすればなおさらにな。まぁ今のお前を相手に何人用意すればそんなことができるかはわかったものではないがな」
そりゃいくらなんでも買いかぶりすぎだ。あいつと違って俺には魔力消費の手段が少ない。あいつの言っていた通り、命は長くないかもしれない。少なくとも数十年に渡って世界を苦しめるような力はない。俺にはこの最強の拳しかないからな。
魔王城の階下。そこに遺体を埋めてやる。少し落ち着いたらニグリのじじいにもこの場所を教えてやろう。そのうち人知れず来るに違いない。
ワンプに戻ってくると、モンスターたちは姿を消していた。前のときは消えてしまったのか隠れていたのかわからないが、今回は確信がある。あいつらは魔法で生み出された闇の影。ペントライトが消えた今、やつらももういない。
「よう。終わったみたいだな」
「そっちは全員無事か?」
「当たり前だ。俺様を誰だと思ってやがる。金剛義賊団、金剛脚のモンド様だ」
ああ、そうだよな。モンドが約束を守らなかったことが一度でもあったか? どんな状況になったって、最後には必ずこうして帰ってきた。
「こっちも無事だ。ちゃんと片付けてきた」
「おう。それでこそユーマだ。おつかれさん」
この豪快な笑顔を見ると落ち着くぜ。これがあるからどんなむちゃくちゃなことに巻き込まれても誰も金剛義賊団から抜け出そうなんてやつは出てこないのだ。
「ユーマさん!」
「見てみろ。ちゃんと帰ってきただろ?」
「約束を破ったら許してあげませんでした。本当によかった」
キラの頬を伝う涙を拭ってやる。だから言っただろ。俺は自分も仲間も裏切らねえと決めているんだ。
「ユーマさんといると、心配で心臓がいくつあっても足りませんよ」
「それじゃ、もう家に帰るか?」
「いいえ。いつも一番側にいてしっかり見張っておかないと」
逆効果かよ。いいかげん諦めてくれると助かるんだが。ただでさえ俺の命は長くない、とペントライトにも言われたところだ。あとどのくらい持つのかわからない。その瞬間にこいつには近くにいてほしくない。
とはいえ、この顔はまったくそんな都合のいい方向に進んでくれそうもない。今ももう終わったって言ってるのに、俺の腕にしがみついて離れる気配はない。
「もう魔王はいないって言っただろ」
「魔王がいなくなったらまた強い人を探してどこかに行っちゃうじゃないですか」
「俺を何だと思ってんだよ」
俺が出向くときはちゃんとやらなきゃならねえことがあるときだ。いつもはやりたくもねえ書類の片付けをちゃんとやってただろうが。
ただ残りの命が少ないってことなら、やりたいことはいくらでもある。
「あ、またなにかよからぬことを考えてますね」
「そんなことねえよ」
俺の考えを見透かしたように、キラが腕をつねる。鱗に覆われた肌は指でつまむことなんて少しもできない。痛みはまったくない。だからこそ俺にはペントライトの言葉が思い出された。
「どうせなら世界中のやつを助けてやりたいな」
「ほら、やっぱりそんなこと言いだすんですから」
「俺にはワンプじゃ狭くなっちまったんだよ」
もちろん嫌いになったわけじゃない。ただこの有り余る力を少しでも使うにはワンプだけじゃ足りなくなってしまう。ならこの世界中でまだ困っているやつのために力を使ってやりたい。
「義賊団のパトロールの範囲がちょっと世界に広がるだけさ」
「もう魔王はいないんですよ?」
「それでも獰猛な野生モンスターはまだまだいるさ。下手に刺激しなければ大丈夫なやつも多いんだがな」
平和に過ごしている人間にとっては獰猛な種も温厚な種も関係ない。全部まとめて危険なモンスターだ。
モンスターの被害に怯えているやつらはいくらでもいるだろうし、逆にモンスターを襲って無意味な被害を増やしているやつらもいるはずだ。
「どこにいるかもわからない人をみんな助けに行くんですか?」
「ワンプでパトロールしてたときだって一緒だろ。どこにいるのか、そもそもいるかどうかもわからない助けを探してたんだ。別に何も変わらない」
「全然違うんですけど、ユーマさんは言っても聞かないですよね」
当たり前だ。現実がどうとか、理屈がどうとかなんて俺には何の意味もない。
俺が今やりたいことを今やる。そうやって俺は前に進んできたんだ。
そしてこれからもずっと俺のやりたいようにやらせてもらうぜ。
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