8,広島より

私は今日も歩いている。もう二十歳になるが体が弱くて働けない。このご時世中学生だって働いているっていうのに。そんな私が嫌いだ。

私には仲が良い友達が男女合わせて四人いる。三人は出征し、一人は勤労奉仕に行った。このうち三人からはここ最近音沙汰がない。


だから、私は二つ目の太陽を見たんだ。


体が燃え上がるかのようだった。水が欲しい。足は辛うじて動くけれど、暗くて黒くて、目は役に立たなかった。道行く誰も彼も発するのはうめき声だった。私は溶けてズルズルになった死体を踏みながら迷い歩いた。

気づいたら広島駅のベンチの前に立っていた。出征する三人を見送ったベンチだ。

「私ってやっぱり駄目な人間だったのかな……?」

ベンチに倒れるように座ると私はそっと目を閉じた。


俺はそれを黙って見つめていた。

白い肌が印象的だった友達はその細かった腕をさらに細くして、赤黒く染められて佇んでいる。

戦場で仲間の死など数え切れないほど見てきたが、故郷の広島や友達の顔を思い浮かべて必死に生き残ってきた。

でもそれも徒労だったらしい。

俺の口は動く気がない。涙など出ない。肩に力も入らない。


何もかも失った俺は夢だった絵描きになるために絵にのめり込んだ。

でもあの新型爆弾は俺によく分からない病気を寄越してキャンパス一面に俺に血を吐かせて殺していった。


友達が、家族が、街が、夢が、帰ってこない。戦争のせいで、原爆のせいで……。得たものは何一つない。


一人の青年が、一人の少女が、たくさんの人が広島の山の上からじっと見つめている。変わっていく広島を、変わっていく日本を、変わっていく世界を。

その無数の瞳は私たちを見て、少し悲しみに染まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る