10,私の幸福論

俺は一人だった。実親には必要とされなかったみたいで、施設に捨てられた。しかも職員たちは金さえもらえればいいから「愛情」のあの字もない。自分や家族の方が大切だから当然か。


私は一人だった。親は私の事をまるでゴミのように扱った。私は逃げ出した。以来ずっとひとりで生きてきた。他人は振り返りもしない。


ある日貴女は施設にやって来た。その時の貴女の瞳に光はなかった。

当時は職員たちや児童同士の暴行が絶えなかった。その事実は誰も力や知恵で抑えられるとは思っていなかった。

けれど貴女は違う。相手がどんなに大きかろうと持ちうる最大の腕と賢さと勇気で立ち向かった。本気の貴女には何も敵わなかった。

俺は決めた。俺は貴女の様な人間になりたい。その気持ちはきっと貴女の周りに集まるようになった奴らよりも強いに違いない。

やがて、施設の子供たちの笑顔が増えていった。

貴女は知らず知らずの内に幸せを振りまいているのだ。

けれどその中心にいる貴女は寂しそうだ。風化した心は孤独しか感じないのだから。

だから、俺は貴女に幸せを、愛を届けてみたい。何よりも貴女が心の底から笑う所を見てみたい。

そして、願わくば無敵の貴女の横を歩いてみたい。


「何してるの。早く来なさい、■■」

俺は今日もそう言う貴女の後ろをついていく。

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