1.New days are boring(7)

 そういえば、とチャットの手が止まる。

 今見ていたブログ、「Rain」。この場に出してもいいだろうか。そう考えたが、私は今は保留にしよう、と心の中でNGマークを出した。

 いずれこのブログは見て貰うことになるかもしれないけれど、今は自分一人で見ていたい。まだ、「暁の空」を聞いただけだし。まあ、その日が来るのかどうかは定かでは無いが。

 チャットは進む。


>餅月静夜:それはそうと、アルさん。高校入学した感想は?

>Albert:え。感想ですか?

>餅月静夜:そうです!あ、目標でもいいですよ。高校入ったらこういう事してみたいなーとか、何かあるんじゃないかなって!

>Albert:うーん、そうですね……。


 しばし、沈黙が流れる。

 感想は特にないし、目標は言ったところで……って感じはするが、とりあえず何も言わない事は礼儀に反する、と私はキーボードに手を置きながら思考を巡らせる。


>Albert:感想は、思ったよりも感動しなかったです。

>餅月静夜:え、そうなんですか?

>Albert:確かに、見えているものは新しい景色なんですけど、

>Albert:それにワクワクする程浮かれてはいなかったのが正直なところです。

>餅月静夜:ふむふむ

>Albert:まあ、景色も慣れますし、こんな感動味わえるの今だけなのかな。と思いまして。

>餅月静夜:うーん……

>餅月静夜:一つ、言っていいですか?

>Albert:はい?


 なんだろう、と私は続く餅月さんの言葉を待った。


>餅月静夜:確かに感動を味わえるのは今だけかもしれないですけれど、

>餅月静夜:その一瞬だけの感動さえも感じないってのは、ちょっと勿体ない気もするんですよ、

>Albert:ふむ。

>餅月静夜:なんか、聞いてると、感動しないっていうより、アルさんは「感動を感じたくない」って思ってる様に見えてしまって、

>餅月静夜:そういうの繰り返してると、本当に好きな物も好きじゃなくなりますよ?


 ……私は、増えていく文字をじっと見つめる。

 全く、この人はテンションが高い癖に痛いところを突いてくる。


>Albert:確かに、そうですね。

>餅月静夜:過ぎたことを言ってるかもしれないです、けど、アルさんは無理して感動しない選択をしなくてもいいんじゃないかなって、私はそう思います!

>Albert:まあ、そうですね。感動したところで感動が失われる。それは諦めと怖さが混じってるのかもしれません。

>餅月静夜:諦めと怖さ?


 私は、一つ溜息をついた。

 こういう話をするのは、あまり好きでは無いけれど、でも、流れ上仕方が無い。


>Albert:「どうせこの感動も味わえなくなる」、そう考えてしまうんですよね。

>Albert:その裏側には、感動したことに感動できなくなる事が、怖いっていうか。

>餅月静夜:そうですか……

>餅月静夜:アルさん

>Albert:はい。

>餅月静夜:アルさんは、音楽、好きなんですよね、特に作るのが

>Albert:それは、勿論。

>餅月静夜:その情熱が、失われた事、ありますか?

>Albert:それは、無いです。胸を張って言えます。

>餅月静夜:3年?4年?くらいの付き合いですけれど、アルさんはずっと曲を作ってて、凄いなって思うんです

>餅月静夜:で、今までの4年間、ずっと好きだったんですよね?

>Albert:はい。

>餅月静夜:だったら、これからも好きだし、感動を味わえると思います!


 ……この文章を見て、私は心の中でやれやれ、と呟いた。

 呆れるほどにポジティブだけれど、それでも……勇気をくれる文章だった。ほんの、少しだけだけれど。


>Albert:未来は、分かりませんし、これからも好きでいる確証はないと思いますけれどもね。

>餅月静夜:確かに、ずっと好きでいられるか。ずっと感動を味わえるか、確証はないです

>餅月静夜:だけど、今まで好きだったんだから、これからも好きでいられると思いますよ!

>Albert:……そうですね。ありがとうございます。

>餅月静夜:アルさんは、我慢しないで好きな事を見つけて追ってみるといいかな、って思います!

>Albert:はい、考えてみます。

>Albert:ありがとうございました。

>餅月静夜:いえいえ(´ω`*)


 ……この人は、曲がりなりにも、私を心配してくれる。

 この言葉を信じるあたり、私も単純だな、なんて思ったのだった。

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