第20話 龍のちょっとした本気。
「……さ、糞野郎……第二ラウンドの開始、だ」
あいつの使い魔になってから、どれくらいなんだろうか。……いや、もっとそれ以前だ。
こうやって力を解放するのは、何時ぶりなのだろうか。
『怖いねぇ、龍が本気を出すって?
――――ドール・フォーメーション:殲滅』
三十匹程度の人形だ、すぐに終われる。
どんなに高速で移動しても、魔力の盾があろうと……人形の魔力なぞ、私の足元にも及ばない。
『じゃあ楽しませてほしいなぁ?』
奴の指示と同時に人形達が動き始める。殲滅、と言われた後各自自由に高速で動き始めては……またうるさい金切り声を上げてきてる。
知っている、本来なら指揮官として動いている奴を殺すのが賢明な判断だろう。ただ……この人形達は、私をイラつかせた。
所詮人形が、龍に傷を与えようとしてきた、その動きにな。
だが、それも意味は分かってる。……さっきの光線を使ってくるだけで、何の脅威にもならない。
――――ランス。
五本、今は五本の黒い槍だけで十分だ。別にすべての人形を同時に破壊するつもりはない。私だって、久しぶりに力を使えるのなら……それらしい戦い、だってしてみたいのだ。
「……五月蠅いっ」
蠅の様に周りをちょこまかと移動しては、ここぞとばかりに魔力の光線を発射してくる人形達。
身体を貫く事すらできず、何なら傷一つすら付けられないくらいの弱い人形達だ。
それでも蠅の様に動きながら、攻撃してくる様は……
見ていて、哀れだ。
「まずは五人」
私の''意思''だけで五本の槍は活動してくれる。一度刺さったらまた召喚しないといけないという手間があるが、十分に強い魔術だと、私は思っている。
「……いや、ついでにもう一人、一緒に仕留めれた、か」
たまたま、射線上に人形がもう一人いて、お蔭で六人仕留める事が出来た。
いくら陣形があろうが、指揮官がいようが……やっぱり人形だ。
『なるほど……なるほどねぇ』
馬鹿な人形共、無駄に動いたところで……私には何の意味が無いというのに。
「さらに追加で……二人」
丁度よく口元を通った人形がいたから、ついでに噛み砕く。そして右手にはちょうど人形がもう一人いたから、押しつぶす。
……不味い木の味だ。
「人形、もう少しお前には期待してたぞ?」
期待外れにも程がある、せめてもう少し強ければ……いや、人形に何を求めているんだ、私は?
『そうだねぇ、ただ……――の人形はまだいるよぉ?』
奴が指示を出せば、散らばっていた人形達が一斉に集まる。
ああ、最高だよ。おかげで、人形達をまとめて始末出来るのだ。わざわざ協力してくれるなんて……なんて馬鹿な奴なんだろうか。
「解放。――――
すべての魔術を解放する。……オーバーキル?そうかも知れないな。
だが、私には関係無い。どうせこんな弱い人形なんだ、時間をかけるだけ無駄。
『ドール・フォーメーション:――――」
''また''同じ指示を出されていく。だからどうしたって話だ、私にとっては。
さっきと比べても数が減った人形達の集中砲火など、傷を与えれるわけがない。寧ろ、ダメージが減っているまであるのだから。
「終わりだ。龍に歯向かおうとしたその威勢だけは認めてやる」
全魔術を解放したところで、そういえば名前を決めてなかった。
ま、そんなのいらない。
「終わりだ、龍に歯向かおうとした威勢だけはみ―――――『フォーメーション:ドラゴンカウンター!』
ドラゴンカウンター。……だっさい名前、そんな子供が考えそうな名前なんて。……面倒だ、さっさと奴事消して、今日は家に帰ろう。
「……ト…………ッッッッッ!?」
痛い。
痛い、痛い、痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイ。
魔術を使うだけ、それだけ。すごく、簡単。な事。なのに。
「―――――――――ッ!!!!!!」
『ぁー、一応生きてはいるんだねぇ?』
違う、痛くなんかは無い。これ。は。ただの。わた。しのち。さ。ミス。
「な、なにをし……た……ト……ッッッ!!!」
魔術を使おうとするたびに、痛む。
まるで身体の中で、魔力がすべて爆発しているような、感じ。
違う、痛くない。私は龍、最強の龍で最強の使い魔。痛み。なんか。ない。
たあ、私自体も混乱しているだけ、そうなんだから。
「つ、翼のてんか『フォーメーション:ドラゴンカウンター。……ちょっとは学習しないとだねぇ、アザル?』
翼を展開して一度距離を取ろうとしても、なぜか出来ない。
それどころか、翼全部が焼け落ちるような、引き裂かれるような……ワカラナイ。
熱い灼熱の痛みが、身体すべてに迫ってきて――――。
『空飛ぶ龍も、残念ながら高い所から落ちるみたいだねぇ?
君とはもう少しだけ遊びたかったんだけど……この様子じゃ、落ちてもあんまり持たないだろうしねぇ?』
「なに……ぃっ!!…………し、た……?」
『その前に……身体の方はどうだい?ちゃんと痛いかい?』
奴の足が伸びてくる。痛みを確認するために、わざと足で触れてくるつもりだ。
……やめろ、痛くなんかない。これは、本当に。ただの。混乱。
「ィ――――――――――――!!」
『……ちょっとうるさいなぁ。いきなり悲鳴を出されても――は困るだけじゃないか。……にしても、この様子じゃ……ショック死する可能性のほうが高そうだねぇ?……って』
一瞬足が触れただけ、それなのに……。
蹴り落されてる?
分からない。
分かりたく、ない。
『……やっと静かになったねぇ。……最強の龍、なんて自称していた割には、ちょっとした対策一つですぐにダウンするなんてねぇ?』
『――も鬼じゃないとはいえ、まさか軽く調べるだけで……その痛み、だけで屋根から転げ落ちるなんて……――も想定していなかったのだろう?』
『まぁ、これで今回のテストは大成功だよ。ただ魔術を使われたと同時に、魔力を暴走させるだけでこうなってしまうのだから』
『さぁ、今日はここでおしまいだ。いくら龍だとしても、三回も魔力を暴走させたのだから、もう復活してくる事は無いだろう』
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