アジトを守る冴えないやり方

「お前は自分の価値をどれほどだと見積もっている?」


「そうだな。この場所を正式に俺様たちのものに。それから今は仕事がない。金を直接とは言わないから仕事を回してくれ。あとはとりあえずのメシと仕事に行ける程度の服は欲しいな」


「言いたい放題じゃねえか」


 それこそ言っていることが盗賊と変わらない。違うのは戦力を連れてきて脅しているのはあっち側ってことだけだ。


「その程度でいいならすぐに用意しよう」


「おいおい、正気か?」


 新政府を任されたってことは国の金が使えるってことだ。用意できないことはないだろう。だけどそんなあっさりと了承するなんて。いったいモンドはどんなものを持ってるって言うんだ。


「俺様も最低限の扱いはしてくれよな」


「それは、保障しかねるな」


 ギアの答えを聞いてモンドはわざとらしく肩をすくめて、ギアたちの方へと歩み寄った。


「ちょっと待て。その代償って」


「もちろん俺様だな。俺様の優秀さはお前が一番知ってるだろう」


 圧倒的な体術。複数属性の魔法を操る才能。多くの人間を惹きつけるカリスマ。そして今、まっとうに正面から話し合いまでできることがわかってしまった。そりゃできたばかりでまだ不安定な新政府なんてものにとってはこれ以上ない人材だ。


 賊を捕まえにきたなんてのは完全に建前だ。


「じゃあ義賊団はどうするんだよ! ここは金剛義賊団。金剛脚のモンドを慕って集まったんだぞ」


「いるじゃねえか。まとめられるやつが」


 そう言ってモンドがまっすぐに上げた腕から指を伸ばす。


「俺が? おいおい、冗談だろ」


「心配すんな。ちゃんと帰ってくる。それまでちょっと預けとくだけだ」


 そんな簡単に預けるだの言えるもんでもないだろう。それにこのアジトにはもう三十人近くの仲間がいる。それにこれからギアたちから来るだろう仕事だってある。


「お前ならやれる。俺様が認めるんだから間違いねえ。仲間を守るって気持ちがあるならそれだけで十分だ」


「てめえが集めた仲間だろ。責任もって面倒見てくれよ」


「だから責任もってお前に託すって言ってんだろ。お前なら信じられる」


「信じる、って言ったって」


 そんなデカいものを任されるような生き方はしてこなかった。勝手に背負った村のことも魔王のことも結局投げ出した俺が、いまさら誰かの信用なんて背負えるはずもない。


「お前は拳を信じているんだろ。俺様もお前を信じている。だから俺様がお前を裏切らない限り、お前も俺様を裏切らない。そう信じている。それでいいじゃねえか」


 それでいい、って。さっきまで冷静に交渉していた男はいったいどこに行ったのか。その場のノリで方向性を決めて、そのまままっすぐ突き抜けてしまういつものモンドがそこにいる。


「お前らもいいだろ?」


「いいんじゃねえか。ユーマなら」


「ま、誰がやるかって言われたら。なぁ」


 ダメだ、こいつら。事態が少しもわかってない。ちょっと遠くに出かけるくらいだと思っている。政府がモンドを連れていくって言ってるんだぞ。もう戻ってこないかもしれないのだ。それを考えてるやつがいないのか。


「ユーマ」


「なんだよ。モンド、お前まさか」


 自分を差し出せば俺たちを養えるだけの金を引き出せる。そう考えてないか? 平和なワンプに俺たちが食っていけるような仕事はない。いまさらどこかで働けるようなまともなやつも多くない。


 でもだからって、そんな責任の取り方があるかって言うんだよ。


「諦めないってのはいい。だが、それだけじゃ足りん。後ろを振り向かないだけじゃ前には進めねえ。次は前に目標がないとな」


「急に何言ってんだよ。説教なら勘弁だ」


「俺様が帰ってくるまでの間、ちょっと未来を見てろ。その体でも勝手に死ぬんじゃねえぞ」


 いつ死ぬかわからないやつに信じている間は死ぬな、ってか。まったく無理ばかり言いやがる。でもモンドがそう言うんなら何か考えがあるんだろう。


「わかったよ。行ってこい。ただし絶対に帰ってこい。でなきゃぶん殴ってでも連れて帰るからな」


「別れの話は済んだようだな」


 俺たちの話を遠くで聞いていたギアが無機質な表情で割り込んできた。こいつは本当に効率しか考えてない。そんなこといまさら治るものでもないだろうが。


「てめえもだ。いつまでも返さねえならこっちからぶん殴ってでも取り返しに行くからな」


「好きにしろ。そのときは賊として捕らえるまでだ」


「ふん、捕まえられるんならな」


 今の俺はもうギアにも後れをとるつもりはない。守られなかった約束はこっちが意地でも守らせてやる。


「じゃあな。俺様がいないからって夜更かしするなよ」


「ガキじゃねえんだぞ。絶対に帰ってこいよ」


「帰ってこいばかりだな。やっぱりガキじゃねえか」


 モンドはそう言って笑ったまま、ギアについてウェルネシアに向かっていった。


「これで、よかったのか?」


 なんだかあの背中がもうここには帰ってきてくれないような気がする。急に広く感じるようになったアジトを振り返ってみると、どいつも一様に肩を落としていた。


「これでいいんだよ。兄貴はこんなところでくすぶる男じゃねえんだ。王都で立派に働いた方がいいに決まってる」


「だから、ユーマ。お前が兄貴の代わりをやってくれよ。俺らはバカだからここで生きてくしかないんだからさ」


 こいつらだってわかっていたのか。何もわかっていないと思っていたが、モンドを心配させないためにそうしていただけのようだった。少しバカにしすぎていたな。こんな俺がこいつらをまとめていけるんだろうか。


「あぁ、モンドとの約束だからな」


 でもやるしかない。俺たちは、いや少なくとも俺はもうここでしか生きられないんだから。

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