第27話 隠し事の漏洩

                    by Sakura-shougen


 だが、思いがけないところから情報が漏れてしまった。

 三日後に発行された売れ筋のファッション誌に『期待の新人か』という見出しで、シンディの三回目ぐらいの歩いている姿とサムエルとのキスシーンがどでかく掲載されてしまったのである。


 知らない人が見ても当然に気づかないだろうし、多少知っている人もシンディとは気付かないかもしれない。

 化粧が濃く、髪型も全く違うから、イメージが全く違って見えるのである。


 そのままではシンディによく似たモデルとしか思わない筈だ。

 だが大学時代の親しかったクラスメートの何人かと、ゴアラ特殊製鋼の秘書室にいる役員秘書は気づいてメールを送ってきた。


 曰く、『凄いじゃん。いつモデルを始めたの。今度ショーが有るときは教えてね。』とある。

 他のメールも似たりよったりで、シンディは誤解を解くためにその返事に追われたのである。


 そうして、たまたまファッション誌を手にした母も見てしまったのだ。

 その日、帰宅してからファッション誌を手にした母に、かなり問い詰められた。


 写真にはばっちりと唇が触れあっているところが映っているから、言い逃れはできない。

 しかもどうしたはずみか、シンディの両目は閉じられていた。


 これでは濃厚なキスシーンと疑われてもやむを得ないような写真である。

 それにしてもあっという間の口づけだった。


 物の本には唇が奪われると言う表現が有ったように思うが、正しくそれだった。

 倒れそうになり、抱えられたと思った次の瞬間には唇がさっと触れ、それに気付く暇も無いほどすぐに離れて行ったのだから、正しく、早業である。


 今でもその瞬間のことを思い出そうとしても良くわからない。

 だが、写真をみると恥ずかしくなってしまう。


 母は、公衆の面前でこんなはしたない真似をするなんてと怒っているのである。

シンディは黙って聞いて居るしかなかった。

 嵐にぶち当たってしまったら、ひたすら通りすぎるのを待つしかないのである。


 サムエルには、何故キスしたのかを聞いてはいない。

 帰り道、サムエルもそのことを言わなかったし、シンディも聞かなかったからである。


 少なくともサムエルに嫌われてはいないと言う思いがシンディの心身をとても暖かくしていた。

 そうして、その週末、前日にサムエルから週末の休みの予定に付いて聞かれ、できれば付き合って欲しいと言われた。


 「 あら、デートのお誘い?」


 「 うん、まぁ、デートのようなものだけれど、少し違うかなぁ。

   他の人には見られては困るんで、家に来てくれるかい。」


 「 人に見られて困るって・・・何よ。

   例によって極秘の仕事でもするの?

   何をするのかちゃんと話をしてよ。」


 「 うーん、仕方が無いな。

   遮音室に入ろう。

   あそこなら、少なくとも他の者には聞かれない。」


 そう言ってサムエルは先に遮音室に向かった。

 シンディもその後に続いて遮音室に入る。


 スライド式のドアが閉まるとサムエルは座るように言った。

 そうして突然奇妙な話を始めた。


 「 あのね。

   シンディは超能力って信ずるかな。」


 「 超能力って、魔法みたいに火を出したり、人の心を読んじゃうやつ?」


 「 うーん、正確に言うと魔法と超能力は違うものなんだ。

   魔法は、どちらかと言うと周囲に有る自然に眠る力を利用して本来であれば起

  きない現象を引き起こす力。

   超能力は自らに備わっている力で本来であれば起こり得ない現象を引き起こす

  力なんだ。

   その違いを理解できるかな?」


 「 ええ、まぁ、・・・・・。

   でもそんなのは傍で見ている者にはどちらかわからないじゃない。

   結果として、普通では有り得ない現象を誰かが引き起こすと言うことなのでし

  ょう?」


 「 うん、まぁ、そういう定義をしてしまえばそう言うことになるだろうね。

   でも厳密に言って、二つは違うものなんだ。

   それよりも、そうした超能力や魔法の力を持った者が現実に存在することがシ

  ンディは信じられるかい?」


 「 嘘ぉっ、そんな人がいるなんて聞いたことも無いし、見たこともないわ。」


 「 じゃぁ、もう随分前だけれど、公園で僕が遊具を踏み台にして22リムほどを跳

  んだよね。

   あれは普通のこととして不思議には思わないの?」


 「 え、・・・。

   まぁ、それは、凄いと思ったけれど、・・・。

   別に100リムも跳んだわけじゃないでしょう?

   それに警察だって納得しちゃったんだから有り得る話じゃないかと思うわ。」


 「 警察はね。

   理解できない現象に突き当たると安易な方向に解釈をするものなんだ。

   警察がそう判断したからと言って、それが真実とは限らないんだよ。

   今後ともシンディはそのことには注意していた方がいい。

   で、話は最後まで聞いて欲しいのだけれど、結論から言っておくよ。

   僕は超能力者なんだ。

   そうして、君もまた超能力者だ。」


 「 そんなこと嘘よ。

   少なくとも私には超能力も無いし、魔法を使えるわけではないと言うことは自

  分で知っているわ。」


 「 ふーん、そうかなぁ。

   じゃぁ、自分で試してみたのかい?」


 「 いいえ、そんなことやったことも無いし、試そうと思ったことも無いわ。」


 「 シンディ、君は超能力者なんだ。

   そのことは僕が良く知っている。

   ただ、君が超能力を持っていたにしても、その発現をどうしたらいいのかを知

  らないだけなんだ。」


 「 へぇ、じゃぁ、貴方がその超能力とやらで、何かをして見せてくれたら信用し

  てもいいわ。」


 「 いいよ。

   でも今は拙いな。

   カレンが、受付のモニターで見ているよ。

   興味深々で二人で何をしているのかなってね。

   ここは遮音室だからね。

   映像は見えるけれど、音は聞こえない。」


 「 カレンが?

   でも、変よね。

   超能力って隠すものなの?

   隠さずに私は超能力者ですって言えばいいじゃない。」


 「 うーん、シンディはDVの見過ぎだな。

   超能力者が正義の味方ばかりとは限らないよ。

   中には悪人もいる。

   仮に悪人が超能力を持っていたとして、それで実際に超能力を使って悪いこと

  をしたらシンディはどうすればいいんだろう。」


 「 私には何もできないわね。

   でも、悪い人はいずれ処罰されるわ。」


 「 そうだろうか。

   必ずしもそうじゃない場合もある。

   今もそうだけれど、ブラウダと言う国がある。

   そこでは王族は何人も妾を持っていいと言うことになっている。

   これは、国の法律ではないけれど、それが許されている社会だ。

   一方で、アフォリアでは複数の妻を持つことは許されていない。

   これは同じ事象であるのに地域によって罪とされ或いは罪とされない典型的な

  例だろう。

   だから、君が見て悪いと思うことだからと言って、必ずしも普遍的な悪ではな

  いかもしれないんだ。」


 「 だって、アフォリアで多くの人が犯罪であると信じていることを否定するのは

  できないわ。」


 「 そうだろうね。

   そう考えるのが一般的だ。

   ベリリン教という宗教が一時世界を席巻したことはシンディもよく知っている

  よね。」


 シンディは頷いた。

 今でもベリリン教徒は少なからず残っているが、少なくとも狂信的な宗派は姿を消した。


 中世の暗黒時代と呼ばれる時代に、宗教裁判所が置かれ、異端の者は全て神に逆らう者として処刑された。

 他の宗派や異教徒の弾圧に使われたのである。


 この非常に強力な制度によって知識さえも歪められた。

 生物の進化論を唱えたエブリアルは、神が万物を創造したという教義に反するとして処刑された。


 この大地が球形で、その球形の大地が太陽の周りをまわっているという説を唱えたバカリアスは、宗教裁判にかけられ、遂にその圧力に屈した。

 大地は平板で、太陽がこの地上を巡っていると裁判で公式に認めたので処刑はされなかったが、所属していた大学を追放され、失意の内に旅先で亡くなった。

 一説には餓死したとも言われている。

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