第11話 翼を広げる使い魔。
朝っぱからでも、相変わらず人が多い街だ。
右を見れば数々の商店が開いていて、左を見ればキャラバン隊が通り過ぎていくのが見える。中央地方はその名の通り、大陸の中央に有るからかこういう商人やキャラバンにとっては、必要不可欠のような所なんだろうな。詳しくはよく知らないが。
「なんだかんだで、私にとっては……南地方よりかは良い所だとは思うけどね」
龍である彼女にとっては中央地方ほど良い所は無いだろう。好きに翼を伸ばしても誰も気にしない。確かに平凡的すぎる所だが、異種族などを考えなしに否定するほども無い。お陰で、アザルの方もいちいちコートにしなくても、翼を好きに伸ばせる。
「コートはなんだかんだで……お前嫌いか?」
「好きではない。ただ……私だって、せっかくこういう所にいるんだし、なんていうか……お洒落は、してみたい」
「そっかー、すまんな。お前の主様がセンス悪くて」
「……おい、文句じゃないぞ? 私はお洒落がしてみたいだけ」
自分で言うのもあれだが、シャツ一枚に短いスカートのみという服装は……お世辞にも、あまりお洒落ではない。かと言って俺が女性物のファッションを知っているかと言うと……嘘になるな。
それに、男の俺がそういう店に入るのも……すごく遠慮したい。
「それで、お前はどういう服を着てみたいんだ?」
一応どういうのが好きなのかも聞いておくことにしよう。もしかすると買うかも知れないし、最悪今度金を渡しに来るカトリネの奴にお願いでもすればいいだろうしな。今後共付き合いがある事を見通しての、まぁ信頼の証みたいなやつだ。
「……どういう服がある?
「そうだな、ヴィダとかいうお前の友人が着ていた……ドレスなんて有るな? いいんじゃないか、同じ龍だし」
「却下。あれ動きにくそう」
「……じゃ、カトリネの奴が着ていた……あれ、あいつどんな格好だっけ?」
何故かカトリネの服装だけは思い出せない。妙にダサい気がするし、何か露出の多い格好だった気もする。いや、もしかすると大陸騎士団みたいに普通すぎる格好だったかもしれない。
「さぁ、私は覚えてないよ? ……なんか変だったかもしれないけど……まぁ、いいかな」
「何ならメカニックの奴に聞いてみるか?」
「絶対にヤダ!」
メカニックだけはどうやらいやらしい。本当に嫌いなんだなとしか言えない。
「なら、今度カトリネの奴にでも聞いておけ。残念ながら俺はファッションの事については疎いからな」
「女性物と男性物は違うからね、さすがに主様が知っていたら……ちょっと、ね?」
一部の特殊な性癖の持ち主やそういう仕事、もしくは元からセンスの良い奴以外は知る必要すら無いからな。
「はぁー……コート着る必要無いって、最高……」
前みたいに俺の少し前を歩きつつ、くるくるとたまに回る様ははしゃいでいる少女にしか見えない。その長く黒い髪の毛も同じ様に揺れる様子は、彼女が龍であることを除いても人目を集めてしまう。
「今日は珍しく気分が良いな? さっきまで行きたくないって駄々をこねていた様な奴には見えないな」
「ん、そりゃまだ行きたくないよ? ただ……野外で、此処だと……好きに翼広げれるから、気持ちいいし」
そういう事か。こいつはいつも翼をコート状に、もしくは小さくしていただけに、こうやって大きく広げることが気持ちいい……らしい。
まぁ無理も無い。左右二つずつ、計四つの翼とはいえ一つ一つは彼女並の大きさを誇る代物だ。家の中じゃ満足に広げることも出来ないし、昨日の南地方では異種族自体が珍しい事もあって、広げることが出来なかったからな。
「久しぶりに飛んでみるか?」
「それはいいや。疲れるし」
それなりに広い道路のお陰で、翼を広げようがこんな話をしようが誰も気にしない。……これが、中央地方の良い所、ではあるかもな。
「なぁレウィス?」
「どうした?」
「なんでお前は結局、私を使い魔として認めた?」
「唐突すぎる質問だな、おい……」
例え気分が良くてもこいつは色々と唐突すぎる部分がある。今のような質問とかな。
「私は気になるからなー?」
そう言いながら今度は隣に、同じ歩行速度で歩き始めてくる。わざわざ顔を覗いてくる様子は、まるでペットだ。
「そのうち答えてやるよ」
「い・ま! 答えが知りたい」
「子供かよ……気分が乗れば答えるって」
思い出してみれば、なんでこいつを使い魔とも俺は認めたんだろうか。全然覚えてないというのは嘘だ。……というよりも、話すのが少々面倒だ。
「別にいいじゃん、少しくらいは」
「少しくらいは話してやるよ、気分が乗ればな?」
「……あーるーじーさーまー?」
傍で歩いていると思ったら、今度は俺の前を後ろ歩きし始めてる。視線をずっとこっちに上げたままで。
「危ないから前を見ろ」
「私は別に龍だから。翼一つで距離感程度は分かるし?
まま、それより……少しくらい良いでしょ? 別に恥ずかしい話ってわけじゃないし」
「恥ずかしい話でもないし、気分が乗らないし、なんなら今は面倒だ」
聞き分けの無いやつだ。だが……うん、今の所は文句らしい文句もないのが非常に惜しいところだ。
「……ダーメっ?」
首を傾げてはじっと見る姿はまるで犬、いや猫かも知れない。どのみち……あざとい、とてもあざとい。
「お前、あざとすぎる。そもそもそんなキャラじゃないだろ……どこで覚えたんだ?」
「本で、男性はそういうのが好きって見たんだけどなぁ?
「あながち間違いではないな、ただ残念なことに、お前をそういう目で見れないし、何ならお姉さんが好きだ、俺は」
もしお姉さんがこう、同じ様なシチュエーションで同じ事をしていたらすぐに話していただろうが、現実は残念な事に、彼女:アザルだ。
そしてやっと諦めてくれたのか、また周りをぐるぐると回りながら隣で歩いてくる。見てるだけでも騒がしい奴だ。
「はぁ、こんなのが私の主ってのが、本当に惜しいことで」
「こんなのを主として認めたのがお前なんだけどな」
「冗談だって。少なくとも、私はお前が主で良かった、とは思ってるよ?」
「へぇ……お前が文句以外の事を言うとか……どうした、熱があるのか?」
また珍しいことを言ってくる。こうも珍しいことを言ってくると、主として病気じゃないのかが気になる。
「私は気分屋だからね?……って、もう工房が近い」
「中に入ったらとりあえず銃を出せ。その後は……ま、帰りたいのなら帰っても良いぞ?」
「そうさせてもらう、あの変態の近くにいるのは絶対に嫌だから」
俺以外の奴と話させてやりたいが、本人が嫌なら仕方が無い。最悪カトリネと話させればいいし、何ならヴィダとかいう友人もいる。……人見知り、は解決出来ないと思うが、それでも無いよりかはマシだ。
足を進ませていけばやっと工房が見えてくる。外見は他の建物と同じ様な灰色のレンガ。ただ……看板に大きく『メカニックの工房』と書かれており、右端には『何でも直せます』と。センスのないやつだ。
さて、早く仕事をしてもらって、俺も楽になるかな……。
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