第17話 護衛任務。
「アイドルって、歌って踊るあれ、か?」
また面倒な客が来てしまった。まさかそれなりに有名な、それも騎士団の関係者とは。……さっきも騎士団の関係者だの言っていたが、半分冗談だと思っていたことはある。
「そんな感じだと思ってくれれば……まぁ、それでトラブルとか、ストーカーが発生していて……」
もし本当に騎士団のアイドル、なんてレベルの人物だったら割と最悪な仕事になる。
確かに動きやすいかもしれないし、何なら報酬だって大きいだろう。だが、こういう奴には我儘な奴も多いのも事実。ちょっと機嫌を損ねたり、変に動いてしまえばすぐに払わないなど言ってくる奴が多い。
可能ならば拒否したいが……もう少しだけ、様子を見よう。
「……一応、そのトラブルってのが知りたい」
もし彼女の言うトラブル、が騎士団全体を動かすようなものだったら……残念ながら、俺が出る幕は無い。いくら大金を払われても、無理な話だ。
個人的なトラブルだったらまだ可能性はあるが……正直拒否したい依頼だ。
「ほら、過激なファンっているじゃないですか?」
「当たり前のように言われても、興味ないもんでな……」
とはいえ過激なファン。……話を聞くに、やはりただの個人的なトラブルの可能性があるらしいな。
「とにかく、その過激なファンが……まぁ、厄介でして。騎士団のほうに相談しても、ファンだから手荒い真似はできないといわれるだけで……」
「それで、俺に何かしろって?」
「……話が早い方で助かります」
なるほど。
……正直な話、面倒すぎる。もっと激しい感じの依頼だったら、まだ引き受けていたのかもしれないが……。
いや、せめて報酬を聞いてからだ。
「報酬はどれくらいだ?」
「そう思って、念のため……報酬の前金を持ってきました!」
用意が良い奴だ。どうせなら、この勢いで大金の入った袋事渡してくれればいいのだが……そこはどうなるのだろうか。
……予想していた報酬より遥かに多かった。
言葉通りの大金の入った袋を、机の上に置かれたは変わらない笑顔で、こちらを見つめてくる。さすがに見せかけの金、だと思って中身を見ても……大量の金貨が、そこにある。
どれも紛うことなき、本物の金貨だ。
「で、ここまで払ってくれてるって事は……相当大変な依頼、とでもいうのか?」
余りにも多い報酬、裏があるのではないかと思ってしまう。
「大変、と言う訳ではないですけど……少しお時間を取るような依頼、ではありますね!」
「ああ、なんとなくわかった。……しばらく''護衛''としてしろってか?」
時間がかかる依頼といったら、護衛くらいしか思い浮かばない。……アザルの奴に頼みたいが……わざわざアザル抜きで話がしたいくらいだ。たぶん、あいつを護衛として置こうとしても拒否られる。 ああ、最悪だ。
「はい! 私個人が雇った護衛さん、でしたら騎士団も文句は言わないと思いますし。……それに、期間も……せいぜい、一週間で十分だと思います。あくまでも、過激なファンが落ち着くためだけ、ですので……」
こちらの話を聞かずにどんどん進めていく。……なるほど、悪い話では無い。彼女の言う通り、ただの『過激なファン』だったら武器を一つ見せるだけで大丈夫なはずだ。……彼女の言う通り、本当にただの過激なファンだったら、の話だが。
だが、もし簡単な内容だったと考えれば……この報酬、決して少ない額ではない。寧ろ、大きすぎる。
これを逃すのは、余りにも手痛い物だ。
「……それで、どうしますか?」
彼女が依頼を引き受けてくれるのかと聞いてくる。
「依頼、了解だ。それで、いつから始めれば?」
護衛と言っても、彼女の指定した日以外では活動はできない筈だ。……一応、希望する日にちを聞いておくことにする。
「そう、ですね。……今からです!」
「……は?」
「今からです! 私もお出かけがしたくて、ちょうど良いかなと。……確かレウィスさん、でしたよね?」
明日から、もしくはまた別の日……なんて思っていただけに、今から護衛を開始するというのは……思っても無かった事だ。
アザルの方にはなんて知らせれば……そもそもあいつはここの鍵を持ってるから、知らせなくても大丈夫だろう。
「レウィスで合ってるよ。それでお前はメンテラ……か」
「ちゃんと覚えてくれたんですね!……じゃあ、少し……よろしくお願いします」
ぺこり、と頭を下げては挨拶をする姿は……まぁ礼儀正しい。依頼主、としては100点満点と言った所だろうか。
……しかし、護衛なんて本当に何年ぶりの事だろうか……。
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