閑話

さよならは言わないで

プロローグ

「ヒカ、次の新曲は私が作りたい」


 なんて言ってたのは一ヶ月前こと。

 そろそろアルバムを出す頃合いだよねなんてマネージャーと話してたから、その申し出は嬉しかった。

『入れるならとびきりいいやつにしてよね』なんてふざけて言えば、『私の曲にとびきりじゃないやつなんてないでしょ』と片目をつぶってあの子が返す。

 そりゃそうだ、ルネが紡ぎ出す言葉も音も世界で一番なんだから。


 そして、あの日。

 ドラマ撮影が終わって、先に楽屋に入ったあたしはマネージャーが出してくれたお菓子をつまんでいた。ルネは現場が終わり次第合流になる。

 アルバム出すなら景気良くライブもやりたいよね、なんて話していたら電話がかかってきた。


「ちょっとごめん。電話が入った」


 などとでかい図体をしておいて気が小さい彼がことわりを入れるので、はいはいいいからさっさと出なよと手で追い払う仕草をする。彼は律儀にも部屋の隅に移動して電話に出た。

 途中から目を剥いて顔を真っ青にするマネージャー。

 なんかあったのかなー、なんて呑気に饅頭をぺろり。

 ここにいないルネの話ではないと思った。だってルネがやらかすなんてあり得ないし。

 きっと、また無茶な企画を出されたとか、詰まり詰まった予定にまた詰め込まれたとか、そんなこったろうと。売れっ子ならではのあるあるだ。

 しかし、暫くして電話を切ってこちらへ向いたマネージャーはいつになく頼りなくて、倒れそうなほど細く見えた。



「ルネが、ハルネが____」

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Another Beat 藤野 咲 @chirune1012

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