復活の金剛脚
「こういうもんはなぁ!」
「蹴っ飛ばして、ぶち壊せばいいんだよ!」
セリフが盗まれた。賊みたいなことしやがって。いや、俺たちは義賊団だ。そのリーダーならそのくらいできないことはない。
闇の刃が砕ける。元の姿を思い出したようにそれは溶けるように空へ消えていった。
「ははーん。俺様の技もまだまだ錆びついてないようだな」
「モンド!」
「兄貴! 遅かったじゃねえか!」
「ハッハッハー! 俺様だってユーマの足には追いつけないからな。金剛脚のモンド、戻ってきたぜ!」
闇を振り払って、世界が光を取り戻したように義賊団から歓声が上がる。やっぱりこれだ。これこそが俺たちのリーダー、金剛脚のモンドだ。
「信じてたぜ、モンド」
「おうよ。暗い場所に長くいたせいで気が滅入ってたみたいだな。助かったぜ、ユーマ」
「なんだよ兄貴。やっぱり兄貴に政治家は向いてなかったみたいだな」
「ハッハッハー! そういうことだな!」
モンドはそう言って笑い飛ばす。だったら俺もそれ以上言うことはない。それよりも帰ってきてくれたことの方が何倍も価値があることなんだから。
「そんで、今のヤバそうなやつはなんだったんだ?」
「ギアがやってたあの大型魔法を魔王も使えるらしい」
「そうか。ならぶっ倒してこい!」
話が早くて助かる。こういうのがいいんだよ。難しいことをつらつら並べたってやらなきゃいけねえことは変わってくれたりしないんだから。
「よし、ギアはいるし、ちょうどセレンがいてくれる。騎士はいねえが俺とモンドがいればなんとか」
「何言ってんだ。俺様が行くわけねえだろ」
「なんでだよ」
「俺様は義賊だ。魔王を倒すのは勇者の役目だって昔っから決まってんだよ」
何をいまさら。勇者制度は三年前に魔王を倒したと思ったときになくなった。今じゃ元勇者候補生がその一員だったことを酒場で誇ることすらつまみにもならないほど無意味になっている。
「俺様は仲間を守る。義賊団としてだ。だからユーマ。お前は行ってこい。魔王を倒してこい」
「それが義賊の仕事だって言うなら俺もそっちに行く。仲間の方が大事だ」
「バカ野郎! 俺様が信じられないか? 俺様が守るって言ったものはたとえ髪の毛一本だって触れさせてやらねえ。お前の出番はない」
「だったら何をしろって言うんだよ」
「お前は勇者になれる男だ。俺が保障する。三年も俺様のわがままに付き合ってもらったんだ。ここから先はおまえのやりたいことをやれ。心配すんな。終わったらまた帰ってくればいい。俺様と同じことだ」
俺がやりたいこと、俺がやりたかったこと、俺がやり直したいこと。
あの日。ギアの言葉に反論できずに逃げ出したこと。
戦う前から無理だと決めつけられた言葉に素直に従ったこと。
できるかどうかはやってみなきゃわからねえ。それを俺はここまで実践してきた。今度は無理だなんて言わせねえ。三年前にぶつけたかったこの拳をペントライトの鼻
っ面に叩きこんでやる。
「ありがとな、モンド」
「これで貸し借りはなしだ。ただしもしも死んだりしてみろ。一生恨むぞ。生きて帰ってこい」
「わかったよ。必ず帰ってくる。信じていてくれ。俺もお前らを信じてるからな」
「おうよ。俺が信じて待っている限り、お前は死なずに帰ってくる」
拳を合わせる。たったそれだけで自分が何倍も強くなれるような気がした。
まずは一度ウェルネシアに行く。ギアがまだ何か知っているかもしれないし、そもそも連れてきたセレンを帰してやらないとならないしな。
ウェルネシアまでは普通ならそれなりの長旅になるが、俺の場合はそこらを散歩するくらいの装備で構わない。セレンも荷物らしいものは全部荷馬車に置いてきているからまた抱えて連れて帰ってやればいいだろう。
「ユーマさん、また行くんですか?」
身支度を済ませていると、キラがひょっこりと顔を出した。あの大騒動の中でも結局逃げなかった。荒くれ者の中に置いておくにはやっぱりか弱すぎると思うんだが、少しもエルフの集落に戻るつもりはないらしい。
「あぁ。あのバカみたいな魔法ぶん回すやつを成敗してこないとな」
「ちゃんと、帰ってきてくれますか?」
「もちろんだ」
「今度は一人で帰ってきてくださいね」
そう言ってキラはアジトの外に目を向けた。そこにはその身のまま俺に連れてこられたセレンが俺の支度を待っているはずだ。
「もしかしてひがんでるのか?」
「ひがんでなんていません! ユーマさんにあんな美人さんはもったいないですよ」
美人なことは否定しない。昔から整った顔立ちだとは思っていたが、三年経ってより大人の女性らしい魅力が備わったように思える。法術の才能がなければ、劇場の舞台に立っていたりしてもおかしくないくらいだ。
それに比べるとキラはまだお子様って感じが残っている。エルフは長命種だから少女の容姿の期間も人間より長い。三年という月日はキラの性格を荒っぽくしたように感じてはいても外見は出会ったときとあまり違いはない。
こうしてすねるあたりもまた子どもらしい振る舞いで可愛く思えてくる。
それでも一人前にレディとしての感情が生まれ始めているんだ。できればその対象が俺じゃなくなってくれることを願っている。
「もったいないもなにも。昔の仲間ってだけだよ。向こうだって俺じゃ願い下げだろ」
「そうは言ってませんよ!」
「めんどくせえやつだなぁ」
こっちを下げても気に入らないならどうしろって言うんだか。キラはというと頬を膨らませて抗議の目を送ってくるばかりだ。
やっぱりこいつはまだまだお子様だな。今の感情だって、もう少し時間が経って、別の男を見るようになれば変わってくれるかもしれない。
「ユーマさんはいつもなんでも自分一人でやろうとしちゃいますよね」
「そうか? 俺は結構人頼みで生きてると思うんだが」
魔素の生まれた体で生き長らえたのはモンドのおかげ、マギノワールはキラに探してきてもらった。モンドの代わりを務められたのはみんなのおかげだ。そもそも食いつなげたことすらあいつらの稼ぎからもらってきたわけだ。
俺一人だったら今頃死体も黒く染まって荒野にでも埋まっていただろう。とても生きているとは思えない。
「でもニグリさんのところに行ったときだって、知らないうちにマギノワールを覚えてましたし、モンドさんも一人で連れて帰ってきちゃいますし」
「結果だけ見ればそうでもそもそもニグリを見つけてきたのはキラだろ」
むしろ最後のいいところだけもらっているような気がするがな。道筋は周りに作ってもらって、俺はできた道をまっすぐ走っているだけだ。
「なんだかこのままだとユーマさんがずっと遠くに行ってしまいそうな気がするんです」
キラの不安そうな目にそんなことはない、と笑い飛ばせるほどじゃない。その恐怖はただ俺がキラを置いていくと思っているだけじゃないからだ。
長命種のエルフにとって人間の命は短すぎる。人間と深く関わればそれは必ず離別の悲しみに繋がっていく。だからこそエルフたちは集落から出てこないのだ。
こうして俺たちと長い関係を持ってしまったキラにとっては俺たちを失うことは大きな恐怖を伴っているに違いない。
そうでなくても俺たちの数日はキラにとっては一瞬に感じられることだろう。だがその一瞬は減っていくことを数えたくないかえがたい時間でもあるのだ。
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