1.New days are boring(6)

 最近の投稿は、今年の3月28日だった。


Date:20XX/3/28

Title:「3時間ほどで。」

Text:「即興の歌、作りました。歌詞はないですが。久々の即興作曲、タイトルは「暁の空」。聴いていって下さい。」


 ……そして、動画へのURLが貼ってある。

 なんと、短い文章だろう。

 つまるところ、この黒崎、という人物はこうしてこの場で曲をアップロードしているのだろう。何気なく、黒崎……男性、と書いてあったので、彼と呼ぶことにしよう。彼の曲を聴く為に、動画へのURLをクリックする。

 動画のサムネイルは、日が昇る瞬間だろうか。それを捕らえた朝陽の写真。そして、「暁の空」というタイトルの2分程度の曲があった。再生数や高評価の数は抜きんでて多い訳ではなかったが、どんな曲なのだろうか。……私は、「再生」をクリックした。

 結論から言うと、私は、聞き終わった後、暫く放心状態に陥った。

 朝の光を表すかのような爽やかなメロディライン。そして、伴奏のアコースティックギターをかき鳴らしていく。爽やかだけれど、それだけじゃない、悩みや不安も表現されているように感じた。これが、この黒崎って人の作風なのだろうか。

 3時間での突貫工事、だけれど、そうとは思えない程、ちゃんとした音楽を奏でていた。

 ……、こんなに近くに、こんな風に曲が作れる人がいるんだ。

 ふと、自分と比較してしまい、少しだけ心が曇る。……私の音楽は、質も今一だし、評価もされない気がして。


 ぴこん。


 その音がパソコンから鳴り、私は我に返る。チャットの入室音だ。


>餅月静夜がログインしました。


 私は慌ててチャットへの入力を行う。


>Albert:こんばんは。

>餅月静夜:こんばんはー!

>餅月静夜:アルさん、お久しぶりです! 中々忙しくて来られなくて……

>Albert:大丈夫ですよ。1週間程度来ない事なら私もやりますし。


 この、餅月静夜、という人は、まだ10代(おそらく年上)の女性、という事くらいしか知らないが、よく顔を出してくれる常連の一人だ。とはいえ、この会話から分かる通り1週間くらいご無沙汰していたのだが。


>餅月静夜:もしかして、アルさんの入学式って今日です?

>Albert:そうですね。

>餅月静夜:わー!!ご入学おめでとうございます!!

>Albert:ありがとうございます。私も成長し続けられるようにしたいですね。

>餅月静夜:アルさんの新作、待ってます!

>Albert:そう言って頂けると、嬉しい限りです。


 2人の間でテンションが大分違うように感じるが、いつものことだ。

 こうして褒められて、嬉しくない訳がない。……こういう人が一人でも居てくれるから、幸せなのだろうな、と思ってしまう。

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