第7話 龍は暴れてみたい。
「ここで奴の匂いが残ってる。ま……私達の力を舐めているような感じだねぇ?」
周りには警備員らしき人が何人か居る建物の前に着いた。此処が彼女のいう屋敷だ。
見た感じでは三階建てなのだろうか、もしかすると地下にも幾つかあるかも知れない。……が、在った所で関係ない。地下にも行き、仕事を終わらせるだけで良い。もし「殺すな」という指示が無ければ……建物ごと爆破すれば終わりだが、今回はそうも行かない。
「相手は何も知らないような人攫い程度だからな、そもそも。……さて、俺の使い魔アザルは……どう登場するか考えたか?」
「んー……。……暗殺者、みたいに透明魔術でも使って、一人ひとりダウンさせてく?」
こいつも中々に良いセンスの持ち主だ。が……折角の久しぶりのパーティ、しんみりと終わらせるよりもド派手にやったほうが気持ちよさそうだ。
「屋根を突き破って登場、なんてのも中々だと思うが、どう思う?」
「んー、飛ばないと行けないから却下。そんなの弱者がやるような事だし。……真正面からいっその事登場する?」
「警備員共々ぶっ飛ばしながらってか? ……そうだな、じゃ今日は真正面からで」
普通なら危ない登場方法だが、アザルが居るのなら何の危険も無い。寧ろ相手のほうが危険という状況だが気にすることもない。そもそも大陸騎士団の団員一人が、報酬を支払ってまでお願いしてきたのだから。思う存分、周りの目を気にせずに動いても良いってわけだ。
「先におさらいしておこうか。まず誰も殺すな、次に……ん、これだけか?」
「私が聞いた限りじゃ、殺さなければ後はどう扱っても良いとは聞いたんだけど?ま、何はともあれ……主様」
ああ、そうだ。いくら真正面から突撃するといっても、俺はあくまでも、こいつの主なだけだ。力を借りない限りは、何も出来ないことをすっかり忘れていた。
「今日も借りるぞ?」
「好きにどうぞ?」
彼女が近くにいれば、本来なら痛みを感じるところも関係なくなる。どう作用しているのかは分からないが、無意識になのか治癒魔術が効いてくるだ。
今回は……”風”を使う必要も無ければ”雷”を使う必要も無い。いや、もしかすると雷は良いかも知れないが……やめておこう。もしこれで万が一相手を気絶出来ずに、殺してしまったら……報酬がパーになる。なら、使うとしたら一つ。鉄だ。
相手を傷つけず、尚且気絶させられるのなら最高の品物だ。手をグーにして、顔を殴る。鉄の魔術のお陰で、少し顔が変形してしまうかも知れないが問題無い、気絶はすると思うから。
さぁ、力を借りようか。前もやった通りに、特別な儀式なんて必要ない。詠唱すら必要ない。彼女が俺の使い魔で有ることだけが、唯一必要な事なのだから。ただ、その代りに咄嗟に使っている魔術を変えることが出来ない。……それなら一度にすべて発動、なんて考えてみたが、あれは身体の方に負担がかかりすぎる。
「借りるぞ。……ソ・フェッホ」
他の魔術と違い、鉄の何かが出るというわけではない。可視することも出来ないが、確かに魔術を使っていると俺には分かる。……魔力のような何かと似ているな。可視化出来ず、使用者にしか感じることが出来ないような事だ。
これで相手を殴れば、簡単に威力を上げることも出来るし、顔に当てれば気絶は確定だ。身体の方も、心なしか強度になった気がするが……うん、気のせいだろう。
「準備はどう?」
「オールオーケー。後で邪魔にならないように、警備員の方から始末し始めるか。……じゃ、始めようか」
丁度周りには人もいなくなった状況だ、開始するのなら今が一番だろう。
先ずは警備員からだ。正面の扉に二人。裏の入口辺りが無ければ……外にいる警備員はこの二人だけの筈。後々こういうのに逃げられたら面倒なことになるのが目に見える。
「右側のは任せるぞ?」
「私だけで良いんだけど……。……気をつけてね、主様?」
相変わらずこうも心配性の奴だ。まぁ良い。
いきなり警備員に殴り掛かるのもどうなのかと思うから、一般人を装っては近づいてみ……。
「……主様は遅い」
「お前が早すぎるんだって……」
一般人を装っては近づいてみようと考えたが、それも無理になった。アザルがすでに一人の警備員を気絶させては、それに警備員がもう気づいてしまった。
唐突に床に倒れた同僚を見て、状況が一切把握できていないのが目に見える。ま、仕方ないか。相手が先に行動を起こす前に、此方もちゃんと終わらせておかないと。
「こっちも終わりだ。……一応聞いておくけど、アザル。本当に此処で合ってるよな?」
此処まできて実は別のところでした、なんて事が合ったら最悪だ。
なんせ警備員二人を気絶させた状態だからな。顔も見られたし、実は此処じゃないって事が起きたらもうまじで最悪だ。
「主様も本当酷いことするね?いきなり顔を殴りつけるとか……。……あ、此処で合ってるよ」
「変に反撃されるのも面倒だからな?」
此処で合っていると。なら、後はこの目の前にある扉を壊して、パーティを始めるだけだ。
「俺から聞く。準備はどうだ?」
「私は何時でも?主様……はぁ、聞いても意味ないよね」
準備OK。なら……パーティの、始まりだっ……!
「失礼しまーす!」
木造の扉など、鉄の魔術を使っている今なら、壊すことなど容易い。適当に蹴りを入れるだけでも面白いように壊れてくれる。音も大きく、うるさく出るが……問題無い。どうせ見たやつは全員後で大陸騎士団に引き渡されるだろうし。
「だ……誰だ、お前らはっ!?」
中に居る警備員が一人気づいてくる。ま、こんな音を大きく立てて、そして派手にぶっ壊せば当たり前の事だ。それにしてもこの屋敷……以外にも広い。確かにこんな広いところなら、攫っては監禁するのには絶好な所だろうな。
「……主様、何時動いても?」
久しぶりのパーティのせいか、アザルはさっそく暴れたそうに見える。ああ、そういえば一応警備員もわざわざ誰なのか聞いてきてたな。……どうせこいつらは此処で終わりだ、自己紹介もしておくか。
「ちょっとした”依頼”で此処の人攫いとやらを探している者だ。……これで十分だろう?」
「テレポート、なんて小賢しい真似で私を攫おうとした奴を探しているだけ。今のうちに現れてくれれば。痛い思いはしないと思うけど……?」
これは自己紹介じゃないな。ま、それも良い。よく考えれば、こんな奴らに自分の名前を伝える義理なんて無いからな。
そして人攫い、なんて言葉を出せば相手も動揺し始める。ま、今までテレポート魔術でうまく逃げ切りながら、長い間バレずに人攫いが出来ていたからだろうな。お陰でこういう事態が発生すると、どう対処すれば良いのかが慣れていないのが目に見える。
「どうした?……あー、固まっちゃったねぇ、主様?」
固まったなんてまぁ酷い表現だ。ただそれくらいにこいつら……此処に居る数十人の警備員は一切動こうとしない。流石にこれではつまらなすぎるが、仕事が楽になる。……困ったもんだな。
「う……」
「お、やっと喋れるようになったか?」
変なうめき声を出したと思ったら、今度は右手を上に上げている。何の真似だろうか。
「……撃てっー!」
物陰から隠れていた奴らが幾つか現れては、白で塗装されたマスケット銃を持っている。……人攫いの金を使って、購入したのだろうか。
「……? 主様? あの、変な……武器、は?」
そうだった、こいつは余りこういう武器を知らない。
「マスケット銃。……火薬でなんちゃら、っていう割と新し目な武器だな」
「で、強いの?」
「お生憎、新し目な武器故に、俺は見たことも無いね」
それにしても、撃て、と命じてからの発砲が妙に遅い。狙いを合わせているにしても、遅すぎる。
流石に待ってやるのも疲れた、さっさと終わりにして、人攫いとやらをとっ捕まえることにしようか。
「アザル、うご……!?」
一瞬だが、彼らの動きが見えた。発射するためなのか、人差し指を小さく動かして。
その瞬間にだった。バカでかい爆発音が聞こえたと思えば、硝煙の匂いが部屋中にしてくる。一体幾つものマスケット銃から発砲されたのだろうか、ここまで匂いが強くなるのも。……それにしても、音だけで分かる。この破壊力は尋常じゃなく高い。
尋常じゃなく高くても、なぜか俺は傷一つ無く立っていられる。ま、これも使い魔のお陰、だろうな。
「……へぇ、主様を狙うんだ」
「やっぱお前は強いな―、アザル。かなり強そうな武器だったのに、傷一つ無いしな」
何らかの魔術を使ったのか、文字通り彼女の身体には傷一つ無い。マスケット銃は相当早い、とは聞くが……彼女のほうが何倍も早かったようだな。
そして彼女の方を見れば……発射された弾がすべて氷漬けになっては、宙に浮いている状態だ。
ここで何をするのかは、気になる。氷漬けになったままの弾を浮かせたまま、相手の方を見れば……驚いているな。自分たちの撃った最新式の武器が、たった一人の少女に止められる。……可愛そうだな。
「……! も、もう一度……う、撃てっ!!」
「もう良い、私もさっさと帰りたい。……お疲れ、さま」
彼女が手を前方に振り回せば、まるで弾達が命令を受けたかのように、銃を持った警備員一人ひとりにめがけて飛んでいく。決して遅くは無い、高速で回転しながら彼らの肩を貫いていくものだ。
それと同時に痛々しい声が聞こえてくるが、残念だ。寧ろ肩を狙われただけ幸運って思ってもらいたいものだ。
「だ、誰なんだ……お前たちは……!」
全員の肩を貫いたと思ったが、そういえばリーダー格の奴が一人残っていたな。特に武装していないようなやつだから、余り気にしなかった。
「誰だって良いだろ?」
「ぐ……り、リアフィールド様に逆らったら何が起こるか……!」
リアフィールド、こいつらのリーダーみたいな奴だろうか。……様、なんてつけている辺り少なくともただ単なる人攫い、なんかでは無いはずだろうな。
「だってよ、アザル。お前、怖いか?」
「私は全然?」
そんな誰なのか分からない名前を告げられて、はい怖いですって言うわけも無い。寧ろ俺の、最強の使い魔に抵抗出来るような奴がいるかすら疑わしいくらいだ。
……さ、黙らそうか。後で面倒な事が起こる前に、だ。
「……ぐっ!?」
自分で殴っておいて何だが、鉄の力で殴られる痛みなんて想像したくも無い。即座に気絶する辺り、それくらいやばい痛みらしいが……。
「歯、飛んじゃったね?」
「次からもうちょっと優しくしろってか?」
「……主様を傷つけようとしてきた人だし、寧ろ生ぬるいと思うけどね」
こいつは遠まわしに殺したほうが良い、と言っている気がする。さすがの俺もそこまで酷い事はしないが。
「上か、下か? 匂いのしている所は」
「ん。……下」
まぁ下だったろうな。もし上の階で籠もっているのはありえないことだ。此処まで騒ぎを起こしたのに、護衛らしき護衛が近づいてきていない。すると……防音が凄まじい地下、に居るだろうな。
思ったより寂しいパーティだが、無いよりはマシだ。
さ、今度は地下に行こうではないか。
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