1.New days are boring(3)
この日は、なんだかんだで慌ただしかった。
高校入学した際に行われる、全国一斉実力テスト、だかそういうのがあるとのことで、国数英の3教科のテストが行われていた。
入学して早々の試練、ただし霞ヶ丘高校から全国上位者が出るのはそう多くない。上位者を出す高校といえば、このあたりで言えば白女……白鴎女子高とかだろうか。
幸い、というか、生憎、というか、私はそんな全国上位者って奴には縁が無い。実力としても中の中、という所だろうか。それで父も母も何も文句を言わないから、まだ私の家は自由だな、と思う。少なくとも、葉月の家と比較したら、大概の家は自由だな、と思う。
葉月は、頭が良い。中学校の時に全国上位者に載ったこともある。ただ、それは地頭の良さというよりは、死にものぐるいで努力した結果なんだろうな、と私は思う。小中と塾に行って、遊ぶ時間も取れない時期があったくらいだから。
そんなに頭が良いなら、それこそ進学校とか行くのかな、と思ったけれど、結果として私と一緒の高校に居る。その理由は聞いてはいないが……まさか私が心配だから、とかそういう理由じゃあるまいな。
そこまで努力できる葉月を、羨ましいと思う反面、一から十まで羨ましがった事はなかった。何故なら、葉月にとって、「成績をあげること」は手段ではなく目的だから。
成績に限った話ではない。規則正しく、レールに沿った行動を取り、安定した人生を送る。葉月に取っては、それが目的だった。
私は、それが気に入らなかった。
そんなの、絶対楽しくない。自分の意思で動けない人生なんて、色の無い人生に決まってる。けれど葉月にとっては、それ以外の人生が想像つかない様だった。それは今まで接してきて、分かる。だから、私は時折その不快な感情をぶつけるかのように「石頭」だなんて呼んでいる。面白半分で言っている時もあるけれど。
私にとって、憧れというのは、葉月の様に良い人生を送ることじゃなくて、自分のやりたいことをやれる人生なんだな、と葉月を見てつくづく思う。……そして、私にそんな力も勇気もないんだろうな、と諦めた考えに至るのが、いつものパターン。
本当に私が夢を追いかけると言い出したら、両親は、葉月は、なんて言うんだろうな。何を言われるか分からないから、怖いんだけれど。
「有遠、そろそろ片付いた?」
そんな私の思考などお構いなしに、葉月は私に話しかけてきた。
今はもう実力テストも終了し、帰るだけ。マイペースに道具を片付けていた私に葉月は話しかけてきたのだった。
「もうちょっと。 終わったらもう帰れるけど」
「……って、まだ帰っちゃダメでしょ」
「なんで?」
私は首を傾げてみせる。そんな私を見て葉月はまた呆れような口調で言ってきた。
「部活動見学! 折角やってるんだから見ていかないと」
……あぁ。部活ね。嫌、担任の先生がその事を話していたのは知っていたけれど。
「……いいよ、別に。私帰宅部でも」
「ちょっと、そりゃ無いでしょ。 高校生たるもの部活くらいやっておかないと」
「……そういう葉月はもう決めてるの」
「いや? でもそのうち見つかるでしょ」
そう。見つかるといいね、なんて他人事の様な台詞を投げかける。多分、見つからないか、見つかっても何処かで躓くと思うけど。そんな、酷い事も考えていた。
「とりあえず、色々見ないことには始まらないし。行こう?」
「……分かった」
「ホント、乗り気じゃなさそうだな」
悪かったな、乗り気じゃなくて。
私は鞄を背負い込むと、渋々葉月と共に教室を後にした。
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