第19話 敵襲。

「ミ     」



「     ツ」



「  ケ    」



「    タ  」



「…………なるほどね」

今度は私の視界を遮る為の爆発が起こった。ご丁寧に、大量の煙を残していってね。

……私には何の意味も無い。所詮煙なんて、魔術にかかれば。


――――ヴェント


風の魔術を使うだけで、残っていた煙もすべて消える。所詮ただの魔術の無駄撃ち。……だと思っていたけど……。


「はぁー……人形如きをそうも多く並べて、龍に何かが出来るって思ってる?」


十、二十……いや、この量だったら三十は優に超えそうだ。

木製や鉄製の人形が、いくつも宙に浮いている。

それぞれ大きさや形はある程度違えど、共通して目が赤く、そしてゆっくりと点滅を何回も繰り返している。半分くらいの人形は、そこから頭の上半分が何回もパカパカと、開け閉めするようにしている。そしてそのたびに金属音と……こいつのせいか。


「ねぇ、人形? 私に返事をしろよ?」


「ミツケタ……ミツケタ、ミツケタミツケタ……!」


いくら問いてもまともな返事は無し、と。

人形達の中心にいるあの歪な魔力の持ち主の……女性か、あれは?

影のせいで姿はよくわからないけど……あの長い髪の毛、女性と思っても大丈夫か。


「……返事も出来ない、不完全な、糞みたいな人形か?」


……こちらの問いからは何の返事も無い、もしかするとあの中心にいる女性も、所詮ただの人形かもしれない。


「返事がないな……らっ!?」

唐突に人形の一人が金切り声を上げたと思ったら、激しく頭を動かし始めた。

何かが起こると思って一応警戒しているけど……動きは特に、無し。


所詮人形、やっぱり龍なんかには……。




ッ……!!

魔力の動きは感じなかった、少なくともさっきまではずっと、この人形は何の力も持っていなかった。それなのに……魔力の濃い青白い光線を発射してきた。

余りにも唐突だったから、驚いてしまったけど……所詮人形。いくら人間の姿をしている私でも、龍の身体を貫くことは不可能。


「ァ……ァー、ァァァァ……」

中心にいる女性の方が激しく震え始めたと思ったら、すぐにピタッと動きが止まった後、彼女の顔、身体全体にかかっていた影がきれいに無くなっていく。


『……ァー……ゃっとっながったょぉー! 初めまして、龍さん……』

「……不完全な人形なのに、喋れるのは意外」


女性、男性、様々な声が入っている声が聞こえてくる。

まるで人間の意思が入ったかのように、硬い動きは止まり、人間らしい柔らかい動きをしてきている。影がなくなったおかげで姿形が少しは分かるようにはなったけど……顔にはまるで濃い霧がかかっているかのように、見ることが出来ない。


『これは――にとっての''スペア''の一つに過ぎないからねぇ。……いやぁ、コネクトするのが難しかったねぇ?』


……つまり、あれもただの人形だったってこと、ね。


『改めて自己紹介しないとねぇ、龍さん……いや、アザルと言ったかね??』

「へぇ、私も相当有名になったみたいだね? ……で、どこで知った?」


レウィスに呼ばれる以外では、バレる所は無い。

それ以上に……こんな魔力の持ち主がもし近くにいたら、それは私も気づいて……。


『そうだねぇ、アザル? 君も気づいたのか分からないけど、――は君をつい最近知ったのだよ? いや、いや……あの釣り餌は、――にとっては大成功、と言った所かな?』


リアフィールド、こいつの正体か。

あの時の歪な部屋、地下にいた筈なのに姿を見せずに消えることが出来たこと。


「あの時もスペアって奴か?」

『おぉー、さすがアザル、察しがいいねぇ? あの時君が魔術を使ってくれたお蔭で、――はもう対策がとれるようになったから……こうやって、自分から襲いに行く事だって可能になったのだよ』

「馬鹿らしい、大体龍を対策する事が出来た? 所詮人形如きに、勝てるとでも思ってるわけ?」


笑える話、最強の龍で、最強の使い魔の私が負けることなんてありえないのだから。

……話もここで終わらせよう、あいつの''匂い''を嗅ぐ為に近づく事が出来れば……幾ら大量のスペアを使っている所で、それをすべて破壊して回ればいい。



―――――最後に、喰い殺せばいいだけじゃないか。



『君が匂いをベースにしているのは、――にも分かる事だからねぇ?

――――ドール・フォーメーション:防衛』


翼の推進力と魔術を使い、一気に距離を詰める。

今回で終わらせる気は全然無い、もう言った通り……匂い、だけで十分なのだから。


「人形如きが……」

高周波な金切り声を出してきたところで、何も変わらない。

威嚇のつもりか、私には意味がない。さっきみたいに魔力の光線を出さない限り……いや、訂正する。出したところで、私には何の意味が無いから。


あいつの命令で人形たちが人間のように、陣形を組んだ所で意味がない。

そうやって金切り声を出した所で……。


『さぁ、楽しませてほしいよ』


五月蠅い。


「人形如きが、龍に歯向かった事を後悔させて……!?」


『後悔が……なんだってぇ?』


目前に現れたのは人一人分の太さを持つ、光線だった。それぞれの人形が生み出す濃い魔力が、一つの束になり高速で発射されていた。

……こればっかりは私の失敗だ、所詮人形だと思っていただけに、周りの人形どもの排除を忘れてしまったばかりに。


『ふぅむ……30匹程度じゃ、まだ龍は貫けない、と……』

「……三十匹程度で貫ける? はっ、所詮不完全な人形しか生み出せない、糞野郎の知能じゃそれが十分、だと思っていたんだろうな。……私は最強の龍だ、貴様みたいなただの出来損ないが、傷一つ付けれる存在ですら、無いのだから……」


咄嗟に翼でガードしたが、それでも私に満足なダメージすら与えられない。

所詮は人形だ。


『いや、これはテストだったのだよ、アザル。テストテスト、試験』

「関係ないね、ただ予定が変わった……貴様を気持ちよく喰い殺すために……まずは……」


人形如きに力を使うのはどうなのか……いや、関係無いね。

こいつの存在がただむかついた、ただそれだから……私は本気で、喰い殺しに行くだけだから。


確か……指を鳴らすだけ、それだけで''解放''するのに十分だ。


『……へぇ、それがアザルの本気か。――も見てみたいねぇ……!』

五月蠅い外野の声が聞こえてるが、どうせあとで喰い殺すんだ。今のうちに、好きに喋らせても良い。



「……さ、糞野郎……第二ラウンドの開始、だ」

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