神様のポケット

nobuotto

第1話

「どうしてなんかなあ。ふ~。」

 運を司る運神。彼のため息は日々増えていくばかりであった。

「ため息をつくと運が逃げるぞ。なんて事をお前に言うのもおかしな話しだがな」

 天候を司る天神は心配そうに運神のポケットを見ている。

 運神の左のポケットがはちきれんばかりに膨らんでいる。

 運神の右ポケットは幸福、左のポケットには不幸が入っている。バランス良く幸福と不幸を振りまくのが運神の仕事である。

 運というのは幸福と不幸のバランスがあって始めて成り立つのであった。

 彼らは何億年も地球という綺麗な星を担当していた。

 素敵な星の担当で満足感のある仕事だったが、最近はストレスで疲れ切っていた。

 というのも右ポケットの幸福を撒いても、幸福が幸福を生んで帰ってくることはない。減るだけならいいが、それどころか不幸になって帰ってくる。それなのに、左ポケットの不幸は不幸を生んで帰ってくる。

「不幸ポケット一杯一杯になっちまったなあ」

「うん。戦争を始めちゃったからね。こうなると僕の力ではどうしようもない」

 戦争になれば、ほんの少しの人が幸福になって多くの人が不幸になる。地球の多くの不幸がどんどん左ポケットに溜まっていく。

 天神も運神の辛い気持ちがよくわかっていた。

「もうそろそろ人間も終わりにしていいのかもよ。お前の左ポケット、恐竜の時もパンパンになったじゃないか」

「どんどん大きく残酷になっちゃったからね。最初はみんな自由に楽しくやってたのにさ」

「お前のせいじゃないよ。何事も運・不運ってのがあるしな。なんて、これもお前に言うのはへんだな」

「それで君が天災を起こして、恐竜が滅んで。それで人間の世界にはなったんだけど」

「奴ら、うまく行ってたんだがなあ」

 天神は地球を覗き込んだ。

「こりゃあどうしようもねえな。次に行こうか」

 運神は考えこんでから言った。

「しょうがないかもね。ただ、前みたいに一変にやると後が大変なんで、徐々にやってくれないかな。その方が僕も様子を見つつ仕事ができるから」

 それから地球に大変動が起きた。

 洪水、旱魃、大雪と世界中で天災が起った。戦争に加えての天災で多くの人が死んでいった。不幸が増えつづけ左のポケットは爆発しそうに膨らんでいた。

 左ポケットが爆発すれば、そこにあった不幸が一斉に地球に降り注がれ人間は終わる。

 天神は「そろそろだな」とポケットを見ながら言った。

「そろそろだね。もうポケットは限界だからね。人間が自分達で選んでしまったからしょうがないね」

 運神は寂しそうに言う。

 しかし、それから、左のポケットは少しづつ小さくなっていった。そして右の幸福のポケットがちょっとづつ大きくなっていった。

 予想外の展開に天神は驚いていた。

「いやあ、すまん、すまん。手を抜いたわけじゃないが。一気に行くか」

「そうじゃないみたい。地球をみてごらん」

 地球をみると戦争は終わっていた。

 洪水、旱魃、大雪でどの国も戦争どころではなくなっていたのであった。

「ほー。戦争止めたんだ。しかし俺の天災で人間は不幸だらけだろう。お前の左ポケットはもう爆発するんじゃないか」

「僕もそう思ったけど。ほら不幸のポケットがどんどん小さくなって、幸福のポケットがどんどん大きくなっているだろ」

 地球では残り少なくなった人間達が助けあって生きていた。

 誰もが貧しいかったが、より多くの物を持っている人は、より貧しいものに譲り、自国で少しでも余裕ができればより不幸な国に分け与えていた。

 不幸が幸福に代わり、幸福は幸福を生み出していたのであった。

「これじゃ人間が滅ぶのは時間がかかりそうだな。面倒だから一気にやっていいか」

「いや、ちょっと待ってみないかい。ポケットのバランスがよくなってきたし、もう少し好きにやらせてみようかと思うんだけど」

 地球の人間を見て天神もうなずくのであった。

「しかし、人間というのは、よくわからんな生き物だなあ」

「そうだね。これまでも不幸のポケットが一杯になって駄目かなと思うと、不思議なくらい変わるんだよね」

「なるほど。それでお前は様子を見つつと言ってたわけか。しかし、結局こいつらはお前の不幸のポケットを爆発させる気がするけどなあ。変に期待するとまた裏切られるぞ」

「そうかもね。先が分からない生き物だけど今だけは違うみたいだから。僕も僕の仕事をやらないとね」 

 運神は右ポケットから取り出した幸福を地球に振りまくのであった。

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