Open the door
3.Open the door (1)
4月も、あと片手で数えるほどの日付になり、ゴールデンウィークが近づいてくる。
有遠のクラスも、一月経てば徐々に派閥、とまではいかないが、仲良しグループが出来はじめていた。とはいえ、有遠は相も変わらず葉月くらいしか話をする相手はいないのだが。
ちなみに、葉月の方はというと、高校に入ってからどういう人脈か男女ともいろんな人と話をしていることが多い。社交的能力は高いんだ。石頭のくせに。
……けれど、今日はそんな嫌味を言う気分ではなかった。どちらかというと、私はドキドキした気分を覚えていた。緊張と、期待であった。
その理由は、他でもない、あの日届いた黒崎さんからのメールだった。
「『クロノスタジオ』で待ってます」
日付と、時間、そして住所。そして、その一文が記されていた。
クロノスタジオ、耳にしたことはない名前だったが、おそらく待ち合わせの場所だろう。名前からしてスタジオの名前な気がする。
黒崎さん曰く、話をしたいことがある、とのことだった。どんな話があるのか、なんとなくだが、悪い話ではない気はしていた。そして、指定の日付は、今日。時間は夕方5時。……そう、その時が近づいて、私は昂ぶる気持ちを抑えていたのだった。
ただまあ、私は感情、表情が他人より薄い自覚はある。だから、その緊張と期待は、クラスメイトの誰にも伝わらないだろう。そうだろうと思っていた。
「……ねえ、有遠、何かあった?」
……ただ一人、この石渡葉月を除いては。
不意に声を掛けられたのは、いつも通りの2人の昼食時。
私は目を丸くして、怪訝な表情を浮かべる。
「……え、なんでそう思ったの?」
「いや、なんとなく」
「なんとなく」で私の変化を見破らないで欲しい。心臓に悪いから。
私は食べかけの鮭おにぎりを手に、呆れたような顔を浮かべる。
葉月はうーん、と考え込み、言った。
「なんて言ったらいいんだろ。 有遠、不気味なくらい明るい気がして」
「へ?」
「いつも暗い、って事を言いたいわけじゃないけど、なんか皮肉屋の有遠が珍しく活気がある気がして、何かあったのかなって」
「不気味なくらい明るいって……失礼な」
まあ、その予測は当たってるんだけど。伊達に幼なじみはやってない、って訳ね。
そう考えていたら、葉月がまた口を開く。
「ねえ、この後暇でしょ?」
「え?」
「ちょっと買い物、付き合って欲しいんだけど」
「ええ……」
急な誘いに、私は眉をひそめる。そりゃあ、私も葉月も帰宅部確定してるからこんな事を言い出したんでしょうけど。
もっと言うと、こういう感じで強引に誘われたことは、何度もあるけれど。
よりによって今日?……それは無理だなぁ、と。
「いや、今日はちょっと……」
「え、ダメなの?」
「うん。 先約がある」
「……先約? 有遠に? 珍しい」
此処まで言って、まずい、と思った。
多分、葉月の次の言葉は、予想できる。
「……何かあるの?」
……やっぱり、言うと思った。
この事を、葉月に言うか、否か。……どちらにしても、葉月と一悶着あるんだろうな。
私は、俯き、しばし沈黙を貫いた。
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