2.In the rain, at the bus stop(3)
そして、この日の放課後。今日もまた、丘から街へ、そして葉月と別れる場所まで歩いてく。
「それじゃあね」
「ん、また明日」
葉月と私は、そう言って別れた。
葉月はまだ歩くが、私はここからバスに乗って帰る。「高砂」と書かれた、古ぼけたバス停、そして雨を凌げる屋根のついたベンチ。
バスが来るまでは、15分ほどかかりそうだ。私は無言でベンチに座る。赤いメッキが剥げかけて、所々錆びたベンチだった。
私は無言でポケットからスマートフォン、そしてイヤフォンを取り出し、それを装着する。バスが来るまで、そしてバスが来てからは、こうやって周りの音を遮断して、自分が好きな音楽の世界に入り込む癖がついていた。
普段だったら、洋楽とか、J-POPとか、有名だったり、有名でなくても気に入ってたりするアーティストの歌を聴いていたのだが、ここ最近は違っていた。
例のブログ、「Rain」。そこにアクセスし、そこの音楽を聴く。ここ数日は、ずっと「Rain」、つまり黒崎の音楽の虜になっていたのだった。黒崎の音楽は、色々あるが、特にお気に入りだったのは、最初に聴いた「暁の空」。初めて聴いたときの衝撃は、何度聞き直しても忘れることはなかった。
「……」
私は、最初はこの音楽の旋律に一生懸命耳を傾けていた。2分程度、この音楽に集中する。
2分経過するのは、あっという間だった。
すぐにこの音楽は終了し、代わりに雨の音がイヤフォン越しに聞こえてくる。私は自然と、「もう一度再生する」ボタンをタップしていた。
「――」
誰もいないだろうと思った。
「――、――――」
だから、私は、喉を鳴らして。
「――――、――――。 ――、――――、――」
この歌詞のない歌のメロディーを、表現していた。
「……」
曲が終わり、ふぅ、と溜息をつく、その瞬間。
「……素敵な歌ですね」
イヤフォン越しに、声が聞こえた。
私は反射的に、そちらの方を向く、そこには。
人が、いた。真っ黒なパーカーを着た、黒髪の若い男性、だった。
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