第28話 超能力と迫害の話

                    by Sakura-shougen


 「 中世の暗黒時代と呼ばれる時代は実に千年に渡って続いている。

   ベリリン教徒の教祖達は正義と信じて、異端の徒を処刑し、教えに逆らう学者

  を殺戮しあるいは放逐した。

   これは悪なのかそれとも正義だったのか。

   少なくとも、その時代、その地域において信じられていた悪と正義は、今のア

  フォリアとは異なるものだということだ。

   そうしてその見方が何時か変われば、今は正義と認められていることが、悪と

  認識されることもあり得るということだ。

   そうして、また、この中世の時代に魔女狩りと称して罪なき者が多数生贄にさ

  れている。

   建国当初のアフォリアでも魔女裁判で100名を超す人々が殺されているのだけ

  れど、シンディは知っているかい?」


 「 ええ。

   ケラムンドの魔女ね。

   400年以上も昔の話だけれど。」


 「 人と言うのは随分と非情になれるものだ。

   ケラムンドでは、市民の大半が魔女と呼ばれた人々をリンチに掛けた。

   で、本題なんだが、処刑された人々は魔女だったのだろうか。

   シンディはどう思う?」


 「 そんなぁ、魔女なんかいるわけがない。

   単なる集団ヒステリーで無実の人が殺されたんだと私は思う。

   本当に魔女がいたら、逆に市民達が逆襲される筈よ。」


 「 なるほど、そう言う見方もあるわけだ。

   確かに魔女と呼ばれた人々が本当に強力な魔法を持っていたのなら逆に市民達

  が殺されたかもしれない。

   でも今のシンディからみてほんの幼児にしか思えないような力しかもっていな

  い人達なら、逆襲することもできずに死んでいったろうね。

   だから、本当に超能力者がいたにしても、彼らは本当に力が弱かった筈だ。

   DVでどこかの目立ちたがり屋がやっているようにスプーンを曲げたからとい

  って何の役にも立たないはず。

   本当に力ある者は、そんなことをせずに逃げて、隠れて生活しているよ。

   彼らとて世界中の人々と喧嘩をするほど強力じゃない。

   仮に世界中と喧嘩しても勝てるほどの力を持った者がいるとしたならば、その

  人は敢えてそうした力を振るわずに人知れず静かに生きているよ。

   彼若しくは彼女が狂気に陥っていない限りはね。」


 「 どうして?

   そんな力を持っている人なら、ワレンザルツみたいに世界征服を企むのじゃな

  いの。」


 「 シンディ、野山に行ったことが有るよね。

   舗装された場所じゃないところには多くの生命が息づいている。

   例えば蟻がいる。

   シンディは必ずしも蟻と御話ができるわけじゃないけれど、蟻と御話ができた

  として、蟻の世界を征服したいと思う?」


 「 そんなことは思わない。」


 「 そう?

   じゃぁ、何故そう思わないんだろう?」


 「 蟻の世界であれ、人間の世界であれ、征服してまで自分の思い通りにしようと

  言う気にならないだけだと思う。」


 「 うん、まぁ、それが普通の人の考え方だ。

   でもね。

   権力を握り、その特権を手放したくないと思うような人はそうは思わない。

   自分に敵対するものは滅ぼし、或いは征服して言うことを聞かせる。

   仮に反抗するものが居れば容赦なく殺す。

   アフォリアの元首は国王陛下なんだけれど、その権限は形骸化している。

   実際の権力を持っているのは政府首班に任ぜられた首相なんだろう。

   アフォリアの場合はそういう意味で少し考え方が難しいかもしれないが、隣国

  サバステスのように大統領制を取っているところ、或いはブラウダの様に封建的

  な国王制を取っている所が一番わかりやすい。

   仮に、サバステスやブラウダに、ある場所からある場所へ瞬時に移動できる力

  を持った人がいるとして、その事が政府に判ったとすれば、政府はどうすると思

  う?」


 「 さぁ、それは・・・。

   多分、監視の目を光らせて、その人が何か悪いことをしないかどうか確認する

  と思うわ。」


 「 違うな。

   大統領や国王が指示しなくても政府と言う組織が自分達を守るために予防措置

  を張る。

   具体的には監視などではない。

   仮にその人が政府の思いのままに動かない人間だとわかれば、すぐにも抹殺す

  るだろう。

   自分の意思で何処にでも移動できると言うことは、気に食わない人間が居れば

  いつでも誰にも知られずに殺せる力を持っていると言うことだ。

   政府若しくは組織にとってこれほど危険な存在はない。

   夜もおちおち眠られないし、飲み物や食べ物にいつ毒物を混入されるかわかっ

  たものじゃない。

   政府と言うのは人が寄り集まってできた組織なんだけれどそれだけに考え方は

  非人間的なんだ。

   例え、救助に行かなければ死ぬとわかっている場合でもそれが少数ならば見殺

  しにする場合さえある。

   戦場ではそうした決断が往々になされているんだ。

   戦略上必要があれば地図の一地域ぐらい平気で敵に差し出すんだ。

   その結果として多くの市民が死に、女達が強姦され、金品が略奪されてもやむ

  を得ない犠牲だという一声で終わらせる。

   そんな政府が、超能力者と言う訳のわからない存在を簡単に許すと思うかい?

   さっきも言ったようにスプーンを曲げる程度の力しか持たない者ならば、シン

  ディが言うように監視をする程度で収まるだろう。

   けれど人の意思を操ったり、このビルを簡単に破壊できるほどの力を持つ者な

  らばどう考えても放置はできないんだ。

   奴隷にするか抹殺するか二者択一しかないだろう。

   だから、超能力を持っていると自覚している者は、必要以上に自らの力を隠す

  ことになる。

   君が信じている政府じゃなくても、その力を何とか自分達のために使おうとす

  る非合法の集団だって有り得る。

   君が超能力を持っていて、結婚し、子供が生まれたとしよう。

   その子供を人質にされて銀行強盗をしろと強要されたら、シンディ、君はどう

  する?

   子供の命を諦めて正義を貫くかい?

   それとも無駄と承知で超能力を使わずに警察に捕まるかい。

   その場合も子供の命は無くなるだろうね。

   そうして超能力を一旦使えば、彼らは人質の子供を決して手放しはしないだろ

  う。

   そんな事態にならないためにも、仮に超能力を持っていても人には見せないん

  だ。」


 「 サムの言うことはわかったけれど、だからと言って貴方や私にそんな能力が有

  ると言う証明にはならないじゃない。」


 「 その通りだ。

   今この場ではその証明はできない。

   人の目が有るからだよ。」


 「 貴方の家ならできるの?」


 「 ああ、別に僕の家じゃなくても構わない。

   周囲に人が来ない場所ならばね。」


 「 そう・・・。

   じゃぁ、サム。

   明日10時に家まで迎えに来てくれない。

   どこか誰もいないところに行って、そこで見せてもらうわ。

   でも事前には、何処に行くかは貴方には言わない。

   そうすればマジックみたいな仕掛けはできないでしょう。

   そうして、そこで私の言う魔法か超能力を三つ私に見せるの。

   そうしたら貴方の言うことを全面的に信用する。」


 サムエルはしょうがないと言う風に肩をすくめた。


 「 いいよ。

   明日10時に迎えに行くよ。

   それからどこか行く先のわからないデートだな。」


 「 うん、明日天気ならいいけれど。」


 「 明日は曇りだけれど雨は降らない。

   超能力者Aはそう言っているよ。」


 「 嘘、天気予報じゃ明日は半分以上雨のマークだわよ。」


 「 天気予報のお嬢さんは雨降りの神様とお友達じゃないからね。

   少なくともそういう情報を貰っていないんだろう。

   あ、念のため言っておくけれど、キレインの中心街は正午近くから結構な雨が

  降るよ。

   他の地区は中心街から離れるに従って雨量は少ない。

   ドライブするぐらいなんだからキレインのかなり郊外なんだろう。

   だったら雨は降らないよ。」


 「 わかったわ。雨神の御友達さん。

   デートの話が随分長い話になったわね。」


 「 あぁ、そうだね。

   カレンが心配しているみたいだな。

   モニターをしっかりと見ているよ。」


 「 あら、本当にそんなことがわかるの?」


 「 ああ、そうだよ。

   カレンのところに行ってみて御覧。

   きっと二人で何を話してたのかって尋ねるだろうから。」


 「 へぇ、本当かどうか試してみるわ。」

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