2.In the rain, at the bus stop (9)
その日は、餅月さんとK-Sukeさんの2人と、ライブについての話をした。
主に餅月さんがK-Sukeさんのライブに並々ならぬ興味を抱いているように見えたのだが、関心が向いているのは私も一緒だった。もっとも、それは伝わってないだろうと予想はしていたが。
K-Sukeさん曰く、「面倒くさいことも多いけど、やめられない」とのこと。何に対して達成感を抱くのかは人それぞれ。オーディエンスの反応、演奏や歌唱自体の気持ちよさ、あるいは練習で組み立てながら曲を作り上げる事、など。
ライブ演奏を考えたことはあるけれど、やってみたことは、まだない。そもそも音楽好きを自覚してる癖に、恥ずかしながら私はライブハウスに行ったことがまだないのであった。精々無料で聞けるストリートミュージシャンのパフォーマンスくらいか。
……ライブ、かあ。
怖い気持ちは大きい。けれど、今日のあの運命の出会いを思い出す。雨のバス停で出会った、「Rain」の管理人、黒崎さんとの出会い。
きっと、彼もそんな恐怖に怯えていたのだろう。彼の文章、そして、言葉を見れば、分かる。
>Albert:それでは、今日はこれにて失礼しますね。
>餅月静夜:はーい! おつです!
>K-Suke:おつ
>Albert:ありがとうございました。
>Albertがログアウトしました。
ログアウトした時刻は夜の10時半。そろそろ母の怒号が飛んできそうだ。私は急いで「Rain」のメールフォームに、文章を打ち込んでいった。
Title:「こんばんは。」
Text:「こんばんは、初めてメールを送らせて頂きます。
始めに、今日は本当にありがとうございました。バス停でお話をした高校生……、と言えば分かるでしょうか。
私は、ハンドルネームではAlbert、と名乗ってます。本名は鈴代有遠。すずしろあると、という名前です。
黒崎さんの曲は、初めて聴いた時から、心に響きわたる感覚があって、聴けば聴くほどどんどん好きになっていって……。
それと同時に、黒崎さんの今までの事を書いた記事が、凄く共感を覚えてしまって、だからずっと聴いていたんです。
実は、私も音楽を作ってるんです。あまり人には聞かせてませんが。
もしかしたら、バンドを組みたいという欲も私の中に存在しているのかもしれません。
私は今、踏み出すことに怯えています。
そして、踏み出さないことが楽だと言うことを学習してしまっています。
でも、今日黒崎さんは、こう仰ってましたよね。
「貴方の歌で救われた、もっと貴方の歌を聞きたい」と。
……本当に、嬉しかった。ありがとうございます。
もう少し、考えてみます。
踏み出すことがいいのか、そうでないのがいいのか。
本当にありがとうございます。
霞ヶ丘の雨はまだ続きますが、体調にはお気をつけてくださいね。
それでは、ありがとうございます。 Albert/鈴代有遠」
メッセージを作り、改めて読み返す。……大丈夫そうだな、よし、送信。
返事は次の日に届いた。
私の心臓は……その瞬間、大きく響いた気がした。
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