第10話 嫌々な感じで軽いお出かけ。

あれからどれくらい時間が立ったのだろうか。


勝手に膝の上に乗っかってきては、数十分以上こいつはずっと寝ている気がする。中々起きる気配も無いし、撫でるのも正直疲れたし、何か読み物を取ろうにもこいつを起こしたら後々めんどい。ならいっその事角を、とも考えたが……余計に面倒な事だ。


まぁそのうち嫌でも起きるはずだ。精々、長くて三十分くらいしか寝ないだろうしな。

……それにしても、身体の方はちゃんと人間だなと実感できる。……体重は、少なくとも同じ年の少女にしては異常に重すぎるが、それ以外では至って普通だ。朝は彼女と同じ様に、翼も元気なさそうにしていて。

……それにしても、最初は気づかなかっただ……やっぱりこいつ、身長や体の成長の割には、重すぎる。はっきり言って俺より重いのは確実だろうな。


「ん……ふぁ~……」

なんとも情けない声を出しながら、やっと起きてくれた。

起きたと言っても、まだ眠たいのか中々膝の上から離れようとしてくれないが。


「重いから、さっさと離れろ」

「……女の子に重い、って言うのは駄目って知らないのか、お前は……ん……はぁー」

「お前の場合は龍、だけどな」


少しすればやっと離れてくれた。


「やっぱ我が家って最高だよね、レウィス……」

「本当にな。ま、そんな雰囲気ぶち壊し覚悟で言うが……出かける準備、しておけ」

「……はぁ?」


さっきまで気持ちよく寝ていた奴に言うのは酷な話だと思うが、今回ばかりは仕方がない。せっかく奪い……。……土産として貰った銃達があるんだ、それをあるやつにプレゼントすると同時に、頼み事も兼ねたいからな。

それに、これだけの数の銃を持ち運ぶのも、こいつの魔力が無きゃ無理だ。俺一人じゃせいぜい三つか四つ程度を持ち運ぶことしか出来ない。


「私はな、今日はゆっくりしたい。お前が一人で行けば?」

「まぁ俺も強要はしないぞ? ただそうすると……もしかすると、お前が寝ている間とか、風呂に入っている間はずっと撫でてやるかもだぞ?」

「……何時出かける?」

「もうすぐだ」


本当に撫でられるのが嫌いなのがよく伝わる、まさか出かける事以上に撫でられるのが嫌いだとは。……ま、そのうち気分になったら、勝手に撫でてやるが。


「はぁー……大体、なんで私まで」

「銃を持ち運びたいからな。俺一人じゃ無理だから、お前の力をちょっとだけ借りてと」


馴染みの工房に持っていくし、ついでに軽いストレス発散……では無く、俺以外の奴と話させるためだ。こいつは何ていうのか、軽い人見知りだ。龍である時期が長かった事もあるのか、俺以外の奴とは基本的に余り話せない。さすがにそんな彼女を見るのも、主である俺にとっては心苦しいことなので……ま、そういう事だ。


「……まさか、工房?」

「よく知ってるじゃないか、アザル」


工房、の言葉を出せばすぐに嫌そうな顔をしてくる。


「絶対、絶対ヤダ! な、なんであの変態のいる工房に行かないとなの!?」

「あいつ変人と言ったら変人だけど、変態ではないだろ?」


工房の主、メカニック。名前は残念だが知らない、なんせ「メカニックとよべ」なんて強要されているからな。

ただこのメカニック、変人とはいえ変態ではないはずだが……。


「具体的にどう変態なんだ、そいつは?」

ここまで変態なんて叫ぶくらい、嫌っているのならちゃんと理由を聞いておかないと駄目だな。


「私の身体を触ってくるし……」

「俺もよく風呂のときに触ってるな?」

「勝手に髪の毛触ってくるし……」

「俺も同じことしてるな?」

「最後に行ったときだって、『龍の身体を見せてくれ』なんて言っては……脱がそうとしてきたし」

「何ならお前の裸も一応は見てるよな?」


そういえば確かに、メカニックの奴はそんな事を良くしている覚えがある。ただ、余り気にしたことがない。

確かに、聞いている限りじゃ変態に見えるし、現に変人だ。ただたまたまアザルを前にすると、珍しいものを見たかのように暴走するだけだ。というか、こいつの上げた変態部分は全部俺もやってる気がするが、なぜか一言も言われない。


「……はぁ、最悪」


文句を言ってくるが、まぁ気にしないでおこう。いちいち気にしていたら、日が暮れてしまう。

さて、そろそろ準備しておこうか。と言っても、適当に銃を取り、それを持っていくだけだが。


「さっさと着替えて、準備しておけ」

「はーい」


どうせこんな何でも屋、みたいな店に人が来ることなんて稀な事だ。だからたとえ平日だとしても、問題なく閉めても大丈夫だ。

……もし誰かが来てしまったら……まぁ、その時はその時だ、適当に置き手紙なんやらを置いてくれるし、多分問題は無い。




第二中央街は相変わらず平凡すぎる街だ。第三南街みたいに荒れているわけでも無く、全てにおいて平凡的すぎる。

……その理由も、大陸騎士団の本部がよりによって第二中央街にあるからか。そのせいで第三南街みたいに荒れる事も無く、北地方みたいにある意味で独特な地方にもならない。

店を開ける場所、もしかすると間違えたかもな。


「ん……はぁ、ねっむい……」

「あんなに寝たのにか?」


俺より早く寝た覚えがあるのだが、こいつはまだ眠いらしい。寝る前に見た感じでは、気持ちよさそうに寝ていたが……いいか。


「ま、私にも色々と事情がある感じだから。本当なら、今日は出かける必要も無かったんだけど」


隙きあらばまた文句を言ってくる。面倒な奴だ。

ここまであのメカニックの事がどれだけ嫌いなのかがよく伝わってくる、伝わっては来るがだからといって、ここでやっぱ工房には連れて行かない、なんてことにはならない。


「昨日はお前に付きやってやったんだから、今日は少し黙っておけ」

「……はいはい、今日くらいは文句言いませんって」

「へぇ、それなら……ちょっとした遊び、でもしてみるか? お前が文句を一回でも言ったら……そうだな……ま、それは考えるか」


余り変な事はしないが、かといって優しい事もするわけではない。……もっとも、こいつがこの遊びに乗ればの話だが。


「龍の口は、人間のそれよりはずっと硬いぞ?」

「じゃあ成立だな。後で……罰ゲームみたいのは考えてやるか」


こいつは定期的に前言撤回をしている気がするが、口が硬いなんて言っているくらいだ。今回くらいは多分文句を言わない。……筈。


「それじゃ、さっさと出かけるぞ」

「はいはい……」


準備も済ませたし、工房に行くとするか。

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