第四回四天王他裏お茶会(ゲスト:錬金術士)

幕間6『自分の娘にできる最後の大仕事』

「にわかには信じられぬが、こうも速攻解決を見せられると喜劇か何かと思えてしまうな」


 王宮ではなく、銀狼館のお茶会。フェンリ三世はお茶をひとくち。報告書をめくりながら水龍山の顛末をあきれ顔で読み込んでいく。

 四天王は席に着き、メイド長とあの狐娘の間諜が黒服姿で控えている。


「で、その、大丈夫だったのか?」

「何が……でございましょうか」とジレイン。


 フェンリ三世は術士の怪我の具合と、彼の活力回復に使ったアレについてのフェイニの報告をとんとんと差しながら「いや、これだけどさあ」と困惑顔だ。


「鳳凰の血が、器用人には強すぎまして」

「そらわかるけど、なんで玉子を?」

「産まれちゃったので、その」


 フェイニがテヘヘと頭を掻く。


「よくまあ産みたてを産んだ者の前で飲んだものだ。でもなんだ、器用人にはこれがまた効果があったというのは見つけものだ」

「如何様」


 フェンリが身悶える。


「産む途中、産道で少し割り潰し、そのまま啜って頂けたら幸せでございましょうが、なにぶん乙女です故わたくしも」

「乙女のする妄想じゃないだろ」


 あきれ顔だ。


「ただ気になるのはここだ。……鳳凰の血と、水龍の秘術。これを掛け合わせれば相当な効果が期待できるとあるが?」

「さらに銀狼の治癒力が加われば、死者の復活も可能かと。ただし、肉体の損壊が乏しい場合ですが」これはジレインの言葉だ。


 ティエンは「そうですねえ」と考える仕草だが、殊更に彼女はかの錬金術士の力の動きそのものを肌で中身で感じた経験がある。確かに、掛け合わせることで飛躍的な効果が期待できるだろう。

 心臓は物理的に動かせばいいのだ。血が乗れば、水龍の魔力も鳳凰の呪力も存分に肉体に巡らせることができるだろう。

 肉体が蘇生のきっかけを掴めば、あとは治癒で馴染ませられる。


「理論上は可能であると、水龍山の基地でも実験してみましたし」

「実験?」

「水将の力と、銀狼の力の併用は、サラーラちゃんの身体で試させて頂きました」


 無論、保護者の同意の下ですがと付け加える。


「そこでですね、件の見立てをしましたところ、基地に於いて錬金術士どのが陛下に――フェンリさまにお話ししたいことがあるそうで」

「なるほど、今回私を銀狼館に呼んだのはそれが目的か」

「左様でございます。術士どのは姫の同席も望んでいらっしゃいます」


 深く、フェンリは考える。

 第二の目的である水龍山の見通しは立った。ここで彼はすぐに第三の目的を組み上げたのだろうか。


「よろしければ、すぐにお通しいたしますが」


 と、これはメイド長だ。


「今日の本題だな? よし、お会いしよう」

「かしこまりました」


 メイド長は部下の狐娘に促す。

 彼女はすぐに退室し、ふたりの待つ術士の研究室へと向かっていく。


「……なんの話だろう」特に何の報告もしないブラベアが頬を掻く。

「わかりませんが、その術式に思い至ったとき、異様に鬼気迫る気配を感じました。その後、この術の効果を確かめ、あることが確認でき次第、報告したいことがあると仰っておりました」


 フェンリは「余程のことか」と唸る。

 そして数分後、はたして術士はキャロラインと共にやってきた。


「お待たせ致しました。お話はお済みでしょうか」


 術士は一礼し、腕を組んで離さない娘を撫でながら並んで席に着く。すぐにメイド長がお茶を用意知ると、話の準備がすぐに整った。


「急にお呼びだてして申し訳ありません。姉であるフェンリさんと、娘であるキャロラインには言っておかねばならぬことがありまして」

「姉である私?」

「娘である私?」


 と、キャロラインも初めて話の内容が自分の母のことであると気がついた。あの、二十年前に死んだ先代銀狼姫将軍のことだ。


「彼女の死を看取ったのは私です。事の経緯は以前にお話ししたとおりです。そして今回お話ししたいのは、そのあとのことです」

「後のこと――」


 全員が、息をのむ。


「この子……キャロラインが大きくなったら、お母さんの弔いをしに、プレシェス山へといつか行こうと思っておりました」

「お母さんの、弔いに?」

「そうだ」


 彼は頷いた。


「彼女が息を引き取って、君が僕に託された。その後について話すよ」


 思い出すような遠い目をし、娘の手を握りながら彼は告白をした。


「僕は――私は、彼女をいつか娘と弔えるようにと、その祠の奥に安置したんです」

「安置?」


 放置ではない。その響きに、よもやと腰が浮きかけるフェンリ。

 四天王は、話の流れに思い至る。


「ご遺体に防腐処理を施し、石化させ、魔人や獣にあらされぬよう玄室を構築し、出入り口のない隠し部屋と致しました」

「なんと、妹の身体は……」

「息を引き取って、二分と経っておりません。私の術が確かなら、二十年経た今でも、石化の解除を行えば――」


 フェンリが椅子を蹴倒し立ち上がる。その表情は驚愕に満ちていた。


「蘇生が可能だと!? 妹が、生き返るだと!? ……は、はは、なんということだ」

「巡り合わせでしょうか」


 術士は頷く。


「戦友の死因が活力と魔力枯渇の果てにあるのならば、充分に蘇生可能な段階だと思います。……ケモフルール復興支援の使者でありながら、このようなことを頼むのは心苦しいのですが――」


 術士は立ち上がり、頭を下げる。


「どうか、キャロラインの母親のため、私的に四天王のお力をお貸ししては頂けないでしょうか!」


 さらに膝を折って、頭を下げる。


「お頼みします! フェンリさん。……いいえ、!」


 術士の額が絨毯に沈み込む。

 彼はフェンリをいまはっきりと『陛下』と呼んだ。


「お顔を上げてください、術士どの」とフェンリ。


 そんな彼を、四天王はそろって抱え起こす。オロオロとしてるキャロラインは、皆を振り返りつつ、どうしようかと腰を浮かせて困り顔だった。

 情報が追いつかない様子だ。

 皆が、キャロラインの周りへと集まってくる。

 そして彼女を術士は優しく撫でる。耳先をくすぐるような、あの撫で方だ。

 フェンリはそんなキャロラインの肩にそっと手を置く。

 なかなかどうして、ただの二十歳の少女にしか見えなくなっている。


「みんなで迎えに行きましょう。ね、キャロライン」


 お許しが出た。

 術士の顔が、くしゃりと歪む。

 ああ、やっとだ。

 やっとあなたに大きくなった彼女を会わせることができる。

 あなたにお返しできる。

 これが自分の娘にできる最後の大仕事だと心に決めていたのだ。




 休みと称して一行が非公式に器用人との国境中立地帯にあるプレシェス山、その祠へと向かったのは、その翌日のことであった。

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