勇者、再集結

「ユーマさんはそんな顔が似合いますわね」


「話なんてしてるとまた気分が悪くなるぞ」


 こんなにいたずらっぽく笑うやつだっただろうか。まぁ、三年も経っているんだ。俺は少しも変わったつもりはなかったが、ギアにもモンドに似てきたなんて言われたしな。セレンだっていろんな経験をして変わっているんだ。


 ギアのやつだって結構変わっているか。本質的なところは相変わらずだからそんなにおかしな気はしないんだけどな。


 ウェルネシアの防壁が見えてくる。また跳び越えて宮殿内に忍び込まなきゃならない。今回は衛兵もそんなにおいていないだろう。さっさとセレンを解放してやらないとな。


 アジトを出たときの余裕はどこに消えたのか。セレンはずっと黙ったままだ。揺れないように気にしていたつもりだが、ダメだったらしい。


 遠くに先端だけ見えていた防壁がすべて見えるようになった頃、こちらに気付いたらしい衛兵が数人走ってきた。おいおい、この間の件は恩赦にしてくれよ。


 横を抜けるか。そう思って足に力を込める。


「ユーマ様、セレン様。ギア様から宮殿に通せとのお達しです。どうぞ」


「マジかよ」


 その場で急停止。セレンの表情が歪む。驚かされたんだから勘弁してくれ。


「セレンはともかく、俺まで呼ばれてんのか?」


「はい。見つけ次第叫んで止めろ、とのことです」


「俺の速さをよくわかってんじゃねえか」


 接近してから声かけられたんじゃ、聞こえる前にその場から消えてるからな。


「それではこちらへどうぞ」


 衛兵に招かれて正門からウェルネシアに入る。もう二度とここから入れなくてもしかたないと思っていたから、意外だったな。


 見たことのない肌、それに加えてあれだけ派手にやったおかげで衛兵の視線は痛い。ついでに言うと侵入するつもりだったから服装も俺だけ浮いてるしな。正式に呼ばれれば身なり整える常識くらいはあるぞ、俺だって。


 アジトの中をひっくり返してもそんなもんは出てこなさそうだけどな。


「ようやく来たか」


「呼びつけるならもう少し考えてくれよ」


「お前がここに入ってくるのは予想していた。中で暴れる前に止めるにはあれが一番有効だ」


 暴れねえよ、ちょっと衛兵が混乱するだけだ。前回だって手は出してないんだぞ。もっと評価してくれていいんだぞ。


「あー、また出てきた。なんでこんなとこにモンスターがいるわけ? 燃やす?」


「相変わらずてめえは頭の中身空っぽだな」


 警戒心を隠すことなく威嚇するルビーに思わず溜息が漏れる。未だにこいつは俺のことがわかってねえのか。そりゃ見た目は変わってるけど、だいたい面影はあるだろ。ギアやセレンはわかってんだから。


「話は聞いている。久しく会わないうちに苦労したようだな」


「まぁしかたねえさ。生きてるだけで運がいいってもんさ」


 そして最後の一人、騎士のダマスカス。形は変わったが重そうな鎧を着て国、いや今は一応新政府か。衛兵長としての鎧を着ている。


「それにしても壮観だな。勇者ご一行が勢ぞろいじゃねえか」


「嫌味のつもりか?」


「てめえが卑屈になるなよ。別に妬んでたりしねえって」


 まさかまたこうして集まるとは思っていなかった。今は昔を懐かしむって雰囲気でもねえけどな。


 魔王が復活したんだ。当然最初に集められるのはこのメンバーだろう。ならなおさら俺が呼ばれる理由がわかんねえな。


「話は短く済ませるぞ。知っての通り、廃墟だった魔王城が再生。そこから大型の魔法が放たれている。今のところ被害はワンプのみだが、これがいつ世界中に飛び火するかわからない。そこで魔王討伐の特別部隊を設置し討伐に向かう」


「じゃあ思いっきり燃やしていいんだよね? やったー!」


「俺の指示には従ってもらうぞ」


「魔王討伐となれば私たちが集められるのも当然ですわね。近くにいてよかったですわ」


 ダマスカスも黙ったまま首を縦に振った。間違いなく国民の期待を背負うに値するパーティだろう。新政府の長自らってのはどうかと思うが。王様が行くようなもんだろ。


「パーティの構成は三年前と同じだ。剣士の俺、魔術師ルビー、法術師セレン、騎士ダマスカス。そして、格闘家の、こいつだ」


「三年前にはいなかったやつがいるんだけど?」


 ギアの言葉を聞いて、ルビーが俺の方を睨みつける。俺が言い出したことじゃないぞ。同じパーティでなんて、そんなこと考えてもいなかった。


 ここに来たことだって、勝手に攻め込むと後で嫌になるほど文句をつけられそうだったから、一人で魔王城に乗り込むことは一応ギアに伝えにきたってだけだ。


「どうした? 俺は私情を挟むつもりはない。今のお前は戦力になる。そう判断しただけだ」


 冷静に言い切ってくれやがる。事実、昔の俺と比べたらその差は歴然だ。なんてったって大型魔法を殴って打ち返すやつは世界を探しても俺一人だろう。蹴ってぶっ壊すやつは一人知ってるけどな。


「二つ条件がある」


「聞いてやろう」


「一つ目は、俺は格闘家じゃない。義賊だ。金剛義賊団のユーマだ。そこは認めてもらう」


「構わない」


 モンドに言われたけど、やっぱり今の俺はあの中にいる。こいつらとともに旅をしていた格闘家じゃない。あいつらのところに帰るためにもしっかりと倒さなきゃならないんだ。


「もう一つは」


 そう言って俺はギアの腰元を指差した。さっきはいいところで邪魔が入ったからな。俺のわがままを押し通さなきゃ、お前に勝った気がしなくて嫌なんだよ。


「剣を抜け。俺と勝負しろ」


「はぁ? 今の状況わかってるわけ? ただでさえ足手まといが増えたんだからギア様にそんな暇があるわけ」


「黙ってろ、ルビー。訓練所を借りるぞ。ついてこい」


 文句をまくしたてるルビーを片手で抑え、ギアは大臣らしい髭のおっさんに一言伝えて歩き出した。


「いいねえ。そういう態度が欲しかったんだよ、俺は」


「お前の実力を見てもらった方が早いと判断しただけだ」


「はいはい、そういうことにしといてやるよ」


 お前の剣が錆びついていないなら、今の俺と戦ってみたいと思ったはずだ。戦っている人間なら自分より強いやつを見たときにいつでも思う。その技を自分と比べてみたいと。どんなに冷静を装ったってその気持ちは隠せない。そういうもんだ。

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