第8話 パーティの終わり。

「入り口、見つけたか?」

相手は地下にいる、とは分かっているが肝心なその入口が見つからない。いくら屋敷中を探しても、見渡してもそれらしき物も見当たらない。

こういう扉探しにもアザルの鼻が効けば、もっと楽になれた筈だろう。まぁ、それは頼み過ぎな感じでもある。


「匂いはまだ残ってるから、絶対に逃げては居ない筈だけど……」

正直だるくなってきた。もし入り口が何らかの物で隠されていたら……考えるだけで怠い。せっかくアザルがいるもんだ。……多少の建物の破壊は、問題無いとは思う。最悪こいつらが自滅用の爆薬でも仕掛けていたとか、そんな言い訳をすればいいだろう。

後はアザルにそれを頼むだけ、と。


「アザル、さっそく一つ頼みたいことがある。俺ら二人が通れるくらいの大きさに、床を破壊出来るか?」

「……主様、正気? 相手は人攫いって事を忘れてない?……別に殺すことについては問題ないけど、もし攫った子供がいたら……無事では済まないよ?」

さすがのアザルも一応心配はしているようだ、もし関係ない人が死んだら、か。


「大丈夫だ、誰も怪我しない」

「へぇ? そう言い切れるなら、信じるけど……」


この屋敷は少し変だ。人攫いがいる、にしては……肝心な子供、の気配が一切感じない。もし大人も攫っているとしたら、納得は出来るが……ま、大人だとしたら自衛くらいはしてくれるはずだ。

再度今いる居間を見渡して、入り口らしきものが無いかを確認する。それでも入り口らしいものも一つ無く、精々奴らが構えていた何丁物のマスケット銃だけだ。


「頼むぞ?」

これ以上時間を浪費するのも無駄だ。さっさと床を破壊して、仕事を終わらせることにする。


「はーいよ」

コートの役割をしていた翼が小さく展開し、羽ばたいて行けば宙に浮かんでいく。妙に違和感を感じるが、気のせいなのだろう。


「……ばーん」

やる気のない掛け声を出したと思えば、柱上に展開されている火炎を出しては、床事燃え尽くしている。幸い木造でなく、そして魔術だから大丈夫とはいえ……燃え移らないか心配してしまう。

少しの間展開していれば、床の一部分を破壊し終えた様子でぽっかりと、大人二人……三人くらいは難なく入れる穴が出来た。下を覗けば、丁度密室だった部屋もあり、すぐ近くには扉が一つと。……不気味な部屋だな。


「はぁー、もっとこう、魔術を制限してくるような仕掛けが合ったのかと思ったんだけど。……無駄に強くしすぎちゃった」

「ありがとさんっと。……いや、ちょっと待て!?」


彼女から違和感を感じていた理由を見つけた。

下に何も着ていない、こいつ。


「お前、下は?」

「……主様の見ての通り、履いてるけど?」

「そうだな、上はシャツを着ているな。下も一応だが、黒い下着を着ているな」

一応は着ている。着ているのだが…下着を隠すための服を着ていない、こいつ。


「……へぇ? 主様、もしかすると……私に欲情」

「確かに黒は魅惑のためと言うが、お前馬鹿だろ? 何なら、俺はお姉さんが好みだからな……やっぱ駄目だ、お前馬鹿だ」

隠せ、と命じればちゃんとコートを着てくれるのが幸いだ。じゃないとまた、変態と罵られたり、変な勘違いをされてしまうかも知れない。特にあのカトリネって言うやつだ。あいつに今の状況を見られたら……言い訳が出来ない。こいつが馬鹿で着るのを忘れた、なんて言っても……どう返してくるかが目に見える。


「それより、さっさと降りるぞ」

思ったよりも低い所だから、怪我をする心配も無い。



「監禁するには、確かにいい部屋だな」

何も無い殺風景な真っ白な部屋。壁や床を手で触っても、材質が分からない。そして軽く喋っても、まるで音が壁に吸収されては、外に漏れない仕組みになっている。……かなり本格的な部屋だな。


「魔力を感じるけど……こんなの、人間のじゃない。……形が、歪すぎる」

この壁に強く反応したのはアザルだ。壁を何回も触り、そしてそのたびに嫌な顔をしている。龍が嫌いな何かを使っている……いや、そうだとは思えない。あまりにもピンポイントすぎる材質になってしまうし、そもそも龍が嫌う物を持ってるとすれば、こんな監禁部屋程度なんかには使わないはずだ。


「この部屋、は後で確認すればいい。それよりも……」


普通に扉を開けようと思ったが、もし何らかのトラップがあることを考えて……蹴り飛ばすことにした。幸い扉自体は木材なので、魔術を使っている今の状態なら、軽く力を込めるだけで破壊が出来る。


「気色悪い」

この部屋だけ、だと思っていたら扉の外も同じような壁と床だ。真っ白で、そして音を吸収する。お陰で、いつもなら聞こえている足音も全く聞こえない。


「ゆ、床を破壊してくるなんて、思い切ったことをしてく、くる人たちですね……」

今の状態のように、左右からマスケット銃を担いだ四人の警備員すら気づくことが出来ない。


「いやー、最新式の武器を持ってる人たち相手に喧嘩を売っちゃったなー? アザル。こういう時はちゃんと降参することを見せるために、手……上げとけよ?」

四人程度なら何の苦もなく倒せる。……が、今回は少し遊んでやろう。もし運が良ければ、この部屋についての情報も得られるはずだ。

アザルもちゃんとこの”遊び”を理解してくれたようで、右手だけを上げたまま残念そうな顔をしている。……まぁ、いいか。


相手の方を見れば、馬鹿にしているのを分かったのか、怒りで震えている。おお、怖い怖い。


「き……貴様ら……! こ、これは騎士団にすら配られていない、武器だぞ……ひ、引き金一つで、貴様らの頭なぞ……!」

「ああ、そうだな。じゃ、俺らが少しでも腕を動かしたときに、発砲すればいいだけ。それより、この部屋は何だ? 俺達も捕らえられたんだし……少しくらい教えてもらってもいいよな?」


我ながらなんとも酷い演技だ。が……相手も相当馬鹿だな。撃てばいい、なんて言っただけで安心仕切った様子で、震えも止まってやがる。


しばらくすれば警備員たちの後ろから、茶色いコートを着た男が一人やってくる。アザルが見た通りの姿で、そして左手の中指には黒い指輪。


「……き、貴様らも分かっては来てるんだろ?」

「監禁部屋のなにかなのは知っているが、この壁は何だ?」

さすがにアザルの方を見られれば、あっちが人攫いだと分かった上での話を進めてくる。彼女を連れてきたのは失敗かも知れない。


「り、リアフィールド様だ。か、彼女の魔力のお陰で、こうやって我々も仕事が出来ている」

さっきのリーダー格みたいな奴も、同じ名前を発していた。リアフィールド。

流れからすれば、この人攫いのリーダー的な存在でもあるのだろうか。


「そ、そしてその、リアフィールド様も今はいらっしゃっているから……く、くくく……」

「へぇ? ぜひとも会ってみたいな?」

「……お、お前ら。そ、そいつらを好きに始末していい。わ、私はリアフィールド様と話をしてくるからな……」

どうやらそのリアフィールド様、とやらは面会を拒否したようだ。残念だ。その姿を一度見てみたかったのだが、人攫いくんも飽きたようで、始末しろと言ってくる。

なら、お遊びは此処でおしまいだ。情報らしい情報も何一つ得れず、これ以上時間を潰すのも惜しい。アザルの方に目線で、好きにしていいと命じるだけだ。……こいつはなんだかんだ、馬鹿にしたり、わざと知らない振りをするが……こういう時は非常に役立つ。


「はーい。……ランサ」

右手を上げたままそう言葉に出せば、カトリネにも使った同じ槍を無数に召喚しては、警備員達の肩と足を一度に貫く。……死んでしまわないか、と心配してしまうが……急所は外れているから、セーフだろうな。


「……ぇ、ち……ちょ……?」

茶色コートの男も、いきなりの事で驚いている。仕方ない、まさか追い込んだと思ったら、ただ単にお遊びだったなんて知ったら……俺でもああなりそうだ。

「確かリアフィールドなんちゃらが来てるんだろ? ちょっとそいつと話をしたいだけだから……」

この人攫い事件は、少なくともこいつを捕まえるだけで終わるようなものじゃない。確実に、裏に誰かがいる。


「ち……近づくな!? り、リアフィールド様! は、早く助けて……」

いい感じに絶望しているのが見える。今にも泣きそうに見える。


「……り、リアフィールド様……?」

「主様、こいつ……頭おかしいんじゃない?」

一人で勝手に叫ぶ姿は確かに頭がおかしいと思ってしまう。何回もリアフィールド様! なんて叫んでいる割には、それ以外の声が何一つ聞こえない。

見捨てられた……と決めても大丈夫だろうか?


「……な、なぁ?わ、私はあれだ、り、リアフィールドの奴にか、金で雇われただけだから……み、見逃してくれるよな……?」

完全に見捨てられた、と。さっきまで様付で呼んでいたのにもかかわらず、すぐに態度を変える。……ああ、残念だ、こいつはもう情報なんか知っているはずも無い。なら、やることは簡単だ。



仕事を終わらせて、家に帰るだけ。



「……主様も、本当に容赦なく顔、殴れるね」

「どうせ死にはしないんだ」

人攫いも、もっとマシな情報を持っていると思えば何もなく、ただリアフィールド、という人物の名前だけを言っていた。


「……とりあえず、仕事は終了って感じだ。……カトリネのやつには……」

「ヴィダの奴に適当な知らせを送っておく。はー、お疲れ様……」

破壊した床はそのままにして、とりあえず屋敷の居間に戻った。あんな気味の悪い部屋に居残るなんて、どんな罰ゲームだ。

それに、一応回収しておきたい物も幾つかある金目の物や気になった書類、それに……せっかく最新式の武器がタダで手に入る。何丁か銃をもらうことにしておくさ。


「はー……すっごい疲れた。本当なら、ヴィダと会った時点で帰れるはずだったけど?」

「お前の人探しに付き合ってやったんだから、俺の仕事にも付き合っての……あ、魔術でちょっと持ってもらいたい物がある」


また愚痴が聞こえてくる。……これくらいはいいか、寧ろ愚痴ってくれるおかげで、なんだかんだの安心感があるからな。

さ、パーティは終わりだ。さっさと家に帰って、まずは身体を休ませるか……。

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