第10話

「……あー、やべえ、家の戸締り忘れてたわ。 わりーんだが、一旦家戻るわ」




「へ?」




 俺は小走りで小屋から飛び出し、急いで船のチケットを買って乗り込んだ。


冗談じゃねえぞ!


何が核爆弾だ。


何で俺がそんな世紀末戦争に巻き込まれなきゃならねえんだ。


アヤベさんから貰ったこの手切れ金50メニーで、できるだけ遠くへ逃げるんだ。


メインステーションから電車を使えば、かなり遠くまで行けるハズだ。


船が到着すると、ビルの隙間を縫って地下へと延びる階段を降りる。


閉鎖的な空間に出ると、券売機でメインステーションまでのチケットを購入して、ゲートを手で押して地下鉄を待つ。


この数日で、随分ここでの生活も慣れたもんだ。


最初は徒歩で徘徊してたのも、地下鉄を使えば簡単に移動できるって分かったし、思ったより、治安も悪くねえ。


そんな風に、ここでの生活を受け入れ始めた時だってのに、この事態だ。


物事ってのは、うまくいかねえ。


だが、俺はこの世界で生きていかなきゃならねえ。


逃げた先だって、言葉は通じねえだろうしな。




「やってらんねえぜ……」




 メインステーションに到着すると、地図の貼ってある場所に向かう。


とにかく遠くへ行きたい。


幸い、行き先は番号で表記されている。


ここの世界でも数字はアラビア数字の為、俺でも分かる。


見た感じ、109ってのが一番遠くの目的地っぽい。


俺は、109に向かう電車のホームへと向かった。


















 ディオンは、観光客のスマホの画面に飛び込んで、移動する機会を伺っていた。


これで、この持ち主がラインを誰かに送れば、それに乗って移動することができる。


しばらくして、その持ち主がラインを受信した。


文面はこうだ。




「今、コンサートホールの中」




 持ち主の女性が返信を送る。




「マジ、写真送って!」




 ディオンは、その返信メールに乗って、相手の携帯に移動した。


そして、そこから飛び出す。




「きゃあっ」




「……ここは、コンサート会場? 超ラッキーじゃん」




 今日、ここで人気アイドルのコンサートが行われる。


会場内にはたくさんの人が紛れており、ディオンにとっては願ってもない状況である。


開始5分前。


会場はほぼ満席だが、空席もある。




「ちょーっと、すいませんねえ」




 ディオンは、人ゴミを抜けてその空席にやって来ると、何事もなかったようにそこに座る。


照明が消えて、ステージが明るくなると、アイドルのメンバーが現れた。


客が総立ちになって歓声を送る。


おもむろに、ディオンは指を手に突っ込んだ。




「オエエエエエエエエエエエエエエエッ」




「……キャアアアアアアアアアアアアアッ」




 口の中から、大量に虫が吐き出され、それが客席のファンにまとわりつく。


ムカデや、ゴキブリのような害虫が、足やら腕にまとわりつく。


一瞬で会場は、パニックに陥った。




「何なのよっ、コレ!」




 負の感情が、一気に蔓延した。      


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