はじめてのけいそく

「じゃあ待ってるから、あとは頼んだ」

「了解した」


 どんなに強力な武具でもサイズが合わなければ意味がない。

 武具のフィードバックを最大限高めるにあたり、フィット感は極めて重要だ。しかしタクミがシャロンの身体をくまなくメジャーで測る訳にもいかない。自称正妻がそれを許さない。やれるものならやっている。

 できないものは仕方ないので、シャロンとロロを店に入れてタクミは外で待つ事になった。


 店内から更に奥、作業場で甲冑を脱ぎながら、シャロンは恥ずかしそうに言う。


「……あの、本当に下着も脱がなければ駄目なのでしょうか……?」

「駄目。タクミのメモにそう書いてある」


 ロロは無表情でバッサリと切り捨てた。その手にはタクミからのメモとメジャーがある。


「どれだけ軽装な鎧でも下着はつけると思うのですが……」

「その無駄乳はパッドかもしれない」

「むっ、無駄乳っ!? 私だって邪魔だと思ってるんです、胸なんてない方が――」

「黙ってさっさと脱ぐ」

「ちょっ、メジャーで叩くのやめてくださいっ!」


 ロロが鞭のようにビシビシ叩いてくるのをやめないので、シャロンは慌てて下着も脱いだ。さすがに大事なところは手で隠した。顔を真っ赤にして、同性であるはずのロロからも目を逸らしている。

 そしてロロは無言。

 裸のシャロンを見つめて、じーっと無言。

 身体を縮こませ、堪り兼ねたようにシャロンは言う。


「あの、早く計測を……」

「あまりにもエロい。エロの暴力」

「なぁ――――――っ!? ほっといてくださいほっといてくださいっ!! お願いですから早く計測済ませてくださいっ!」


 自分の身体がエロい事はシャロンも自覚しているようだった。音で表せばドカン! シュッ! ドカン! なのだから当然だろう。しかも顔立ちはキリッと真面目そうなので相乗効果は天に昇っている。


「さてはそのエロエロボディでタクミを誘惑するつもり」

「ありません! ありませんから! お願いですから早くしてくださいよぉ……」

「後ろ向いて」

「……何もしませんよね?」

「計測する」


 ロロの口調には落差というものがまるでない。しかも人の話を聞かない。更に話の舵を勝手に切る。ロロが何を考えているかは誰にも分からない。

 シャロンは困惑しながらもロロに背を向け、背筋を伸ばした。台に上がったロロが肩幅から測っていく。


「タクミの事、どう思う」

「……どう思うって、どういう意味ですか」

「そのままの意味」

「とても強い方ですね。名の知れた先輩方と比べても遜色のない強さだと思います。……なのにどうしてこんな僻地で武具屋をしているのでしょう?」

「タクミは私のもの。誰にもあげない」

「どうして質問を無視するのですか……んっ」


 メジャーでおっぱいを締め上げられ、シャロンは小さく甘い声を上げた。だが武具をオーダーメイドした経験などないシャロンには、これがただの計測なのかロロの嫌がらせなのか判別できない。


「武具を作るにはきれいな水が大切。スレイプニルは革や毛が素材として優秀。らしい」

「そっ、そうなんですか……。でもこんなところじゃお客さん来ないのでは、あっ、んぅっ!」

「いい武具を作ればどこでも客は来ると思っていた。そう考えたタクミがバカだった。でもタクミのそんなところも好き」

「やっ……ちょっとやめ、あぁっ!」


 かわいらしく喘ぎ艶やかに身体をくねらせるシャロンに対し、ロロはどこまでも無表情だ。


「メジャーが壊れているかもしれない」

「それどういう状態ですか!? もうやめてください、何で胸ばっかり何回も測るんですか!!」

「バストトップが三ケタを超えている。異常事態」

「だからほっといてくださいって言ったじゃないですかぁ――――――ッ!!」



 シャロンの悲鳴は外まで響いた。スレイプニルを解体していたタクミは閉ざされた扉に振り向き、心底悔しそうに言う。


「突入してぇ……! だがここは我慢の時!! ここで選択肢を間違えたら俺にベタ惚れトゥルーエンドはない!!」


 葛藤する自分に喝を入れ、スレイプニルの黒く長いたてがみを手刀で切っていく。



 工房では計測が続いていた。

 三ケタ越えの難関を超え、シャロンはウエストを計測されていた。健康的な筋肉が付いた白い肌にロロのメジャーがやわらかく食い込む。


「シャロンはどうして騎士に」

「……憧れたんです」


 そう答えたシャロンは静かに怒りの表情を浮かべていた。散々セクハラされまくったのだから仕方ない。それでも答えるあたり、やはりシャロンは真面目なのだろう。


「ずっと幼い頃、騎士に命を救われたんです。その人に憧れたから、ですね」


 しかめていた顔をゆるませ、シャロンは嬉しそうに微笑んだ。救われた時の事を思い出したのだろう。


「ロロさんはどうしてタクミさんと武具屋をしているのですか?」

「タクミが武具屋をやりたいと言ったから」

「では、タクミさんと出会ったきっかけって何なんでしょう」

「秘密」

「……そうですか」


 やはりロロと会話するのは難しい。シャロンはため息をついた。


「計測終わった。タクミを呼んでくる」

「ちょ、私まだ服着てないんですが!?」


 なぜかロロはダッシュで工房から出ていき、シャロンは慌てて下着を身に着け始めた。

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